出来損ないの報告
「あいつ大嫌いなんだけど。僕の書に名があったらめっためったに切り刻んで殺るのに。ラファーリアは相変わらずの甘ちゃんで、大甘過ぎだよ」
霊域という名の死神のたまり場でジョゼに絡まれたまま、上司を前にして眉を下げる。
「ジョゼ、離れて欲しいんだけど。エンリ様に報告出来ないわ」
「えーやだ。だってあいつお前に触ろうとしてたじゃん。ちゃんと消毒して置かないと」
そう自分の匂いを分けるように身体を擦り寄せて来るところは、本当に猫みたいだ。
「まぁジョゼは放って置くとしても、また失敗したのね。ラファーリア」
「はっはい。すみません、エンリ様」
蠱惑的な笑みを美しい容貌に浮かべて、宙に浮かぶ椅子に腰掛けているエンリは死神を纏めている司令官のような役割をしていた。
頭に山羊の様な角があり、先端がハート型になっている尻尾をつけている。ボリュームたっぷりにオリーブの髪を巻いて、亜麻色の瞳を苛立ちに曇らせていた。
「書に名前が刻まれている以上は、アレクレイド・ハイネスの魂を狩れるのはラファーリアだけなのよ。まぁ奥の手はあるんだけどねぇ」
おっとりしている様で目は少しも笑っていない。
「あなたがそんなだから、いつまでもお目付役を外せない見習いのままなのよ」
辛辣な叱責を含んだ口調からも、かなり機嫌は悪そうだった。
「あれが確実に死ぬ予定の20歳になるまで、後3ヶ月しかないのよ」
「……はい」
「ラファーリアの呪いも彼の息の根を止めないと解けないのよ。理解しているわよね?」
「…………はい」
もはや返事をする以外、答えようがない。
「なんだよ。エンリのヒステリー婆ぁ。あんまりラファーリアをいじめんなよ」
「ジョゼ、私の美貌にケチをつけると怖いわよ。まぁ……引き続き根気よく続けてちょうだい。今日はもう下がっていいわ」
飽きたように手を振って下がらせられる。
いつの間にか夜明けも近いようで、空は白んでいた。
「あ〜あ、ラファーリアのせいでエンリに怒られちゃったじゃん。まっ気にするなよ。あいつに情なんて持たずに殺せばいいだけなんだから」
「……情をかけないなんて……無理だよ。ジョゼ」
「ラファーリアさぁ、お気楽に生きた方が人生楽しいじゃん。ほーんと死神向いてないな」
慰めているのか貶しているのかよく分からないが、向き不向きの話をされても困るのだ。
なりたくて死神になった訳ではないのだから、適正がないのは当たり前だった。
元より建設的なアドバイスは期待していない。ジョゼだって好きでなった仕事ではないのだから。
ただのお目付役にしては面倒見がよく、なんだかんだラファーリアを庇ってくれるジョゼには感謝していた。
「楽しみか……」
贖罪のためだけに生きている状況では辛すぎて、人生を楽しむなどという発想は出てこない。
むしろ個人的な感情は封じて、やっと死神の職をこなしているラファーリアには、罪を償い終わる時が唯一の楽しみだった。