幸せな日常
あなたは、異世界転生を信じますか?
現代でトラックに轢かれ、死んだと思ったら目の前に巨乳の可愛い女神がいて、その女神からものすごい能力を貰い勇者として世界を救うことになる。なんてありがちな漫画やラノベのように、異世界へ転生することが本当にあるのか。街中で聞けば100人中100人がフィクションの話と答えるような馬鹿げた質問に俺が答えて差し上げよう。
あるよ。
鷹西 晃17歳 異世界に転生しました。
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「人族の国、アリスエルズ王国の国王は1000年前の勇者の血が流れていて、とある預言の書には、アリスエルズ王国から新たな勇者が誕生すると記されている……そして、」
「こらシード!また部屋から抜け出して〜!」
アリスエルズ王国の末端に位置する小さな村、その村にある教会の書庫では、毎日シスターとシード・ブラウンの姿が目撃される。このシード・ブラウンこそ、俺のことだ。
「次私たちが知らないところでシードが倒れたらどうするの!」
「大丈夫だって!」
俺、シード・ブラウンは教会で孤児として暮らしている。
青々とした大空は、不規則に登るビルによって半分以上が隠れている。その代わり、高台から見下ろす夜の風景は煌びやかに光り輝く。そんな街で生まれ育った俺。なんの変化も訪れることはないと信じきっていた日常に訪れた。教室の床に浮かび上がった赤い線。その状況を頭で理解する頃には、赤子の姿で教会の前に捨てられていた。
流されるままこの教会で暮らすうちに、俺は異世界に転生したのだとわかった。そしてこの世界は、俺たちがいた世界と180度違うことも
この世界はよくある剣と魔法のfantasyな世界だった。人間や動植物の他に、亜人族、魔族、魔物などがが存在する。そんな世界に転生したは、驚きなのは俺の姿が以前の時と全く同じだったということ。この世界での人間は金髪や、青色、赤色、緑色、様々な髪色がある。逆に黒髪黒目はなかなか存在せず、聞いたこともないし、見たのも俺が初めてだとシスターが言っていた。
そして1番の問題が、俺が病弱に生まれたことだ。
この世界に生まれ落ち7年、教会の外に出たことはない。理由は俺の体が耐えられないからだ。なにかの病気か何かなのか、少し歩いただけで体が重く呼吸が浅くなる。頻繁に倒れるのでシスターや牧師様の許可がないと部屋から出ることもできない。このまま教会で一生を終えるのは嫌だ。俺は自分の体と世界について調べるため、部屋をこっそり抜け出し、教会の書庫でいろいろな書物を読み漁っている。だが、最近部屋から抜け出し書庫に向かう途中で具合が悪くなり倒れるという事件があり、俺がこっそり書庫に行っていることがバレ、部屋を抜け出すことが困難になった。抜け出せても、今回のようにすぐ見つかってしまう。まだ知りたいことはいっぱいあるのに、書庫に行くことができない。なんとももどかしい日々が続いていた。
コンコンコン
「シード!遊びに来たぞ!」
教会の一角にある俺の部屋の扉をノックする音と、俺を呼ぶ声が聞こえた。教会で俺のように捨てられた子供たちだ。ここの教会は小さい割に、ここ周辺で唯一の教会で、教会の前に子供が捨てられるのも珍しい話ではない。
「どうぞ」
「しつれいしまーす!」
「しつれいします!」
「いらっしゃい」
部屋に入ってきたのは、俺と一番仲がいい同い年のリースとアベルだった。リースは綺麗なブロンドヘアーに花冠が乗ってていて、アベルは本を持っていた。
「お前、また抜け出したんだろ?凝りねぇな」
「あまり無理しないでね。私、シードが死んじゃったら嫌だよ!」
「そんな大袈裟な、俺だって体調が悪い時は我慢してるよ。」
「お前はずっとここで寝てろ!」
「ひどいなぁ…本読むぐらいいいじゃないか」
アベルと視線を交差する。アベルは見た目や言動に似合わず仲間思いで、わかりやすく説明するとツンデレが入った少年ジャ◯プの主人公みたいなやつだ。少し目を合わせながら沈黙が続き、それを遮ってリースが花冠を俺に差し出した。
「これ、さっき下の子たちと作ったの。真ん中にね、願いのコトハを使ったんだけど、これはアベルが取ってきてくれたんだよ。」
願いのコトハとは、現世でいう四葉のクローバーみたいなものだ。コトノハという草の花で、雪が降る地域に多く生息するが花自体は珍しく、コトノハは薬草にも使われていることから、その花はどんな病気でも治る、願いが叶うとされている。
「ありがとう…」
2人は少し頬を赤く染め、アベルは唇を尖らせながらそっぽ向いた。
「そういえば、これ。お前が読んでた本ってこれだろ?読みたい本があったら俺らに言えよな…とってくるから」
「うわぉ、どうしたんだアベル。今日はいつにも増してデレが多くないか?」
「うるせえなぁ!もう口聞いてやんねぇし!」
「ふふ、アベルは照れ屋さんだから〜」
「そっか、そうだね〜」
「だまれだまれ!照れてねぇし、照れてねぇし!」
数分間アベルをおちょくって、そのあと少しだけ外の話して2人は部屋を出ていった。
楽しい時間がふと終わると、現代でのことを思い出す。親友の青木は何かと人気者だったから、青木の隣を歩いていると自然と周りに人が寄ってくる。話相手には困らなかった。恋人には困ったが。 学校を卒業して、各々みんな別の進路を歩む。そうすればいつもの幸せな生活は無くなって、また新たな生活がやってくることもわかってた。受験生だったから嫌でも考える。でも、
「もうちょっと時間欲しかったな。」
終わりはいつも突然やってくる
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10歳の誕生日を迎えた。
この教会では、教会で拾った日を誕生日にしている。空から絶え間なく降り続ける雪の下、俺の誕生日パーティが開かれた。この国では10歳が人生の別れ目と言われていて、10歳になったその日から11歳の誕生日の前日までに、人生に大きな影響を与える何かが起きるとされている。教会で拾われた子供は誕生日が正確ではないので、11歳の誕生日の前日までに…というのはズレがちだそうだが、俺の場合体調の悪化ではないことを祈りたい。
「それでは…シードの10歳を祝して。おめでとう」
「「「「おめでとう!」」」」
「ありがとう…」
誕生日にケーキを食べるという風習はないのだが、その代わりにたくさんの料理がテーブルを埋める。その多くが俺の好物だった。
「「シード」」
「アベル。リース。どうしたの?」
「10歳、おめでとう」
「おめでとう!」
アベルは小さな箱を渡してきた。俺はその箱を受け取ると、意外と軽く、コロコロと音がした。
「何が入ってるの?」
「開けてみろって」
リースは微笑んだ。箱を開けてみると、そこには貝殻のかけらがついたペンダントが入っていた。
「これって…」
「海の近くに落ちてるんだってさ、貝殻っていうんだぜ!それをみっつに割ったんだ!」
「こんなの…どこで手に入れたの!?」
この村は雪山の麓にあり、ここから海までは馬車で半月かかると聞いた。そんな遠いところにあるものを、10歳にも満たない子供がどうやって入手したのか。
「シスターが近くの街に行くときついて行ってね、街で売ってたの!」
「た、高かったんじゃ…」
「知ってるか…?シスターの仕事を手伝うとお金をもらえるんだぜ」
アベルがニヤッと笑った。
「シスター以外にもね、村の人の困ってることを解決すると!もらえるの!」
「俺のために…やってくれたの?」
2人は大きく頷く。心が暖かい気持ちになった。この世界では移動手段が限られているため、ものによってはとても価値が高騰しているはずで、こんな子供が少し働いただけで大量のお金が出るわけない。この日のために頑張ってくれたのだろう。青木、俺はこっちの世界でも周りの人に恵まれているらしい。病弱な俺を見捨てず何年も育ててくれて、仲間思いのいい友達がいて、俺はこの世界でも幸せらしい。
「貝殻のかけらね。残りの二つもペンダントにして、私たちも同じもの持ってるんだよ?」
「同じもの?」
「そ!この教会出てってさ、3人がバラバラになっても…また再開できるように!」
「絶対無くすなよ!」
「…うん、絶対無くさない」
その日のパーティは、俺の体を気遣って早めにお開きとなった。
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