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第27話

「みなさま、本日はこのファーラの名のもとにこの食事会にお集まりいただいたこと、こころから感謝申し上げます!」


 食事会場の中央に設けられた大きな壇の上にファーラ伯爵が上がり、挨拶を始めた。それまで雑談に花を咲かせていた貴族関係者たちも、その会話をやめて一斉に伯爵の方へと視線を移す。

 それと同時に伯爵もまた、参加者たちの顔ぶれをぐるっと見回し、その中にセイラの姿があることを確認した。


「(よしよし、ちゃんと来ているな。ここまでは計画通りだ。…セイラ、この僕がこの場でレリアとの婚約を決定したと発表した時、いったいどんな絶望の表情を見せてくれるのか、今から楽しみだとも…♪)」


 伯爵は一度深呼吸をしたのち、人々に対して言葉を続けた。


「さて、皆さまに本日お集まりいただいたのは他でもありません。栄光ある伯爵位を持つこの私の婚約相手が、このたび正式に決まったのです!みなさまにはぜひとも盛大に祝っていただきたい!」


 高らかにそう言い放った伯爵に対して、パチパチパチパチと大きな拍手が送られる。


「おめでとうございます伯爵様!!」

「そ、それで相手は一体誰なんだ…??」

「そりゃあもう、伯爵様の相手となるくらいなのだから、相当に愛らしく美しい人物に違いないとも…!」


 集められた人々は三者三様の反応を見せた。内心ではどうでもいいとは思っていながらも、伯爵の婚約相手がどこの誰なのかは気になる様子。


「(セイラ、そこで見て泣くといい!)僕の婚約相手は……そこにいるレリアとすることに決めた!ここで皆様に紹介しよう!」


 伯爵の声と共に、壇の近くに控えていたレリアが動き始める。カツカツとヒールの音を鳴らしながら上品に歩くその姿に、ここに集まるすべての男性陣は心を奪われる。


「め、めちゃくちゃ綺麗じゃん…」

「それにあの体…。たまらなすぎだろう…」

「あーあ…。伯爵ぐらいになれば、あんないい女を抱けるのか…。やってられないぜまったく…」


 レリアは男性陣から向けられる視線に快感を感じながら、伯爵の隣へと足を進めた。


「たった今伯爵様からご紹介をあずかりました、レリアといいます。本日はこのような素敵な食事会を開かせていただいたこと、そして参加いただいた皆様に、心から感謝させていただきます」


「そんな建前はいいとも!さぁさぁレリア、僕たちの愛の深さを見せつけてやろうじゃないか…!」


 伯爵はそう言いながら、隣に立つレリアの事を抱き寄せるべく自分の手を彼女の肩に回した。今すぐにでも彼女を胸元に抱き寄せて、口づけの瞬間をここにいる全員に見せつけたかったのだろう。…しかし…



 パチン!!!!!!


「っ!!??」



 しかしその手は、レリアによって強くはねのけられた…。当の伯爵はもちろんの事、その様子を見つめる全員に緊張感が走る…。


「…伯爵様、何か勘違いをしておられるようですけれど…。私が将来を約束した相手は、あなたなどではないのですよ?」


「なっ?!!?レ、レリア!いったい何を言っているんだ!」


 レリアは動揺を隠せない伯爵から、集まった人々の方へと視線を移し、言葉を続けた。


「皆様お聞きください。実はここにいる偉そうな態度をとる伯爵は、婚約者に逃げられているのです。その情けなさを隠すために、私との婚約を急ぎ発表したがっているだけなのです」


「「はぁっ!?!?」」


 それまで和やかだった会場の雰囲気は一転、突然のレリアの暴露により混沌とした様相を呈する。


「激しくみじめだとは思いませんか?伯爵位を持ち、女性の誰もが婚約をうらやむであろうファーラ様…。それなのに一方的に愛想を尽かされて婚約を投げ出されてしまうだなんて、よっぽど本人の性格が悪いのか、本人に魅力がないのか…(笑)」


「ぅ…ぁ…」


「しかもそれがライオネル上級伯爵様にバレて、泣きそうになるくらいに怒られてしまったらしいですね?いい歳して父親に叱られるなんて、私なら恥ずかしくてたまらないわぁ♪」


「ぅ…ぅ…」


 自身が溺愛するレリアの信じられない裏切りを目の当たりにして、伯爵は言葉も出ない様子…。


「もうずっと前からあなたにはイライラしていましたの。幼馴染だとか言ってべたべたくっついてきて、気持ち悪いったりゃなかったですわ。これからはもっと鏡を見て、あと自分の匂いにも関心を抱かれることをお勧めします、伯爵様」


「う、うそだ…。レ、レリアはそんな事をこの僕に言ったりはしない…。いつだってこの僕を甘えさせてくれて、味方になってくれて…。だというのに…。だというのに…」


 ありえないほどの修羅場を前に、集まった貴族関係者たちは絶句していたものの、一周回って楽しくなってきた様子。


「つ、つまり伯爵ってただただフラれちゃったわけ…?こんなに大掛かりなパーティーを開いておいて??逆にすごくない?」

「それも今回で二人目って事?さ、さすがにそれは…(笑)」

「ついさっきまであんなにうれしそうな表情を見せてたのにねぇ…」


 彼らの言葉は伯爵の心に深く突き刺さり、恥ずかしさで消えてしまいたくなったことだろう。しかしこの場から逃げ去るだけの気力は、すでになくなってしまっている様子…。


「うそだ…うそだ……」


 伯爵はその場に膝から崩れ落ち、壇上で両手をついた。そこにもはや伯爵としての威厳など、まったくかけらもない。


「…お兄様、私なんだか嫌な予感がするんですけれど…」

「そうかい?すっごく盛り上がってきたじゃないか!!」

「はぁ~…」


 打ちひしがれる伯爵の事など気にもかけず、レリアは壇上から降りある人物の元へと向かった。

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