死神見習いコマドリ
突拍子もなく書きたくなって
真っ黒表紙に金字で死神の書と刻まれた台帳を開き、ため息をつく。
与えられた罰なのだから行かなくては。
ラファーリアは拒絶しようとする心に鞭を打って、手足を動かした。
いっそ人形のように心を棄ててしまいたい。
この仕事についてから何度願ったか覚えていない希求がまた首をもたげて、呼ばれる先への足取りを鈍らせた。
「おっそーい。ラファーリア。僕を凍死させる気?」
「ごめん。ジョゼ。準備に時間がかかって」
実体のない自分たちに果たして死は訪れるのだろうか。
内心で疑問を抱きながら、ささくれだった心に蟠りを溜め込む。待たせてしまったお目付役に謝る態度は崩さなかった。
艶のある黒髪に金の猫の目をしたジョゼは、頭に猫耳があり尻尾もついている。
右目の下に2つ並んだ泣きぼくろが、目元を装飾品のように飾っていた。
動きやすい黒いタイツにブーツという出で立ちだが、そもそも身体は夜空に透けている。
腰には薄っぺらい死神の書を下げ、首には目玉のような飾りがついた死神の目のネックレスをかけていた。
ラファーリアも透けているが、背中には漆黒の翼が生えていた。蒼眼に赤みがかった桃色の髪を後ろで縛り、手には鎌を持って、黒いローブを身に纏っている。
死神の書と死神の目はジョゼと同じように身に付けていた。
「さて。今晩は奴のところしかない。……ラファーリア、今日こそ失敗しないでよ」
奴のところからと言われて、少しほっとする。いつも最後に回されるから、今晩は他のターゲットは存在しないのだろう。
死神コードネーム、コマドリのラファーリアは翼を広げ、クロネコのジョゼを抱えて飛び立ったのだった。
その命を狩るターゲットの元に。