第21話
「レリア様、ラルク様からのお返事が届いております」
「!!」
レリアは使用人から差し出された手紙を光速でひったくり、その内容を確認する。
「(快諾の返事…!これで決まりよ!セイラが本命にしている男はこれで私のものよ!!)」
受け取った手紙に目を通しながら、まさにルンルンといった様子ではしゃぐレリア。まだ招待状に対する快諾の返事が来ただけなのだが、今まで自分に落とせなかった男性は誰一人としていなかったという彼女の自信が、それだけの思いをもたらしているのだろう。
「(けどそうなると…。伯爵はもう用済みになるわね…)」
ファーラ伯爵は心の底からレリアの事を溺愛しているものの、彼女の方はそうではなかった。彼女にとって伯爵はただの踏み台であり、より自分にふさわしいと考える婚約者と結ばれるための途中段階にすぎないものと考えていた。
「(このまま静かにここから消えてもいいけれど…。それじゃあセイラと同レベルになるし、つまらないわねぇ…)」
自分が心から見下してきたセイラと同じことをするのは、彼女のプライドが許さなかった。
「(気持ちの悪い伯爵にベタベタ触られ続けても、文句ひとつ言わずにここまで我慢し続けてきたんですもの。最後ぐらい、伯爵にふさわしいだけの仕返しをしてすっきりと終わりたいわ)」
今まで自分が伯爵から受けた恩恵など忘れてしまったかのように、すっかり自分の欲を満たす事しか頭にない様子。もっともそれは、伯爵とて大差ないのだが…。
いろいろな作戦を頭の中で考え巡らせていた彼女。そしてついに、その欲望を満たすにふさわしいアイディアを浮かばせた。
「…!これだわ!これならうざったい伯爵に仕返しもできるし、生意気なセイラに泡を吹かせることもできるし、彼女の本命の相手を私が手に入れることもできる!まさに最高のアイディアよ!!!」
ここ最近でもっとも大きな声を上げた彼女は、その勢いのままに行動を始めた。彼女がすべて手に入ると確信したその食事会。そこでどんな恥ずかしい思いをさせられることになるのかも知らずに…。
――――
レリアは自分のアイディアをさっそく伯爵の元へと持ち込んだ。
「なに?多くの人々を集めた食事会を開きたい?」
「そうですの。このままセイラと意地の張り合いをしていても、ライオネル様の怒りを買うだけなのでしょう?」
「そ、それは…」
心を許すレリアとの関係と、自分の言うことをきかせる都合のいい存在であるセイラとの関係。その両方を実現させるべく考えている伯爵には、痛い指摘だった。
「だからこそ、私と伯爵様が正式に婚約を果たしたと食事会で披露するんですの。それを見たセイラは、焦ってこう言うに決まっています。先に伯爵様と婚約していたのは私なんだから、伯爵夫人になるのは私の方がふさわしい、と。今まで意地を張っていたことを、きっと後悔しますわ」
「た、たしかに…(セイラとてその内心では、伯爵貴族であるこの僕との婚約を望んでいるに決まっている。しかし先に自分の方から折れるのは嫌だから、僕の方が彼女に泣きつくのを待っているのだろう…。このまま無駄な時間を重ねれば、それこそお父様になんと怒鳴られるかもわからない…。レリアの作戦の通りにすれば、少なくともこれ以上セイラに面倒をかけられることはなくなるはず…!)」
「私のアイディア、いかがでしょうか?」
「よし、それでいこう!証人を増やすために、食事会には多くの貴族連中を集めようじゃないか!僕が手配するよ!」
「伯爵様のお役に立てたのなら、うれしい限りです♪」
明るくそう言葉を発するレリアだったものの、その内心では全く違うことを思っていた。
「(残念だけれど伯爵様、婚約を発表するのは私たちではありませんのよ?私は多くの貴族たちの前で、あなたとの絶縁を宣言します。あなたは大恥をかくことになるでしょうねぇ♪そして同時に、セイラが連れてきた彼女の本命の相手を私がその場で略奪するのです。そうすれば、セイラもまた同時に絶望させることができる。まさに天才的としかいえない作戦でございましょう?♪)」
不敵な笑みを浮かべるレリアの表情に、伯爵は気づかないのだった…。
「君にそこまで想われて…僕は何と幸せ者だろうか!」
テンションを高くした伯爵は、その感情のままにレリアに抱き着いた。
「(あぁ…。レリアの抱き心地、やっぱりたまらない…。抱きしめているだけで心が満たされていく…。そして男の本能を刺激する彼女のにおい…。そのすべてがたまらない…)」
「(うわ、またきた気持ち悪い…。においもなんだかひどくなってる気がするわ…。けれど、もう少しだけの辛抱よ…)」
互いに正反対の事を考える二人の運命は、食事会の場で大きく動いていくことになる…。




