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第12話

 美しい草原を馬で駆ける音が鳴り響く。訪ねていた伯爵家を後にして、騎士団の本拠地へと足を進める二人の騎士の姿がそこにはあった。


「団長、すこし馬を休ませていきましょうよ!ここ最近訓練で走りっぱなしで、きっと疲れてると思いますよ!」


「そうだな…。それじゃああの水場で少しだけ、休憩としよう」


 休憩には最適な場所に馬を止めると、慣れた動きで馬から降りる二人。そのまま馬の頭をなでてやると、くすぐったそうに身じろいで喜ぶ様子を浮かべた。


「少し休もう。働きづめにしてすまないな」


「ぶるぶぅぅぅ」


「君もね。いつも助かってるよ」


「ひゅぉぉん」


 二頭の馬のリードを近くの足場へとくくりつけ、二人はその場で息を吐きリラックスする。最初に口を開いたのはガラルの方だった。


「それにしても残念でしたね、団長」


「残念?なにがだ?」


「セイラ様に会いたかったのでしょう?」


 いたずらっ子のような笑みを浮かべるガラル。それを聞いてオクトは、懐からタバコを取り出そうとする手を一瞬だけ止めた。


「…さぁ、なんのことだか」


「またまた。前回訪問した時だって、本当はセイラ様に会いたっかのでしょう?」


「…フーーーっ…」


 オクトはガラルの言葉には答えず、軽やかな手さばきでタバコに火をつけ一服を始めた。そんな姿を横目に観察し、ガラルは心の中でつぶやく。


「(…知っていますか団長。あなたがタバコを吸うときは、なにか心が動揺している時なんですよ?)」


「なんだじろじろ見て…気持ち悪いぞ」


「あら、これは失礼」


 それまでは笑みを浮かべていたガラルだったものの、ここからは一転して真剣な表情を見せた。


「…団長はどのようにご覧になりましたか?今日の光景を」


 再び煙を吐き出した後、オクトはその言葉に返事をした。


「伯爵家でなにかが起きているのは間違いないようだ。それに見ただろう?レーチスという者の慌てぶりを」


「ええ。きっと本人はごまかせたことと思っているでしょうが、僕らの目はごまかせませんとも。僕らが今までどれほど、ああいった人間を相手にしてきたか…」


「セイラ様の身にも、なにか起きていることは間違いないだろうな。だからこそ、一秒でも早く一体何があったのかを解明しなければいけない」


「好きだからですか?」


「…」


 …おもむろに懐から二本目のタバコを持ち出すオクト。その姿を見て、ガラルは笑いをこらえることに必死な様子だ。


「(二本も連続で吸う事ところなんて、初めて見ましたよ。本当に分かりやすいんですから…(笑))」


「お前はなにか勘違いしているようだから訂正するが…。我々は伯爵と懇意な関係にある。そうだな?」


「ええ、そうですとも」


「その伯爵が選んだ婚約者がセイラ様なのだ。であるなら、彼女の幸せを願うのは騎士として当然の事。だろう?」


「ええ、そうですとも」


「だからこそ、伯爵様には必ずセイラ様を幸せにしてもらわなければならない。もしそれができていないばかりか、彼女を不幸にしているようなことがあれば、その時は私が…」


「…私が?」


「…フーーーっ…」


「はぁ…まったく…(笑)」


 なんだかおもしろくなってきた様子のガラルは、最後にもう一言だけオクトをからかってみることにした。 


「セイラ様に会う口実を作るために、騎士たちに婚約のお祝いの言葉を書かせてまわるだなんて…なんだか乙女みたいですよ、団長」


「ッ!!!!ゲホッ!ゲホッ!!!」


「(あらまぁ…(笑))」


 思いもしない言葉にむせてしまったオクト。なんとか彼は息を整え、深呼吸を行い気持ちを落ち着かせる。


「いいか、私は騎士なんだぞ?セイラ様の幸せをお守りするのが、ある意味で仕事というもの。彼女が幸せになるのなら、相手は誰でも構いはしないとも」


「はいはいそうですか。どこまでも騎士なのですねぇ、団長は」


 二人が会話を終えたと同時に、二頭の馬たちはそろそろまた走りたいとそわそわした様子を見せ始めた。


「それじゃあ出発しましょうか。他愛もない話に付き合わせてしまい、申し訳ありませんでした」


「ああ、全くだな」


 一切表情を崩さず馬の方へと向かうオクトに対し、ガラルは愛おしいものを見るかのような笑みを浮かべていた。


「(先ほどお話した、僕らの目に狂いはないという話…。それはたとえ相手が騎士であっても、変わらないのですよ?)」


 背を向けるオクトの耳の先が、うっすらとだけ赤くなっているのをガラルは見逃さなかった。


「おい、なにしてる。早く行くぞ?」


 足早に馬にまたがり、出発の準備を整えるオクト。ガラルはそんな彼に少し遅れて、なにやら楽しそうにスキップを踏みながら馬にまたがり、出発したのだった。

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