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第15話

 嫌がらせに撒いた除草薬が、むしろセイラとラルクを助ける結果になったことなど全く知らず、上機嫌な様子のレリア。一方で彼女と同じ屋敷にいながらも、全く正反対の感情を抱く人物が一人…。


「(これはまずいことになった…。不自然なセイラの部屋を騎士に見られてしまったことも、それによって騎士団に目をつけられていることも、伯爵に全く伝えられていない…)」


 自分の身を守ることしか考えずにここまで来た結果、ついに窮地に立たされるレーチス。その体は震えを隠すこともできず、額を流れる冷や汗も止まる様子を見せない…。


「(こ、こうなったら最終手段だ…。伯爵に今回の一件を気づかれることなく、セイラをここに連れ戻さなければならない…。ここに戻した後で、彼女の口からなにも悪い扱いを受けていないと言わせれば、騎士だって引き下がることだろう…!)」


 そう考えたレーチスは、自身が信頼する3人の者たちを呼び出した。ある命令を下すために…。


――――


「ブルーム、ドリッド、ガーナー、よく来てくれた」


 黒いフードで顔を隠し、紺色のマントに身を隠すという、見るからに不審な格好をした三人がレーチスの前に姿を現した。


「俺たちを呼び出すとは…それなりにやる価値のある仕事なんだろうな?」

「くだらない内容だったら怒るわよぉ?」

「…」


 ブルーム、ドリッド、ガーナーはそれぞれ三者三様な反応を見せる。


「なぁに、簡単な仕事だとも。…この女をこの屋敷まで連れてきてほしい。そのためなら、どんな手を使おうとも構いはしない」


「ほう…」

「あらあら、かわいらしい女の子じゃない♪」

「…」


 示されたセイラのイラストを見る3人。ドリッドは乗り気、ガーナーは基本的に無口なだけだが、ブルームはやや不服そうな反応を見せる。


「おい…。わざわざ俺たち三人を呼び出しておいて、女一人拉致するだけだって?…そんな簡単すぎる仕事、面白みに欠けるな…。それとも俺たちの事を馬鹿にしているのか?」


 これまでにも、いくつもの危ない仕事をこなしてきたようなその雰囲気。レーチスも少し押されてしまう。


「ば、馬鹿になどしてはいない!今までと同じだとも!これまでだって、私の気に入らない敵対貴族や商人の始末をお前たちに依頼してきたではないか!今回も同じなだけだ!」


「まぁいいじゃないブルームちゃん。こんなかわいい可愛い女の子を誘拐するっていう、失敗もしようのない仕事をするだけで報酬がもらえるんだから。こんなおいしいことはないでしょう?♪」


 この中で一人だけ女性のドリッド。可愛らしいく振舞うその口調とは正反対に、その性格は決して穏やかなものではない。そんな彼女に何の違和感も感じていないくらいには、この4人は長い付き合いなのだろう。


「やれやれ…。少しは骨のある相手を求めていたんだが…。これじゃあ期待外れもいいところだ」

「そんなこと言わずに!さあさあ、はやく準備にかかりましょうよ!どんな手を使ってもいいのよ?こんな楽しいことってないでしょう??ただ連れてくるだけじゃつまらないから、思いっきり痛めつけてあげようかしら…♪」

「…」


 この様子が彼らとっての平常運転なのだろう。


「まぁお前たちなら大丈夫だとは思うが…。今回の仕事は絶対に失敗できないし、伯爵にばれてもいけない。完全に秘密裏に行わなければならないというわけだ。分かっているだろうな?」


「なんの心配だ…。女を一人連れ去るだけだろう?失敗のしようがない」

「それじゃあ行きましょうよ!私、おいしいものは先に食べたいタイプなの♪」

「…」


 秘密会議はそれにて終了し、三人は各々に散っていった。そんな三人の後姿を見て、レーチスはある思いを抱く。


「(…そういえば、セイラが聖女である可能性を伝えていなかったが…。まぁ、大丈夫か…。あんな女が聖女であるはずなどないのだから)」


 その一抹の不安が、果たしてどんな結末につながるかも知らず…。


――――


 レーチスからの命令を受けた三人は、自分たちのアジトに戻り作戦会議を始めた。


「王族令嬢でも貴族令嬢でもなんでもない、ただの面白みのない女か…。脅したところで、なんの金になる物も持っていないだろう…。つまらん」


 そう言いながらブルームが手の上で広げているのは、自分たちがつい先日ここに誘拐してきた女性が身に着けていた物。彼女が大切な人から送られたであろう、その薬指に輝かせていたリングだった。


「まぁまぁ、ブルームちゃんったら欲張りなのねぇ。ついこの間も宝剣を奪ってきたばっかりなのに、まだ物足りないのかしら?」


「当然だ。金になる物はあればあるだけいい。しかも俺たちにかかれば、絶対に誰に捕まることもない。ならやらない手はないだろう?」


「そうねぇ…。私たちがその気になれば、たとえ相手が王国の騎士団であっても勝てちゃうだろうし?陰の実力者である私たちに誰も逆らえないわけだし?♪」


「…」


 上機嫌な様子のドリッドと、相変わらず無口なガーナー。ドリッドもまた以前に人々から略奪したアクセサリーをその手に転がし、楽しんでいた。


「これを付けてた女、返して返してって泣いて言ってたわねぇ。あの悲鳴はたまらなかったわぁ♪今回のセイラちゃんも、同じくらい楽しませてくれればそれでいいもの~」


「それだけじゃつまらんだろう。けっ、レーチスの奴め…。つまらん依頼を…」


「まぁいいでしょうブルームちゃん。子猫のセイラちゃんが何も持っていなかったら、その時はレーチスちゃんからの報酬をたっぷり受け取ればいいんだから♪」


「期待できるのは報酬だけか…。まぁいい」


 すっかり計画がうまくいくと信じ切っている3人。それがどんな結果をもたらすかも知らず…。

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