表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/191

模索

そうやって、正月は終わった。

いつものような馬鹿騒ぎとはならなかったし、内に何やら懸念を残した状態であったので、王達も表面上は機嫌良く帰って行ったものの、内心は消化不良気味であったようだ。

その証拠に、帰る前にはもう、花見の話をしていたらしい。

とはいえ、今懐妊している妃達は軒並み卯月(4月)が予定日なので、恐らく花見には、同じメンツで集まるのは無理がありそうだった。

維月は、気になるので十六夜から瑞花の様子を聞くものの、そちらは特に変わる様子はないようだった。

漸からも全くあれから連絡はない。瑞花は、毎日月の宮にどこかの使者が来たと聴くと、どこからなのか侍女に聞いたりと、それを待っている様子だったが、漸はあの時ももうこちらからは何も言わぬと言っていたし、今さら待っても遅いというのが十六夜の考えのようだった。

維月も、それなら何故もっと早くにと思ったが、恐らく月の宮を里として、戻って来られると思っていたのだろう。

それが叶わないのを知った時には、もう漸はほとんど積極的に和解しようとは思っていなかった。

つくづく、どうしようもない方向へと向いているように思えた。

リミットは、恐らく出産するだろう卯月から数えて半年、神有月までには結論を出さねばならない。

だが、実際そこまで放って置いて、和解できるとは思えなかった。

ここは、できるだけ早く、和解したいなら行動に移すべきなのだろうが、瑞花は動かないのだ。

思った通り、維心はもう瑞花と友付き合いは控えよと言った。

漸との事がハッキリしない今、宮同士の関係にも関わって来るので、余計なことはするなということなのだ。

つまりは、他の宮の王達も、同じ事を妃に言っているだろう。

こちらから急げと忠告することもできず、維月は毎日案じていたのだった。


瑞花は、毎日考えていた。

自立の面から言えば、犬神の宮だろうと月の宮だろうと、生きて行けるので問題はなかった。

だが、お腹の子は漸の子なので、あちらへ引き取られる事になり、自分で育てたければあちらへ戻らないと無理な状況なのは、理解できた。

そもそも最初からそうだったのに、いったいどうして自分がこちらへ戻って来て、ここで母子二人、義両親に世話されてやっていけると思っていたのだろう。

自分が、いろいろと見失っていた事実を、そこで知った。

思えば、犬神の宮では軍神の女神達は、子育てはあまりしていなかったのだ。

師である多香子もそうだが、女神より男神に引き取られた方がその後の地位が安定するので、どうせ育って引き取られるのならと、最初から手放す選択をする女神が多かったからだった。

それらに囲まれて生活しているうちに、感覚がそちらへ変わって来ていた自分をそれで知った。

瑞花は、軍神としての自分に誇りを持っていたのだ。

だが、こちらへ戻るとそれはない。

まだまだこの、月の宮であっても女の軍神は居ない。

居た事もあったが、やはり馴染めず止めて、侍女か職人へと鞍替えしていた。

力の差がありすぎて、遣り甲斐がないというのがその理由だった。

瑞花は、そこそこ技術を身に付けたし、元が闘神なので役には立てるかもしれない。

だが、蒼がそれを許してくれるだろうか。

やはり、犬神の宮に帰るしかないのか。

そういえば、漸の他の皇子を産んだ女は、軍神だったらしいが関係を絶った後も普通に仕えているらしい。

それが誰なのかも、瑞花には知らされていなかったが、そういう選択肢もあるにはある。

しかし、漸を王として仕えねばならず、これまで夫としていたのにどうしても複雑な気持ちになってしまう。

そこまであちらの意識に染まっているわけでもないのだ。

漸からは、その言葉の通りあれから何もない。

中途半端な自分に、瑞花はほとほと困っていたのだった。


そんな中でも、日々は容赦なく過ぎて行き、如月を過ぎて弥生となった。

相変わらず神世は平和で問題ないが、最上位の宮である犬神の宮の、落ち着かない様は他の宮の王を焦らせていた。

漸自身は全く意に介さない様子だったが、それが余計に回りにどうにもならないのかと思わせて、一層落ち着かなくさせていた。

「…恵麻が、皇子を出産したらしい。」炎嘉が、弥生の会合の宴の席で言った。「少し早いが母子共に健康ぞ。そろそろ皆、産み月になるの。」

今回は、遠いので年に一度だけ場を提供させている、鷲の宮での会合だ。

焔が、言った。

「だから塔矢は来ておらぬか。公明も今にも生まれそうなのでと来られぬらしいし、那佐も今朝産気付いたとか連絡が来た。」

維心は、頷いた。

「皆、そろそろであるものな。卯月が予定の妃が多いとはいえ、もう弥生も中旬であるし、そろそろ生まれてもおかしくはない。綾はどうか?翠明。」

翠明は、答えた。

「綾も今にも生まれるのではというほど腹がせり出ておるのに、行って来いとうるそうて。どうせ産むのに我は役に立たぬから、居っても仕方がないとか言うて。こちらは案じておるのにの。」

箔炎が、言った。

「主もか。我もよ。初めてでもあるまいし、問題ないから行けと言われた。産気付いておったらさすがに来なかったが、まだ何ともなかったゆえな。まあ、確かに役には立たぬし、あれなら易く産むだろうて。」

維心が、ため息をついた。

「維月が案じておってな。杏奈はコンドル城に里帰り出産で、里に帰って居るから月の宮は落ち着いておるらしいが、あそこにはまだ瑞花が居るし。毎日まだかまだかと十六夜に聞いておるわ。十六夜は、あちこちの状況を一々維月に説明しておって、面倒そうだったわ。早う終わって欲しいと愚痴っておった。」

全部終わるまで報告させられるからだろう。

「維月は己で見られるだろうが。何故に十六夜に聞くのよ。」

維心は、答えた。

「十六夜の方が出産の波動を見極められるからぞ。嫌になるほど維月の出産を見て来たゆえ、分かるだけだと十六夜は言うておった。」

十六夜がそうなったのは、維月がポコポコ子を産んで来たからだ。

そのほとんどが維心ゆえなのだから、維心に文句を言うことはできないだろう。

そこへ、十六夜の声が割り込んだ。

《樹伊!楢が産気付いたぞ!》

え、と樹伊が杯を置いた。

「誠か?!」と、立ち上がった。「すまぬが帰りまする!」

炎嘉が、頷いた。

「仕方ないの。気を付けてな。」

樹伊は、頷いて急いでそこを出て行く。

十六夜は、続けて言った。

《あー、一応言っとくが、綾は深夜ぐらいから来るな。椿は明日明後日ぐらいだろう。子供の気の様子が段々やる気になって来てるからな。》

やる気になるのか。

確かに生まれるためにはそこそこ覚悟も必要なのだろう。

翠明は、腰を浮かせた。

「今夜か?!ならば、戻っておかねば。」

《生まれるのは明日の朝から昼だぞ?ちなみに皇女。》

そんなことまで分かるのか。

「それでも帰る!」と、翠明は皆を見回した。「ではな。帰るわ。」

皆は、頷いた。

「まあ、落ち着いてな。焦ってもまだ宵の口であるし、始まるのは深夜ぞ。」

翠明は、頷きながらももう出て行って居なかった。

箔炎は、ため息をついた。

「そうか、もう明日明後日か。それで、どちらぞ?十六夜よ。」

十六夜は、答えた。

《え?ええっと、お前んとこは皇子。樹伊のとこは皇女、杏奈は皇女、桜は皇女、美穂は皇子で瑞花は…こいつだけ、なんか分からねぇんだよなあ。やる気がない感じでな。でも皇子だと思う。》

瑞花の子だけやる気がない?

皆は眉を寄せたが、漸が言った。

「別にどちらでも。乳母は揃えておるし、生まれたらあちらに引き取るわ。」

炎嘉は、言った。

「そういう事ではなかろうが。主の子だけやる気がないのが問題なのだ。外の様子を気取って生まれるのに後ろ向きなのではないのか。やはり、少し歩み寄った方が良いのでは。」

漸は、首を振った。

「だから我はやるだけやった。あやつは何も言うて来ぬのだから、我は知らぬ。」

しかし、十六夜が言った。

《心配なのは、やる気がないことなんでぇ。出産ってのは、母親だけが頑張ってどうにかなるわけじゃねぇ。子供がさあ出るぞってやる気になることで、母親が気取って産気付く。子供が積極的に降りてって、母親がそれを助けてやっと出られるわけだ。よく考えろよ、野生の鳥だって卵の殻を自分で割って出て来るだろうが。なすがままなんて、そのまま死んじまうぞ?母親だって力尽きるわ。ヒトの子だって母親と手を取り合って励んで出て来るのによ。みんな待ってるのを知ってるから、頑張らなきゃって健気に思うんだ。まあ、神の子だから、治癒の神達が気で引っ張って引き摺り出すだろうけど、出て来たら生きようとせにゃ呼吸だって止まるわ。》

聞きながら、王達は顔色を青くした。

つまりは、このままでは生まれてもまずいのでは。

「…ちょっと待て、ならば生まれるまでにそやつのやる気を出ささねばまずいのでは。」

十六夜は、息をついた。

《だな。高彰だったら分かるだろうが、良かれと思って宿っても、やっぱここじゃ生きるの難しいわとなったら戻ってもう一回別のとこにしようと思うだろ?そいつはまだ中に居る。迷ってるんだろうな。だが、生まれる前にやっぱやめたとなったら、抜けてさっさと黄泉に戻る。空の器は、生まれても長くは生きられねぇし。》

高彰は、渋い顔をした。

高彰自身、龍に生まれるのを嫌って生まれる前に体を抜けた過去がある。

ヤバいではないか。

皆が思ったが、漸は言った。

「それはそやつの選択よ。別に生まれても我が宮では我の子として問題なく生きられるのに、父母が共でなければ否と思うのなら、我にはどうしようもない。現に我の皇子は母親無しで育ったし、我もそうよ。やる気次第なのだ。それがないのなら、仕方がない。」

それはそうなのかも知れないが。

皆が他人事なのに焦る中、漸は表情も変えなかった。

犬神の宮は、弱い者は淘汰されて出来上がった宮。

つくづく、皆は実感して価値観の違いに戸惑っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ