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第41話

 ファーラ伯爵の書いた手紙は、この国に住まう様々な貴族や騎士たち、果ては一部の王族たちにまで送られた。その内容は至極単純で、『最近魔獣の出現に困っているだろう?伯爵であるこの僕に協力するというなら、その退治に協力してやってもいいぞ?』というものだった。

 その手紙を受け取った人々の反応は、以下の通り…。


「いたずら手紙か??なんだこれ??」

「魔獣??そんなものどこにいるんだ??」

「差出人はファーラ伯爵じゃないか…。一体なんのつもりで…」

「あーあ…。あの食事会を経て、ついに伯爵壊れちゃったんだ…」

「それくらいフラれたショックが大きいってわけね。きっとまだ立ち直れていないんだわ(笑)」


 伯爵本人の知らないところで、見るに堪えないほど恥ずかしい反応をされているわけだが、そんなこと当の本人は知る由もない。しかし魔獣退治の真相を知る一部の騎士たちは、違う反応を見せた。


「ガラル、この手紙をどう思う?」

「オクト団長、これはもう決まりでしょう!魔獣の存在は全く世間に知られていないというのに、わざわざ自分からこんな手紙を差し出してきて…。魔獣の存在を知っているという事は、魔獣召喚の真犯人は…!」

「あぁ、同感だ。だが…」

「う…」


 オクト団長とガラル副団長は、一周回ってその頭を悩ませていた。こんな愚かとしか思えないミスを、伯爵ともあろう男がするだろうかと…。


「伯爵様はなにか勘違いでもされているんですかねぇ…?この文面を見るに、生み出された魔獣によって国中が蹂躙されているかのように思われているようにも見えますが…」


「あぁ…。そんな強大で恐ろしい魔獣の攻撃から助かりたいなら、自分のもとまで助けを乞いに来いと…。さて、これをどこまで本気で言っているつもりなのか…」


 すべては伯爵の盛大な勘違いから来ている、と言う可能性など浮かぶはずもなく、二人の会話はそこでいったん途切れる。

 そしてオクトは、ある人物を伯爵家へ様子見として向かわせることを考えた。


「ターナーを向かわせよう。あいつなら適任だろう」


「ターナーですか?命じて頂ければ、僕が行きますが…」


「いや、我々が行ったら妙な警戒をされかねない。新入りのターナーならば、きっと伯爵も警戒心を解くことだろう」


「なるほど、確かにそうですね…」


「それにあいつの性格は、伯爵を揺さぶるにはぴったりかもしれないからな。さっそく呼んできてくれ」


「了解です!!」


――――


「入りまーす」


 団長室に呼び出されたターナーの様子は、普段とはやや違っていた。いつもなら新人らしからぬ、けだるそうな態度を浮かべているというのに、今日はどこか期待感を持ったような表情を浮かべていた。

 オクトはそれには触れず、淡々と命令を下そうとしたものの、ガラルの方は触れずにはいられなかった様子。


「ターナ君、期待してる!?もしかして告げられる任務がセイラ様関係なんじゃないかと、期待してる!?」


「「(っ!?)」」


 それはターナーをからかうために発された言葉だったが、なぜかオクトの方もその心臓をドキッとさせた様子…。

 しかし二人とも強き騎士だけあって、その表情には動揺を出さない。


「セイラがなんだって?そんなもの俺には関係ないな」

「おい、騎士として守るべき存在を呼び捨てとはどういうつもりだ」

「さあね。セイラはセイラじゃないか」

「…」

「…」


 妙な緊張感が部屋を包む。本来ならガラルが場の緊張を和ませるべきなのだろうが、この空気を面白がった彼はもう一段踏み込むことを選んだ。


「なるほどなるほど…。つまりターナー君は、呼び捨てできている自分の方が、オクト団長よりもセイラ様との距離を縮められていると、そう言いたいわけですね?」


「「っ!?」」


 にこにことした表情で言葉を発するガラルとは正反対に、二人は再びその心を動揺させる…。

 が、次の瞬間には何事もなかったかのようにオクトはタバコに火をつけ、ターナーは腕を組んでそっぽを向き、なにも動揺していませんよとアピールする。


「(本当はもっと二人をからかってあげたいところだけれど…。さすがにもうやめておこうか…(笑))」


 ガラルは咳払いをして呼吸をととのえ、あるべき話題へと会話を戻したのだった。


――――


 オクトの命を受けたターナーは一路、ファーラ伯爵家を目指していた。この命令を告げられた時、セイラに関する者ではないのかと残念そうな表情を一瞬だけ浮かべたものの、今やどこにもそんな雰囲気はない。


「(やれやれ…。なんで俺がこんな面倒な事を…)」


 けだるそうにそう思うターナーだったものの、向かう先である伯爵家はセイラとは切っても切れない関係にある。その一点にやる気を見出しながら、その足を進めるのだった。

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