第22話
レリアからの招待状に従い、私とお兄様は食事会に参加する準備を進めていた。
「心配はいらないよセイラ!きっちり僕が君をエスコートするからね!」
「期待はしていませんけれど、頼りにはしていますよ」
「なんかトゲがあるなぁ…。まぁいいや!衣装はこれでどうだろうセイラ!」
「ぶっ!!」
お兄様が目を輝かせながら持ち出してきたのは、大きなフリル付きのミニスカートメイド服、猫耳尻尾付きという、個人的な好み全開のドレスだった…。
「どこでそんなもの買ってきたんですか!!また無駄遣いしましたね!?」
「い、いやいや無駄なもんか!絶対セイラに似合うと思ってゴホッ…!!」
私は手元に持っていた冊子をお兄様の脳天めがけて放り投げ、無事にクリーンヒットした。お兄様は意味の分からない言葉を発しながら、その場に倒れこむ。
「そんにゃぁ…ぜったいににあうとおもってぇ…」
「絶対着ませんから。どうしても着たいならご自分でどうぞ」
「うぅぅ…」
お兄様の浪費癖にも困ったもの…と考えていたその時、お屋敷の扉がコンコンコンとノックされた。
「あぁ、僕が出るよ」
お兄様は勢いよく立ち上がり、姿勢をよくして扉の方へと向かっていく。…きっと、きれいな女性の訪問を期待しているのだろう…。
「はい、どちら様…で?」
結局私もお兄様の後についていき、扉の方へ視線を移した。そこには4人ほどの男性の姿と、一人の子どもの姿があった。
「ラルク様、突然におしかけてしまって申し訳ございません…。ですが、あなた様に頼るほかないのです…。どうか、お力を貸していただきたく…」
そう言葉を発した彼の表情は、それはそれは追い詰められた様子を浮かべていた。
「い、いったい何が…。そ、それに君は…」
お兄様が視線を移した先にいた子どもは、まぎれもなくあの日にお兄様と結婚することを約束した女の子だった。
「と、ともかく詳しい話は中の方で」
私たちは彼らを屋敷の中へと案内し、何があったのかを聞くことにした。
――――
「じ、実は…。かの3人組のことについてなのです…」
かの3人組…。あぁ、私をさらおうとして現れたあの3人組の事だ。
「ラルク様のご活躍により、あの3人によってこれまで連れていかれていた者たちはみな帰ってきたのですが、まだ戻ってきてないものがあるのです…」
「戻ってきてないものですか?」
「お母さんの、指輪…」
消え入りそうな悲しい声で、女の子がそう言葉を発した。それに続いて、他の人たちも…。
「アクセサリーや宝石、皆がそれぞれ命より大切にしていた、思い出の詰まった大切な宝物たち…。それがいまだ戻らないままなのです…」
「ふ、ふむふむ…。それらを探し出してほしいと?」
「いえ、そうではないのです…。彼らが住処にしているアジトの場所はもう分かっているのですが…。その…」
なるほど…。場所こそわかっているけれど、そこに行っても逆上した彼らの手によってひどい目にあわされるかもしれない…。だからこそ、3人を破ったというお兄様に一緒について行ってほしいという事なのだろう。
「む、無理なお願いであることは承知なのですが…。ど、どうかお手伝いいただけませんでしょうか…?」
彼の声を聞いて、お兄様はその手を腕組みし、両目を閉じてうーんとうなっている。ほんの少しの静かな時間が経過した後、お兄様は笑みを浮かべて答えを発した。
「無理ですね!だって僕本当はぜんぜ」「お兄様!!!」「ひっ!!!」
弱気なことを言おうとするお兄様の言葉をねじ伏せ、私は圧力をかけていく。
「お兄様の力を必要としてくれている人がいるのですよ?そんな気持ちを裏切られるのですか?まさかあれだけラブレターにお書きになっていたお兄様の正義は、そんなにもうっすいものだったのですか?それならがっかりですよ本当に」
お兄様だけでなく、ここにいる全員が私の事をきょとんとした目で見つめてくる。…見た目が地味で物静かな性格なように見えるだろうから、やっぱり無理もないのだろうか…?
「わ、わわわ分かっているともセイラ!僕は断ることなんて無理だと言おうとしたんだよ!うむうむ!困っている人を見逃すことなんてできないからね!」
いつものような調子よさを見せてくれるお兄様。その言葉に、彼らもまた力をもらえた様子だった。
「ほ、本当にありがとうございます!ラルク様がついてくださるのなら、この上なく頼もしい!」
「お兄ちゃん、ありがと!!」
女の子は座っていた椅子から降り、駆け足でお兄様の前へと場所を移した。
「君、名前はなんていうんだい?」
「ルナだよ!」
「ルナちゃん、よろしくね♪」
「はーい!♪」
お兄様はルナちゃんをその手に抱き上げ、荒々しく彼女の体を動かしてあやしていく。…お兄様?子供のように扱っていますけれど、ルナちゃんはあなたの許嫁なのですからね?♪
――――
出発にあたり、彼らは人数分の馬を用意してくれていた。当然のように一緒に向かうつもりでいる私の事を、不思議そうな目でみんなが見つめてくる。
「い、一応奴らはこのあたりでも有名なくらいには腕の強い連中です…。恐縮ですが、じょ、女性は残られたほうがよろしいかと…」
「あぁ~大丈夫です。私そういうのまったく気にしませんので」
「は、はぁ…(ふ、不思議な人だなぁ…)」
そう、以前までの私だったら絶対に引きこもっていたと思う。けれどあの日以来、なんだか別人のように体中からエネルギーが沸き上がってくる。自分でもわからないけれど、今の私の方が前よりずっと心地が良い。
「セイラ、馬の扱いは繊細だから僕の後ろに一緒に乗」「結構です。自分で乗れますから」「あぁそう…」
しょんぼりとした表情を見せるお兄様をしり目に、私たちは彼らのアジトへ向かって馬を出発させた。




