死神の仕事 ②
「あ~かったるいな。早く帰りたい」
ジョゼの薄っぺらい死神の書に名前が浮かんだため、書の指し記すままに赴いた先は雪山だった。
あまりにだるいため、久しぶりに握った鎌を引きずっている。
一面の銀世界は静かでジョゼ以外の人影はなかった。
「おまけに寒いし…………最悪」
昨日までこの場所にあった集落は雪崩に呑まれ跡形もなかった。
死者は数十人に及ぶ天災だった。
雪に埋まっている躯のところまで行かずとも、魂の線は天に向かって伸びている。
無造作にそれを狩れば死神の書から幾人かの名が消えた。
死の糸には触れないように次次に線を切っていく。
ラファーリアのように一人一人へ寄り添って感情を共有なんてしない。
所詮はジョゼにとって、生きていても死んでいても変わらない者にかける情などなかった。
「エンリはほっんと人使いが荒いっ」
ジョゼが呼ばれるのは大概、こういった大規模に人が死ぬ場合だった。
雪原を飛び回り片っ端から狩っていく。機敏な所作は生前に身に付けたものだった。
ジョゼが生きていたのは200年以上前だ。
隣国と争っていた時代。誰より敵の兵士を討った英雄だった。
だが、あまりにも躊躇いなく相手に刃を向けるジョゼを恐れたのは味方の方だった。
争いも終わろうとしていた最中、背後に隠れていた味方に切られて命を落とした。
以来、エンリに拾われて延々と死神をさせられている。
書が薄っぺらいのは葬った先から名が消えてしまうからだ。書に記されていて放っているのは、たったひとつの名前だけだった。
ジョゼはラファーリアと違い、狩った者の名など留めていなかった。
「早く帰って、あいつで暖まろ」
ここは寒くて嫌いだ。
ラファーリアのお目付役を任命されてからは、居心地のいい彼女に引っ付いているので、なおさら寒さが身に染みた。
「僕がいないとあいつ、すぐ泣くし」
罪人が任命されるだけあって、他の死神はみな割り切っている。
死神をやっていて、死者の前で泣き続ける善人はラファーリアくらいだ。
馬鹿みたいに純粋でまっすぐで、側にいると自分まで綺麗なものの気がしてくる。
「だから、陰険で粘着質なあの野郎にも目をつけられるんだっつーの。あ〜心配になってきた」
ラファーリアには何度も顔を合わせているむかつく王子に、取って食われかねないという自覚がない。むしろ自分から引き寄せられているから達が悪かった。
未熟な見習いはジョゼが守ってやらないと、ふらふらと飛んで墜落してしまう。
死神の書に浮かぶ名がなくなるまで狩り続け、ジョゼは早々に白銀の世界を後にした。
ジョゼは霊体のみで既に亡くなっています。




