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遊び

そんなこんなで、維月はまた茶会の部屋へ戻り、妃達に席替えの件を話した。

亜寿美もすっかり気を取り直していて、維月が不在の間も、他の妃達と香の話で盛り上がって、父王にも文を書き、皆でそれを問題ないか見てから、送った。

そうこうしている間に鵬がご準備が整いましたと報告に来て、隣の王達の所へと、戻る事になった。


部屋へ入ると、王達は入って右側からズラリと並んで座っていて、左側が妃のエリアに替えてあり、王との間には几帳が立てられてあって、前にもそれは並んでいるので、王から妃が見えない仕様に変わっていた。

中央の、ちょうど妃と王の境目辺りは維心が座り、維月は几帳を挟んで隣りの席に案内された。

そこに維心の意地を感じて、維月は苦笑しながらそこへ座った。

真隣りは、序列は関係なく一番仲が良い綾で、その隣りは桜、椿、亜寿美を挟んで向こう側が瑞花、楢と万全の態勢だ。

これで、何かあっても両側から何とかフォローする事が可能だった。

これなら良いかと維月がホッとしていると、炎嘉が言った。

「これから楽でもと話しておっての。」

と、前方の畳へと視線を移した。

そこには、確かに楽器が袋から出して置いてある。

よく見ると、維月達の後ろの畳の上にも、楽器が壁際に並べて置いてあった。

どうやら、妃はこちらで参加させようということらしかった。

維心が、言った。

「まずは我らがそちらで弾くかと思うておったが、主らは先にでも演奏できそうか?どちらでも良いがの。」

維月は、隣りの綾を見た。

綾は目だけで頷いて隣りを見、そしてまた隣りと皆が亜寿美の方へ視線を送る。

亜寿美は、困ったような顔をしていた。

「…突然のことで、曲目などもまだ話し合わねばなりませぬ。お待ちいただきましたなら。」

維心は、頷く。

維月は、表向きおっとりと、その実急いで立ち上がると、楽器の方へと向かう。

他の妃達も、亜寿美を囲むようにして維月についてそちらへ移った。

とはいえ、几帳に囲まれているので、外からは移動している影しか見えない。

焔が言った。

「渡は琵琶だの、やはり。関はどうか?主の方が出来るとかなら琵琶にするか?それとも琴か?」

渡が、急いで言った。

「いや、ここは我が。」と、関を見た。「主は皆の演奏を聞いて学ばせてもらうが良いぞ。」

箔炎が、言った。

「なんぞ、弾かぬのか。まあ、人数は居るから良いかの。蒼は?」

蒼は、首を傾げた。

「曲によりますけどね。知らない曲は無理ですし。」

炎嘉は、ハッハと笑った。

「主は正直だのう。」

そんな一見和やかな雰囲気の王達に比べて、妃達は小声で壁際に集まって話し合っていた。

「…どうしましょう。亜寿美様は、どの琴ならいけそうですの?」

椿が言うのに、亜寿美は自信なさげに答えた。

「実家の宮でやっておりましたのはそちらの和琴で。でも…そんなにたくさんの曲は知りませぬ。父ほど弾けぬで、いつも父に教わっていたのですけど…。」

維月が、頷く。

「我だってそうですわ。」と、綾を見た。「綾様、曲目はどうしたら良いと思われますか。」

綾は、頷いた。

「簡単な曲で、見栄えのするというと…この人数ですし、雪の花は。」と、皆を見た。「ご存知?」

瑞花も桜も、楢も亜寿美も一斉に頷いた。

「はい。知っております。」

もちろん維月も知っている。

月の宮で、碧黎に教わったのだ。

「我もそれなら父に教わって弾けますわ。いつもの通り十七弦で、主旋律はお任せください。後は、皆様にお任せですけど。」

椿は言った。

「我も何とかそれなら弾けますわ。王に教わりましたから。では、楽器を決めましょう。綾様は箏でよろしい?」

綾は、頷く。

「桜様と亜寿美様は和琴で、楢様と瑞花様が琵琶で。そうですわね…担当する旋律を分けましょう。」

綾は、ボソボソと皆にここは誰、ここは誰と振り分けて行く。

椿は、亜寿美に言った。

「桜は我の娘ですのよ。和琴は公明様に教わってかなりの腕になっておりますし、亜寿美様はそれに合わせて行けば大丈夫。トチっても分かりませぬから。落ち着いてやりましょう。」

亜寿美は、頷く。

「はい。王の御為にも、ここは我が励まねば。少しはできるはずですの。父の名誉のためにも、励みます。嫁いでからやっておらなんだだけで。」

皆は、うん、と一回頷き合った。

王が弾けなくても、王妃が弾けたら良いのだ。

維月は、振り返って几帳の向こうに話し掛けた。

「王。こちらは何とかお聞かせできそうですわ。どう致しましょうか。」

お、と炎嘉が言った。

「そうか。ならば先に聞かせてもらおうかの。良いよな、維心?」

維心は、頷いた。

「良い。こちらはまだ何を弾くのかさえ決まっておらぬしな。」

どうせそうは言っても先に弾くつもりはなかったくせに。

維月は、思った。

何しろ、まだ楽器のある畳の上にも移動していないのだ。

維月は皆に頷き掛けて、そうして楽器を侍女達に移動させてもらい、準備を始めたのだった。


雪の花は、ゆったりと始まった。

相変わらず維月が真ん中の主旋律を受け持っていて、綾がそれを引き立てるように演奏を始めて行く。

椿も綾についていた。

そこへ、和琴が二台続いて入って来て、琵琶が入って一気に明るくキラキラと舞う、雪の花が見えるようになった。

「…ほほう。良いなあ。」箔炎が言う。「維月の弾きかたがいつもと違うな。ハッキリしておるのに緩急のある、なんと言うか維心とはまた違う音ぞ。」

維心が、眉を寄せた。

「我は教えておらぬからの。恐らく碧黎の音。維月は、それをそのまま弾いておるのだ。」

炎嘉が、言った。

「…なんとの。この和琴、桜だけではないの。誰ぞ?」

琵琶は、恐らく楢と瑞花。

箏は綾と、この力のある音は椿だろう。

ということは…。

「…亜寿美か?」と、渡は、驚いた顔をした。「あやつ、琴が弾けたのか。」

宮では弾いた事はない。

しかも、これは結構な腕であるように思えた。

だが、思えば嫁いで来る時に、楽器だけは多く持って来ていたものだった。

「桜と比べて引けをとっておらぬ。桜を引っ張る勢いぞ。かなり弾けるぞ。」

ということは、実家の宮で教わって来ているということなのだ。

「そうか…そうだの、仁弥は雅事が好きだったはずよ。娘に教えておらぬはずはないのだ。しかも、仁弥はかなりの腕なのだ。それには敵わぬが、かなりできる音よ。」

志心が、合点がいったという顔をして言った。

関は、その美しい旋律に驚いた…亜寿美は、楽ができたのだ。

そうやって、皆が皆腕が良いので美しくまとまって、雪の花は終わった。

焔が、手を叩いた。

「素晴らしい!いつもながら維月と綾の息はぴったりであるし、何より和琴よ。あれだけ優しげであるのに、しっかり存在感があって。」

炎嘉も、頷いた。

「誠にの。琵琶の軽やかな様も誠に秀逸であった。音がぴったり合っておって。これは負けていられぬなあ。」と、関を見た。「妃があれだけ弾けるなら、主は聴くだけというのも分かるわ。耳が肥えてしもうて、己で励もうと思わぬようになるものな。あの和琴の音なら、梅の花など聴いてみたいのう。恐らく良いぞ。」

几帳の中でそれを聞いていた維月が、亜寿美に小さく言った。

「…亜寿美様、誠に良い腕であられます。自信をお持ちになって。梅の花、弾けますか?」

亜寿美は、それでも自信なさげに頷いた。

「はい。でも…一人では自信がありませぬ。父には全く敵わぬ腕なのです。きっと皆様とご一緒でしたから良いように聴こえておるだけで。」

綾が、首を振った。

「いいえ、亜寿美様。誠に良い腕でありますわ。それは仁弥様がかなりの名手であられるから、そのように思われるだけですの。お気張りになって。」

亜寿美は、まだ不安そうだったが、頷いた。

「はい。王の御為に。」

王が弾けぬのだから、己が弾かねばという、亜寿美の一生懸命さが伝わって来る。

その健気な様に、維月は頷いた。

「大丈夫。」と、王達の方を見た。「亜寿美様は、関様の御為に演奏されるそうですわ。」

関は、驚いた顔をする。

焔が、からかうように関をつついた。

「なんぞ、見せつけてくれるの。では、聴かせてくれるか。我らはついでであろうがの。」

焔が笑ったので、皆がつられて笑う。

亜寿美は、そんな中でも真剣な顔をして、妃達に見守られながら、和琴を引き寄せて構えたのだった。

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