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第14話

 伯爵とレーチスが焦りに焦りを重ねていることなど全く知らず、レリアは自室でくつろいでいた。


「ねぇ、パティアの紅茶を用意してもらえる?」


 レリアの言ったパティアの紅茶は、文字通りパティアの葉からつくられるお茶。そのブレンドは独特で、伯爵との関係を深めていく中で彼女が気に入った紅茶だった。

 しかしレリアの言葉を聞いた使用人は、どこか言いづらそうにその口を開く。


「も、申し訳ございません…。パティアの紅茶はセイラ様が育てておられた葉ですので、もう残りが無くなってしまって…」


「はぁ?」


 レリアにとっては、今までは望めば出されるのが当たり前であったために、それを育てていたのがセイラであることも知らなかった様子。


「それじゃあどこかから取り寄せればいいじゃない。早くしてもらえる?」


 それに対し、再びどこか気まずそうな表情を浮かべる使用人…。


「そ、そもそも…。ブレンド方法を知っているのがセイラ様だけですので、葉だけ取り寄せてもお味の再現ができなくて…」


「あぁもう!!役に立たないわね!じゃぁなんでもいいからなにか飲み物持ってきて!」


「は、はい…。かしこまりました…」


 欲しいものを買ってもらえなかった子どものように、レリアは声を上げて不機嫌さをアピールした。飲めなかったことはもとより、自分の気に入っていた紅茶がセイラ特製のものだったことにも腹を立てている様子。


「(…そういえば、ここにいる時からよく花壇で何かを育ててたわね…。口数が少なくて気弱だから、花や葉しか相手がいなかったのかしら?)」


 運ばれてきたティーカップをその口に運びながら、レリアはあることをひらめく。


「(それに…婚約誓書を破りに行った時、あの屋敷にも花壇があったわね…。なにを育てていたのかまでは覚えていないけれど、どうせ今もお花だけがお友達なんでしょうし…。もしも、もしもその可愛い可愛い花たちがある日突然すべて枯れていたら…?。くすくす、これはいいことを思いついたかもしれないわ…!)」


 彼女は思いついた勢いのままに使用人を呼び出し、そばで思いついたことを命じた。


「セイラの花壇に、除草薬を撒いてあげなさい!最近退屈だから、彼女の絶望顔を想像して楽しむこととしましょう♪」


 それはかつて伯爵が毒薬として開発を命じて作らせたものだったものの、人ではなく植物に対して劇的な効果を発揮することがわかり、除草薬として管理されていた。しかも極めて即効的に作用するという利点もあった。


「(朝起きた時には、愛する花たちがすべて枯れはてている…。一体どんな反応をするのかしらね~♪)」


 うきうきとした様子を隠すこともなく、レリアは再びティーカップを口に運ぶのだった。


――――


 一方、当のセイラはというと…


「…」


「…」


 私とお兄様の目の前には、ただただまっさらになった花壇がある。何の花も、何の生き物もいない、ただただ茶色い土だけが広がる光景。

 私もお兄様も、言葉を失っていた…。その理由は数日ほど前にさかのぼる…。


――数日前――


「なにやってるんですかお兄様!!!!」


「ひっ!!」


 それまで隠し通していたことが怖い大人にばれてしまった。まさにそんな表情を浮かべるお兄様。


「朝起きてみたら私の花壇がめちゃくちゃになってるんですけど!!」


「そ、そうなの??そ、それは災難だったねぇ~…」


 目に見えてとぼけるお兄様。なぜこれほど私がお兄様に声を荒げているかというと、今日の朝いつものように花壇の手入れをしに行ったとき、そこにはすさまじい光景が広がっていたためだ。


「あの意味の分からない植物、お兄様が植えたのでしょう!?」


 なんとそこには、私の背の倍以上はあろうかという大きな植物が突然生えていた。色も紫色をしていて、見た目にもなんだかぷにぷにしていて気持ちの悪さを感じさせる…。


「な、なぜ僕を疑うんだい??ぼ、僕は本当に何も」


「だってお兄様、先日私に花壇のことを詳しく聞いてきましたよね?それにお買い物から帰ってきたとき、珍しい生き物の種子を手に入れたって言って喜んでいましたよね?」


「う…」


「見ましたかあれ!?背が大きすぎて私の部屋完全に真っ暗になってるんですけど!?外の光がぜんぶブロックされちゃってるんですけど!?」


「ま、まぁあれだよ!女の子はお肌のために、日の光をあまり浴びたくないってよく言うじゃないか!これでそれが実現するということで!」


「…それ、本気で言ってますか?」


「ごめんなさい」


 軽口を続ける状況でもないと思い知ったのか、お兄様はしゅんと素直に謝ってくれた。


「はぁ…なんなんですかあれは?」


「いや実は…」


 どこかバツが悪そうに、お兄様は説明を始めた。


「商店街に買い物にいたっとき、占い師の格好をした人に勧められて…。この種子からなる植物を育てれば、そこから発せられるフェロモンに美人な女の子が引き寄せられてモテモテになれるって…」


「はぁーー…」


 私は深いため息をついて返事をする。…お兄様には昔からこういうところがあるんだから…。


「それであの意味不明な植物を売りつけられたというわけですか…。成長のスピードが尋常ではないですし、色見も毒々しいのできっとよろしい植物ではないでしょうね…」


「はい…ごめんなさい」


「(そ、それにしてもセイラ、本当に変わったなぁ…。今までならこんなに僕を叱ってくれることなんて、絶対になかったのに…)」


「なんですか?じろじろ見て」


「い、いえいえなんでもありません…」


「…もう、そんなにしゅんとしないでくださいお兄様。今はなんのお花も植えていませんでしたし、別に怒っていませんから。ただ、後片付けはもちろんやっていただきますよ?」


「はい…」


「もう。私も手伝いますから、明日からでも始めましょうね?」

 

 とは言ったものの、あれほど大きな植物を花壇から片付けるには、どれほど大きな道具が必要になるんだろうか…?そもそも私たちでできるんだろうか…?


 などと頭を悩ませていたその数日後、あの光景が広がっていた。


――――


「…」


「…」


「お兄様、私が見ていない間にお一人で片付けられたのですか?」


「ばれちゃったか~これでもこういう作業は得意だから、こっそり裏で」「お兄様!!」「はいうそですごめんなさい…」


 お兄様のいつもの軽口をねじふせて、改めて会話を始める。


「それにしても…どこの誰なんでしょう?こんなありがたいことをしてくれた人は」


「いやいや、本当に世の中にはいい人がいるというものだねぇ。困った人を見ると放ってはおけないという人が、きっとどこかにいてくれたんだろう!いやぁこれで一件落着!」


「はぁ~…」


――――


 そんなことになっているとはつゆ知らず、夜になりベッドに入って上機嫌な表情を浮かべるレリア。


「(くすくす…。セイラ、今頃その枕を涙で濡らしていることでしょうね。おとなしく私たちに降伏しないからそんな目に合うのよ?逆らってはいけない相手をよく覚えておきなさい?)」


 彼女が駆逐したのは、美しい花などではなく迷惑な意味不明植物だったというのに…。

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