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第59話

「こちら、うちのお庭でとれたお花の葉で作った紅茶です!」


「どうもありがとう、喜んで頂くよ」


 伯爵家での一件からしばらくの時が経過したある日の事、セイラから差し出されたティーカップを受け取り、その香りと味を楽しむ騎士の姿がある。結局セイラのもとに現れたのは…


「…なんだか、こうしてオクト様と二人きりでのんびりとお話ができるのは、初めてな気がします…。ちょっと照れますね…!」

「(っ!!!)」


 これまでは基本的に、凛々しく逞しく振る舞うセイラの姿しか見ていなかったオクト。やや頬を染め、いつもよりも小さな声でそう言葉を発する彼女の姿を見て、彼は自身の心臓が飛び跳ねる感覚を覚える…。


「(…タ、タバコタバコ……)」


 オクトは高鳴る鼓動を抑え込もうと、いつものように自身の懐からタバコを取り出す。…が、セイラに会えるということに舞い上がってしまったのか、普段なら絶対に忘れることのないマッチ箱を今日は部屋に忘れてしまった様子…。


「……ふふっ♪」

「??」


 タバコを口にくわえたまま、体中をそわそわとまさぐりはじめるオクト。普段からは全く想像できないその姿がなんだか可愛らしく思えたのか、セイラはクスッと微笑んだ。

 そしてセイラはオクトの事情を読み取ったのか、ニコニコとした表情のまま彼の言葉をかけた。


「マッチですか?よかったらお付けしますよ♪」


 セイラはそう言うと、部屋の中に置いてあった小物入れからマッチ箱を取り出し、たばこをくわえるオクトのそばまで近づいて行った。そしてそのままマッチに火をつけると、大切なものを扱うような丁寧な手つきでオクトの口元へマッチを近づけた。

 …当然、二人の距離はかなり近くなる。二人とも表情にこそ出さないものの、その内心では内臓が飛び出してしまいそうなほどの感覚を感じていた。


「…フーーー…。助かったよ、ありがとう」

「どういたしまして♪」


 誰の目にもいい雰囲気の二人…。しかしそんな二人の事を、窓越しに外から見つめる人物の姿があった…。


――――


「あーー!!あいつセイラにあんなに近づきやがって……!!」


 草むらに隠れ、部屋の中の様子をうかがう一人の男の姿。楽しそうな様子の二人とは正反対に、なにやら恨めしそうな表情を浮かべている。


「…団長のやつ、新人の俺に本気で切りかかってきやがって…。おとなげなさすぎだろうよ…!!」


 外から二人の事を観察するのは、オクトとの決闘に敗れたターナーであった。セイラのもとに向かう任務をかけて決戦を行った二人だったものの、やはりオクトの実力にはかなわなかった様子…。しかし静かに待っていることもできないので、こうしてオクトの動きを外から監視しているのだった。


「セ、セイラの気に入りそうな喫茶店や花屋までリサーチして、あとは本人と話すだけだったというのに…!まったく余計なことを!」

「セイラの気に入りそうなもの!?ぜひ詳しく教えてくれ!」

「どわっ!!」


 突然背後から大きな声をかけられ、ターナーはその場にひっくり返ってしまう。


「あぁ、驚かせてすまないな。…おっと、君は確か前にもここに来ていたね?」

「…(こ、こいつ…。俺ともあろうものが、全然気配に気づけなかった…。やはりセイラの兄だけあって、ただものではないということか…)」


 やや驚いたような表情を浮かべるターナーに対して、ラルクは残念そうな表情を浮かべ、前回と同じく今回もまたターナーの隣に腰を下ろした。


「…俺に何か用か?冷やかしなら帰ってくれよ」

「はぁ…。僕は君と同じだとも…」

「…??」


 ラルクは悲しそうにそう言葉を発すると、数時間前の事をターナーに話し始める。


――――


「今日はオクト団長がここに来られるのだろう??ぜひとも彼に見てもらいたいものがあるんだ!」

「はぁ…。なんですか?」

「これだとも!」

「っ!!!!」


 刹那、ラルクはセイラによって蹴り飛ばされ、気づいた時にはその体は屋敷の外へと投げ出されていた。


――――


「い、いったいなにを見せたんだ…?」

「僕がいかにセイラを愛しているかという思いを、文字にしてすべて書き起こした!5時間くらいかかったけれど、僕たちの関係を騎士様に理解してもらうにはそれくらいのこと!」

「(………前言撤回。ほんとにこんな気持ち悪いのがセイラの兄なのか…?)」


 瞳をキラキラと輝かせるラルクと、そんな彼のことをあきれた目で見つめるターナー。なお、ターナーがラルクに向けた目は色紙を見せられた時のセイラと全く同じものだった。


「用がないならどこかへ消えてくれ。俺は今、天敵の監視で忙しいんだ」

「なぜ天敵なんだい?同じ騎士なのだろう?」

「うるさい!お前には絶対に言うものか!」

「はぁ…。セイラの事が好きなら、僕のように堂々と言えばいいものを」

「うるさーーーい!!!お前と一緒にするな!!!俺には俺のやり方があるんだ!!」

「はいはい(笑)」


 ラルクがいつもの軽口でターナーの事をいじり、ターナーがそれにキレ散らかす。二人はそんな調子で会話を繰り返し、結局は一緒になってオクトとセイラの様子を観察するのだった。


 …そしてほどなくして、二人のもとに第三の人物があらわれる。


「なんですかなんですか!私も混ぜてください!」

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