第42話
ターナーが向かっている伯爵家。そこではファーラ伯爵とノドレーが会話をしていた。
「けっ…。なにやら騎士団の者がこの伯爵家に向かっているとのことだ」
「さ、さようでございますか…(ほーーーら言わんこっちゃない!!!やっぱりあの手紙のせいで騎士たちから睨まれているんだ絶対!!!)」
ノドレーは内心で伯爵の事を張り倒したいほどの感情を湧かせたものの、なんとかそれを体の中に押しとどめる。
「は、伯爵様、もしかしたら、やはり騎士の者たちは伯爵様とこれからもよい関係を築きたいと考えているのでは…?」
「いや、それはない。なんでも今回は団長自らのお出ましでなく、新人の騎士を向かわせるとのこと…。…まったく騎士の奴らめ、セイラとの婚約破棄の事で少し調子に乗っているようだな…」
「(し、新人騎士って………ま、まさか……)」
魔獣たちがばったばったとなぎ倒されていく様をその目で見ていたノドレーには、新人騎士という存在に心当たりがあった。…ほかでもない、セイラやオクトと肩を並べるほど魔獣の退治にあたっていたターナーの存在が…。
「(こ、このまま二人を会わせてしまったらまずい!これまで隠し続けてきた魔獣の戦いのすべてが、伯爵様にバレてしまいかねない…!し、しかしかといって私が対応するのもまずい…。もしかしたら魔獣を召還する過程で、顔を見られているかもしれない…。魔獣生成の犯人が私だとバレたなら、それこそ一発アウトというもの…!)」
ノドレーが現状を憂いている間も、伯爵は意味のない愚痴を繰り返し吐いていた。ノドレーはそんな伯爵の言葉を適当に流し、なんとかこの状況を乗り切れる案はないものかと頭をフル回転させていた。
そんな時、二人が話をしていた部屋の扉が不意に開かれ、第三の人物が姿を現した。
「レリア、どうしたんだい??」
「ごめんなさい伯爵様、盗み聞きをするつもりはなかったのですけれど、話が聞こえてしまったもので……(まぁそんなのは嘘だけれど)」
「そ、そうだったか…。いやいや、君が心配する事ではないさ。騎士たちが何を言ってこようが、この僕がきちんと力関係を分からせて、最後には僕らの前に跪かせてやるとも!」
「そのことなのですけれど……伯爵様、よろしければその騎士様の対応、私に任せてはいただけませんか?」
「レ、レリアが…?」
彼女の言葉を聞いて、キョトンとした表情を浮かべる伯爵。その一方で、ノドレーの方はなにやら不審げな目を彼女に向けていた。
「少しは私も伯爵様のお役に立ちたいのです……。訪れる騎士様が新人のものなら、わざわざ伯爵様が当たる必要もないかと思いますし…。だ、だめでしょうか?」
上目遣いでそう懇願する彼女を前にして、伯爵がノーを出すことなどできるはずもない。
「そ、そんなにこの僕の事を想って…!わ、分かったよレリア、騎士の対応は君に任せることにしよう」
「ありがとうございます伯爵様!!精一杯がんばらせていただきます!!」
レリアはそう会話をしたのち、伯爵の方へと向かって行きその距離をゼロにした。これから二人の世界が繰り広げられるであろうことを察したノドレーは、二人に対し静かに一礼し、その部屋を後にしていった…。
部屋の扉を丁寧にしめ、彼は心の中で考えをつぶやいた。
「(レリア様の事だ…。きっとなにか裏の考えがあるはず……。が、今は彼女に対応してもらうのが一番無難であろう…。ここは彼女がうまくやってくれる事を信じるしかないか…)」
ノドレーは自分自身にそう言い聞かせたものの、当然レリアがただ伯爵に着くすべく仕事を増やすはずなどない。彼女はその心の中に、まったく別の事を考えていた…。
「(伯爵様がどうなろうと知らないけれど、私は騎士団との関係は良好なものにしていたいもの♪最終的に私は、相思相愛にあるオクト団長との婚約を結ぶことになるのだし、余計なトラブルの可能性は事前に摘んでおくべきよね♪………そして、私の事を受け入れなかったラルクにセイラ、二人に復讐するためにも、騎士様との関係は良いに越したことはないもの)」
気持ちを切り替えつつある伯爵とは違い、レリアはいまだに食事会の一件を根に持っていた。……それほど彼女を羞恥させるには十分な刺激だったのだろう……。




