第24話
遠くからじわじわと私たち元に近づいてくるその声。ついに声の主である二人が私たちの前に姿を現した。
「…!?」
「…な、なんだお前たち!!ここに何しに来た!!」
二人は一瞬のうちに懐に隠し持っていたナイフを手に取り、臨戦態勢をとる。その素早さから見るに、こういう手荒いことには慣れているのだろう。
「ふふふ…!やはり来たな僕の出番が…!みんな、僕の後ろに隠れているんだ…!すぐに決着をつけてやろうじゃないか…!」
指をポキポキと鳴らしながら、お兄様は自信満々に二人の前に立ちふさがる…。
「お、お兄様…。やめておかれた方が…」「さぁかかってこい!!!」
もう、それじゃ前と同じになっちゃいますよお兄様……。と心配した私だったけれど、なんと現実は違う方向へ向かっていった。
「お、おい…。こいつもしかして、一人でブルームたちを倒した”例の男”なんじゃないのか…!?」
「う、うそだろ…!?こ、こんなタイミングで遭遇するだなんて…!な、なんてついてないんだよ…!」
「ど、どうする…!?」
「た、戦うなんて俺には無理だぞ!!」
「じゃ、じゃあどうするんだよ!!謝って物だけ渡してもらうとでも言うのかよ!」
「そ、そんなことできるわけないだろうが!」
「(あ、あれ……?もしかしてお兄様の方が押してる……?)」
ついさっきまでの勢いはどこへやら、その体を震え上がらせる二人はその場に
立ちすくんで動けなくなってしまっているようだった。
「なんだいなんだい?この僕の圧倒的なオーラの前に、動くこともままならないのかい?かわいい子犬ちゃんたちだねぇ♪」
「「ひっ!!」」
右手で髪をかき上げ、自分の思うかっこいいポーズを披露するお兄様。ただただ痛い姿なのだけれど、それが彼らには別の姿に映った様で、二人そろってその表情を恐怖で染め上げた。
「に、逃げるぞ!!こんな奴に勝てるわけがねぇ!」
「おい置いていくな!!!ま、待てって!!!」
バタバタと音を立てながら、動物のような勢いでその場を逃げ出していった二人……。後に残されたのは、どや顔で決めポーズをとるお兄様のみ…。
「や、やっぱりすごい…!!ラルク様!あなたにお願いして本当によかった!!」
瞬く間にお兄様の周りには依頼人の人たちが集まり、お兄様はその真ん中で高らかに笑い声をあげている。
その光景にただただびっくりしていた私はその場にたたずんでいたものの、私の右手の袖を誰かにつかまれ、意識を戻した。
「ルナちゃん?どうしたの?」
「お、お姉ちゃん…。お母さまの指輪、まだ見つかってなくって…」
「あぁ、それってもしかしてこれじゃない?さっき見つけた金庫の中に隠されてたけど、ぶっこわしてやったわ」
「それ!!それだよお姉ちゃん!!!」
ルナちゃんはその表情をぱぁっと明るくし、私の差し出した指輪を受け取った。
「これでお母さんも喜んでくれるよ!!ありがとう!!」
「いえいえ、どういたしまして♪お礼はお兄様に言ってね」
「でもね、ルナ、知ってるんだよ!ほんとにすごいのは、お兄ちゃんじゃなくてお姉ちゃんの方なんでしょ!」
「へ??」
思いもしなかった言葉をかけられて、私は間抜けな声を出してしまう…。
「そ、そんなことないんだよ!お兄様がすごい人で、私は妹なだけだよ!!」
「えー絶対違うもん。私の女の勘がそう言ってるんだもん」
……もしかしてどんな弁明も、ルナちゃんの前では無意味なんじゃないだろうか…?私もまた、女の勘でそう思った…。
「そ、それじゃあルナちゃんはどうしてお兄様を好きになったの?」
「だってお兄ちゃん、強がってるところがかわいいんだもん!♪」
私はその時思った。この子は将来必ず、大物になるに違いないと…!




