誕生会の招待状
「お嬢様。これが今月の招待状です」
改装して執務室にした客室の椅子に座って書類に目を通していると、家令のセディが一礼をして招待状を持ってくる。
引き籠もり生活も長くなると誘いはめっきり減っていた。形式的に届く2、3通の手紙に混じって、王家の印が押された封筒が入っていた。
「アレクレイド王子の生誕を祝う祝賀会……」
この国の全ての貴族に配られているだろう、その内容は2ヶ月先の誕生会への招待状だ。
ただ封筒の中にはアレクレイドの自筆とみられるメッセージカードが一緒に添えられていた。
『君と俺の誕生会を共に祝いたい』
今までも彼に関係する催しの際には度々こういったメッセージが混ざっていた。
アレクレイドは20歳を目前にして婚約者も決まっていない。もしかしたら若い未婚の令嬢にはすべからく送っているのかもしれない。
それでもラファーリアは嬉しかった。
この屋敷から出られないラファーリアに参加の返事など出来るはずがないとしても。
彼に初めて会った時から、ラファーリアにはない決断力や揺るがない意志の強さにずっと憧れているのだ。
「……ありがとう。爺や。いつもの様に欠席のお返事をしておくわ」
「……お嬢様。お嬢様の御髪を結いたいとハンナが申しておりましたよ。呼びつけてもよろしいでしょうか?」
気落ちしているのが伝わってしまったのだろう。セディが気遣うように訊いてくる。
セディとその伴侶のハンナはラファーリアが産まれるより前からスカーラッド家に仕えている老齢の夫婦だった。
家族のいないラファーリアを肉親の様に扱ってくれるのは、もうこの2人だけだ。
「どこにも出掛けられないのに意味がないわ」
「意味などなくても。爺と婆はラファーリア様に少しでも喜んで頂ければ満足です」
「……じゃあ、久しぶりにお願いしてみようかな」
相好を崩してハンナを呼びに去ったセディを待っている間に、返事を返してしまおうとペンを取る。
『体調が優れず参加は見送らせて頂きます。アレクレイド王子が無事にお誕生を迎えられる日を楽しみにしております』
「……本当に」
アレクレイドが20歳を越えて、それをラファーリアが祝う時など来ない。来てはいけないのだ。
悲しい訳ではない。それはもうずっと前から決めている事だった。
それこそ彼と出会った6年前の頃から。