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第51話

「ラ、ラルク様!!!」


「な、なに??どうしたの??」


 シャルナはまっすぐな瞳でラルクの事を見つめる。…今、目の前にいるラルクこそが、自分の運命の相手に違いない。心の中にそう確信したシャルナは、意を決してラルクに対し言葉を発した。


「あ、あの……わ、私…私、ラルク様の……ラルク様の事が……」


 …それまで異性と付き合うことはおろか、関わることさえまともになかったシャルナ。彼女にとってその言葉を発するのは、相当に勇気のいることだった…。体中のありったけの力を奮い立たせ、ラルクの目を真剣に見つめ、ついにシャルナはラルクに対して告白の言葉を……


「失礼します。ラルク様、セイラ様、お客様がお見えでございます」


 …シャルナの告白の言葉は、知らせを持ち込んだ召し使いの登場のために途中で遮られてしまう。シャルナはとっさに自分の言葉をひっこめ、たった今自分がラルクに告げようとしていた言葉を頭の中に想像し、一人その顔を赤く染める。


「(わ、私ってば急になんてことを…/////)」


 そんなシャルナの様子を横目で不思議そうに見つめながら、ラルクは使用人に対して言葉を返した。


「まさか……シャルナ様を追ってきた者たちがもうここまで…?」


「「っ!?」」


 ラルクの推測に、二人の体にも緊張が走る。


「い、いえ…。カタリーナ家の方ではなく、ファーラ伯爵家のノドレー様というお方だそうですが…」


「ノ、ノドレー…??セイラ、誰だか知っているかい?」


「さぁ…。会ったことあるかなぁ…?」


 かつてセイラとファーラ伯爵が婚約関係にあったころ、陰からこそこそとセイラの悪口を言っていたノドレー。性格だけでなく存在感も暗かったためか、ノドレーは全くセイラに覚えられてもいない様子だった。


「どうするセイラ?追い返すかい?」


「そんなまさか(笑)せっかくここまで会いに来てくださったのですから、お相手しましょう♪」


「そうこなくっちゃ♪」


 息ぴったりな様子の二人は、そろってノドレーを受け入れる体制を整え始める。そんな姿を呆然と見つめていたシャルナは、その心の中につぶやいた。


「(す、すごい……。家出した後に家の人が追いかけてきたら、私なら絶対に会いたくもないけど…。や、やっぱりこの人たちってただものじゃないんじゃ…)」


 そしてノドレーが屋敷の中に通された。シャルナのみ別室に退避し、セイラとラルクの二人がノドレーを部屋の中へ招き入れた。


――――


「お久しぶりですね、セイラ様。長らくお会いできなかったこと、私は大変心苦しかった…」


「は、はぁ…。(お、お久しぶりってことは、前に会ったことあるのかぁ…。困った、本当に全然記憶にない…)」


「…私はずっとずっと、自分の心に罪を背負って生きてきました…。周りの事など考えず、傍若無人なふるまいを繰り返す伯爵様…。セイラ様がせっかく勇気をもって反旗を翻してくださったというのに、私は全くそれに続くことができなかった…。そのことを、ずっとずっと悔いておりました…。しかし、今は違います!私は決心したのです!私もまたセイラ様の意志を受け継ぎ、伯爵様に反旗を翻そうと!今私がこの場にいることこそ、そのなによりの証拠!!」


 まるで政治家の演説のように、自信満々な強気の口調で言葉を連ねるノドレー。そんな彼の演説を聞いて、セイラとラルクは互いに視線を合わせて目で会話を行う。


「(…ねぇセイラ、この人いったい何を言ってるの…?)」

「(…まったくわかりません…。そもそも何をしに来たのか…)」


 しかしノドレー本人は謎の手ごたえを感じているらしく、今が絶好のタイミングだと考えた彼はついに用意していた言葉を発した。


「はっきりと申し上げましょう!セイラ様、この私をあなた様のお味方としていただきたいのです!ともに伯爵様と戦う決意をした者同士、絶対に私とあなたの気持ちは同じものであるはずです!」


「えぇぇ…」


 自信満々なノドレーの様子を見て、顔を引きつらせるセイラ、そしてどこか頭を痛そうにするラルク…。そんな二人の姿を見てもなお、ノドレーは自分の計画の達成を確信していた。


「(この反応を見るに、私という大きな味方ができることに興奮している様子!それに気弱なセイラならば、この私の申し出を断ることなど絶対にできないはず!今に見ていろよ伯爵め、すぐにその座から引きずりおろしてやるとも!)」

「あの、お断りします」

「…………は?」


 …全く想定していなかった返事を前に、ノドレーはありえないほど素っ頓狂な声を出してしまう…。


「あなたの無駄に大きな声のおかげで少し思い出してきましたけれど、確かあなたって周囲の人をだましてまで伯爵様に取り入ろうとしていましたよね?」

「…」

「それに確か、魔獣のあらわれた場所にあなたいましたよね?」

「(ギクッ!)」

「今日ここに来たのは、人に頼まれたことを断れない気弱な私なら、伯爵の名前を出せば簡単に自分の手をとってくれるだろうと考えたからですか?ちょっと甘いですねそれは…」

「な、なんだとっ!?」


 協力を渋られることまでは想定していたものの、まさかここまで一方的に拒否されるとは思ってもいなかったノドレー。彼は自分のプライドを傷つけられた怒りのままに、セイラに食い掛り始める。


「じ、自分が何を言っているのかわかっているのか!私は伯爵様に仕えて幾十年にもなる!そんな私の申し出を断るというのか!捨てられた女のくせに生意気なことを言うな!」

「えっと…。その捨てられた女に助けを求めてきたのは、あなたの方でしょう?」

「う、うるさいだまれ!!」


 頭に血を登らせたノドレーは、湧き上がる感情のままにその手を振りかざし、セイラに殴りかかろうとたくらんだ。……ものの、それと同時に横で静かに控えていたラルクがノドレーの前に立ちふさがる。


「ククク…。みじめですねぇノドレー様。お認めくださいな。あなたはセイラに完全にフラれたのです。…やはり彼女の心をつかむには、僕のように純粋無垢で優れた人物でなければね♪」


 この上ないどや顔を披露し、ノドレーをあおるラルク。その表情はそれはそれは楽し気なものであった。


「わ、私には魔獣を生み出す力があるのだ!その気になればお前たちなど」「おぉ、そうでしたか!」

「!?」

「あの魔獣はあなたが生み出していたのですか!いやいやなんと愛らしい姿をしていまして、この僕がほんのひとひねりするだけで消えて行ってしまいましたよ♪」

「は、はぁっ!?」

「(お兄様……。魔獣を見て一瞬で気絶してたくせに……)」

「ま、まぁ僕にはいろいろと事情がありましたので、僕の代わりにセイラが魔獣を退治していたわけですけれど、その気になれば僕にだって楽勝で片付けることができますよ?♪」

「お、おのれおのれ…!!(こ、この場においてこの男が嘘偽りを言うとも思えない…!つまりこの男の言っていることはすべて本当で、私の生み出した魔獣などひとひねりであると言っているのか…!く、くそう!この私がこんな奴らに撒けるなど…!)」


 ラルクが見せたこの上ない極上のどや顔は、ノドレーの神経を逆なでするには十分だった様子。


「こ、この私にこのような屈辱を…!お、覚えていろ!後から泣きついてきても知らないからな!」


 自分の方が泣きそうな表情を浮かべながら、ノドレーは足早に敗走していくのだった…。


「…次に魔獣を見かけた時には、お兄様にお相手をお願いすることにしますね♪」

「そ、それは勘弁してお願いなんでもするから…」

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