白い薔薇を摘んで
ラファーリアは庭の散策を日課にしていて、老齢のセディも健康の為と付き合ってくれていた。
外は怖いから一歩も屋敷から出たくないと、呪いによる呪縛を誤魔化しているから、ラファーリアの身を心配してくれている。
丹念に手入れがされた庭までは何とか移動が可能で、庭園のガゼボはお気に入りの場所だった。
庭に咲いた白薔薇の蕾を摘んでセディに渡す。
「この間用意して貰った果実酒と一緒に、これを王宮まで届けてちょうだい」
アレクレイドの年齢と同じ、20年寝かせたという果実酒は成人を祝う代表的な贈り物だった。
本人が砂糖菓子のような笑顔を浮かべるだけあって、甘党なアレクレイドの味覚に合わせて、まろやかな味わいのものを選んでいた。
「祝賀会まで一週間ほど、ちょうど蕾が咲く頃ですな。さすがお嬢様です」
「……山のような贈り物が届くから、捨てられちゃうかもしれないけどね」
ラファーリアは半歩後ろに立ったセディに眉を下げた。
毎年誕生日の後に王子の私室へ魂を狩りに行くと、アレクレイドは積まれた贈り物に辟易していた。
彼と出会った6年前から誕生日の贈り物を送っているが、受け取られているかは定かでない。
ただ贈り物は屋敷から出られないラファーリアに出来る、数少ない気持ちを伝える手段だった。
「そのような真似はなさらないと思います。昨日も殿下自らこの屋敷へと足を運ばれて」
普段通りの穏やかな物言いだが、おどけた色が混じる。
「……お嬢様は殿下に直接お会いされないと、何度お話しても納得頂けないので爺はいささか困っております」
「いつも断ってくれてありがとう。セディ」
理由は不明だが、何故かアレクレイドはこの屋敷を度々訪ねてくる。その度に家令のセディは腰を折って断って貰っていた。
「爺は構いませんが……お会いにならないのですか? お嬢様は殿下に憧れておいでなのに」
「……憧れているだけで充分だから。本当は憧れるのも赦されるものではないけれど」
何せ日々命を狙っている死神と同じ容姿をしているのだ。顔を見せても不愉快なだけだろう。
おまけに死神の目を持っているアレクレイドには、呪いがはっきり目視出来てしまう。
そんな状況で会って話すのは難しく、遠くで憧れているだけでも本当に充分なのだ。それ以上を望んだりはしない。
「アレクレイド王子はお優しいから、きっと私の行いを赦して下さるのでしょうけど。だけどそんな善意に甘えられないわ」
優しいという言葉にセディが僅かに肩を震わせた気がしたが、コマドリに接するアレクレイドは優しすぎて鎌を振るうのを躊躇うくらいだ。
恐らく誰に対しても情愛を持って対応出来る素晴らしい君子なのだ。
幼い頃から芯がぶれずに確固たる信念を持っているアレクレイドを、ラファーリアは心から尊敬している。
だからこそずっと、そんな人物の魂を奪わなければならない死神の仕事が何より辛かった。
「お嬢様、お部屋にも薔薇を何本かお飾りしましょうか」
「そうね。お願いしようかな」
気を紛らわすにはちょうど良い。
香り豊かな白い薔薇はラファーリアの中のアレクレイドの印象そのものだった。
後より前の方がしっくりくるかなと思いまして。
割り込み機能を初めて使いました。




