死神との出会い
腫れ物を扱うような態度の周囲に絶望したのは、いつ頃だったか。
物心がつくのとほぼ同じ頃にはもう、アレクレイドは自分の生が短いことを知っていた。
第2王子、第3王子を保険に作り、居ても居なくても構わない存在として育てられた。
原因は王子の生誕を機に国一番の占い師が行った予言。
この子は20歳まで生きられないだろうという神託は、むしろアレクレイドにとって呪詛に等しかった。
死が身近にありすぎて、死霊魔法に辿り着くまでさして時間は掛からなかった。
幸いにしてアレクレイドには魔法の才能もあった。
10歳の頃。心の臓が痛み出し、ぼんやりと空中に漂う人影があった。
死神の存在は死霊魔法を調べる過程で知っていた。
魔法を行使して、それこそ死ぬ物狂いで死の影を消滅させると、そいつは眼球のようなネックレスを落として消えた。
それを身につければ不思議と、更に死が明確に見えた。
そうして3年後、はっきりとアレクレイドの前に再び死神が姿を現していた。
「君が死神? 随分小さいんだね」
背中に黒い翼があり、本人の大きさと不釣り合いな鎌を持っている女の子だった。明るい桃色の髪と優しそうな蒼い目をしていて全然怖くない。自分を死に追いやる死の象徴は、もっとおどろおどろしいと想像していたので拍子抜けだった。
「貴方は私が見えるの? えっと、アレクレイド・ハンネス?」
黒い台帳を片手に名前を呼ばれる。確かそこに命を狩る者の名前が書き込まれるのだ。
「呼び捨てにされる覚えはないな。俺はこの国の王子なんだよ。敬え。偉いんだ」
自分より背丈の小さい女の子に、そんな威勢を保たなければならないほどアレクレイドの心は荒んでいた。
彼の周りの者はどんな我儘も怒らず、少しの努力でも大仰に褒め称えた。
それは愛情でも優しさでもない。
アレクレイドの周りに溢れているのは憐れみの目ばかりだった。
「王子様なの? ……どうしよう。そんな偉い人を私っ」
カタカタと鎌が震えている。戦う前から戦意を喪失しているようだった。
あまりに真っ青になった少女に、長らく忘れていた同情心のような気持ちが湧く。自分より憐れだと思えば苛立ちは消えていた。可愛くさえ感じてくる。
近づいて声を掛けようとした矢先、黒い猫のような格好をした男も現れて、彼女をアレクレイドから隠した。
「ちぃ。なんでターゲットが死神の目なんて持ってやがんだよ。帰るぞコマドリ」
「あっ、うん。クロネコ待ってよ」
コマドリと呼ばれた女の子はアレクレイドの方を一瞥してから、クロネコの男に付き添われて姿を消した。
それがアレクレイドと死期見習いの出会いだった。
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