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移り変わり

妃達が同じ場所へと収まって、王達は話を続けた。

「だが、断ったのだろう維月?もう来るとは言うておらぬか。」

維月は、頷いた。

「はい。あちらへ王達も近くに居る場でありますし、漸様と和解されてから、と返してから、連絡はありませぬ。恐らく、分かってくださったのだと思いますけれど。」

渡が、ため息をついた。

「まあ、あれは初に厳しく躾けられてはおったが、何しろ我に似ておって撥ねっ返りでな。もし、あれがそれを出しても良いと思うたら、気が緩んだらいくらでも出て参ろうかとは思う。何度も言うが、元は淑やかな女ではない。夜な夜な父や母、侍女の目を盗んで宮を抜け出して参る娘であった。そうして、あのような事件が起きた。それから、改心してこちらで励んでおったようだが、また恵まれた地位に就いて、そうして本来の闘神としての能力を存分に使って生きておったなら、気が大きくなっておってもおかしくはない。」

綾たちが、不思議そうな顔をしている。

よく考えたら、綾は瑞花のあの事件を知らないのかもしれない。

だが、綾は弁えているので、そこではそのことについて、訊ねたりはしなかった。

炎嘉が、それに気付いたのか言った。

「その事はもう良い。皆黙っておるが知っておる。それより、瑞花がどうするかぞ。ここは漸、一度あちらへ訪ねてみたらどうか?話して来なければ始まるまい。」

だが、漸は首を振った。

「それはできぬ。この前月見の席で、いきなりに訪ねるなどと我を咎めたのではないのか。我からはできることは全てやった。もしも話すというのなら、それはあちらから申し出て参った時のみぞ。我はもう、何もせぬ。」

そうなるわな。

皆は、漸が言うことが間違っていないので、それ以上何も言えない。

なので、仕方なく維心が言った。

「あちらが話す気にならねば無理ぞ。この話はもう…、」

そこまで言った時、侍女の声が告げた。

「高瑞様、お越しでございます。」

高瑞が来た…?

皆は、あまりにもタイミングが良いので驚いた。

ずっと黙っていた、蒼が言った。

「…入れ。」

扉が開いた。

そこには、高瑞が相変わらずスッキリと美しい姿でそこに立っていた。


高瑞は、自分を見つめる皆に言った。

「…歓談しておる所、邪魔してすまぬな。話しておきたいと思うての。」

維心が、頷いた。

「良い。主なら歓迎する。座るが良い。」

本来、ここは蒼の宮なので蒼が言うのだろうが、維心が場を仕切っているのはいつものことなので、いつもの調子で言った。

高瑞は、頷いて入って来て、言われるままに席についた。

炎嘉が、言った。

「天媛は連れてこなんだのか?」

高瑞は、答えた。

「遊びに来たのではないのでの。話しておかねばと思うたのよ…特に漸と、渡にな。」

漸と渡…。

ということは、やはり瑞花のことだろう。

漸が言った。

「申せ。」

高瑞は、頷いて続けた。

「瑞花と話して参った。天媛があれを甘やかせるゆえ、我は黙って見ておったがあまりに礼を失しておると思うてな。そも、我はあれが嫁ぐために蒼から頼まれて養子にしたのであって、我が子にしようと思うたのではない。ゆえ、此度の事はハッキリさせておく必要があったのよ。」と、漸を見た。「主、宮ではもう、あれとの関係は終わったとされておるの?」

皆は、驚いた。

漸は、頷いた。

「その通りぞ。我が宮には王妃という地位はもとより無い。ゆえ、宮を出て行った時に、そうなった。」

箔炎が、言った。

「何故に主はそれを知っておる?我らも今さっき、漸から聞いたばかりぞ。」

高瑞は、苦笑した。

「天媛には知らぬことなどないからの。あれが案じて我にそう申すゆえ、ならば時は無いなと本日、瑞花と話した。あれが己の地位に胡座をかいておるなら諌めねばと思うたのもある。あれとしては、婚姻関係であるから問題ないと思うておったようよ。だが、ならばこちらは複数を娶ることが可能であるから、仮にあちらで他の誰かを見つけても咎められることはないのだと教えたのだ。」

焔が、言った。

「確かにそうだが、漸の宮では一人に一人。もし宮で誰かを見つけたのなら、瑞花は宮に帰ることはできぬ。帰ったとしても、もう漸の相手ではない。そうできぬからぞ。続けるのなら、外に居るよりなくなる。」

高瑞は、頷いた。

「その通りぞ。ゆえ、その覚悟はあるのだなと問うたのだ。知らぬでいたら、ならぬからの。」

それでは王妃ではない。

維月は、それを聞いて思った。

王が外に誰かを持つ事は、時々あることだが、それは娶れないほど身分が低いか、家族が罪人などわけありの時のみだ。

そして、それは妃とは言わなかった。

「…それはきついの。王妃からただの遊び女と同じ扱いに転落することになる。」

箔炎が言う。

高瑞は、頷いた。

「そう。それを分からせようと思うたのだ。だが、未だ結論は出ぬようで、それならこちらで子を育てると申すから、我は厳しいようだが面倒は見ないと申し渡した。養子にしたのは、あくまでも好意ぞ。嫁ぐためのな。渡も最近同じことをしておったゆえ分かろうが。その娘が、真実自分の娘として、出戻って来るとなったらどうする?」

渡は、顔をしかめた。

「それは親に返すわ。あくまでも、嫁ぐための事であるから。我は、旗清のために養子にしたのだからの。そことの関係が切れるなら、我にはもう関係ない。」

高瑞は、また頷いた。

「その通りよ。ゆえ、ここで面倒を見てもらうつもりならば無理だと教えた。そうしないと安易に決める可能性がある。あれは、そもそももう皇女ではなかった。ここの侍女であったからな。蒼が頼むゆえに受けたことぞ。高彰にも関わるのに、養子関係を続ける事はできぬ。」

渡は、息をついた。

「そうなるわな。今なら我が引き取っても良いが、しかしあれの今の様子では美穂が困るやも知れぬな。主の宮に慣れ過ぎておる。となると、漸と離縁したら犬神の宮に戻って軍神として漸に仕えるか、ここでまた蒼の臣下として生きるしかなくなる。」と、蒼を見た。「どう思う、蒼?」

蒼は、答えた。

「別に…また教師か侍女として仕える事ができるなら、それでもいいんですけどね。高瑞も居るし…これまで通りに穏やかに仕えるのは難しいかもしれません。まして、これまでの経緯を臣下達は知っているし、仕えづらいかもしれませんね。王妃から、また侍女でしょう?今の状態では…教師はまた適性を見てからしか、できないでしょう。」

忘れている事も多そうだからだ。

炎嘉が、息をついた。

「…困ったことよ。ならば漸とやり直した方が良いだろうが、漸がのう…。」

漸は、特に表情も変えずに言った。

「別に我はどちらでも。だが、今も言うたように我らは一人に一人であるので、あれが立場云々でまた我のもとに戻ろうと言うのなら、それは否だと言うておこう。それなりにお互いに愛情を持たぬと、我らは関係を解消して生きて来た。あちらにそれが無いのに、続けようなど思わぬ。我からはどうかと言われたら、主らはどうよ?何を言うてもなしのつぶてであった女が、生活が苦しくなるのを知って戻りたいとか言うて来たら。その一人に決めておるのだぞ?どのような心地になる。」

それには、皆が顔をしかめた。

「それは…その一人であるものな。複数ならとりあえず放って置いて世話だけするし、他の妃を愛して大切にすれば良いかと思うが、一人きりでそれではなあ。ならば離縁でと思うわな。」

焔が言う。

皆も、ウンウンと頷いた。

「昔は相手の宮も養う義務があったゆえ、そういった縁が多かったが、今は違う。再編して皆自立した宮を持ち、そういう無理な婚姻はなくなった。そのお蔭で妃も、一時期一宮20人とか居ったのが、今は多くて三人。ほとんどが一人か二人ぞ。たった一人というのなら、それはお互いに愛しておらねば無理だとなるわ。あちらもだろうが、こちらもな。」

漸は、頷いた。

「そういうことぞ。我は、一度は終生共にと思うたのだからと、己のせいでもあったし何度も歩み寄ろうとした。だが、それを受け入れなんだのは瑞ぞ。ゆえ、我は今、高瑞からそれを聞いて、今さら瑞がよりを戻そうと言うて来ても、その裏が見えておるし、飲めぬ心地ぞ。それは、主らに分かってもらいたいのだ。ただ、どうしてもと言うのなら、子を産んで半年と期限を切っておるのだし、一度戻って試してみても良い。だが、瑞に愛情がなく、我も愛情を持てぬ場合はもう無理ぞ。我にはたった一人なのだ。主らのように、複数選択肢があるわけではないのだ。」

漸の言うことは、分かった。

つまりは、もう遅いのだ。

このまま、犬神の宮に戻ったところで、恐らく別れる時期を遅らせるだけになるのが、なんとなく皆には透けて見えた。

「…分かった。」高瑞は、言った。「それも道理ぞ。最初は確かに主が悪かった。だが、戻りたいのならその後は瑞が悪かった。それは分かる。ここからは、我は口出ししまい。何故なら我は、あれの誠の父ではないからぞ。」

渡は、言った。

「我とて父と名乗る事は長くしておらぬし、その資格も無かろう。あれは、主のもとから嫁ぐことを選んだしな。我に似て生まれて不憫であったが、そのお蔭であの宮で地位を勝ち取ったのに。また我の血のせいで浅はかになるか。誠に、皇女だけは産んでくれるなと美穂に言いたいわ。」

美穂は、困った顔をする。

第二皇女の楢は、姉のことなので、終始下を向いたままだった。

楢は、渡に似なかったのだ。

高瑞は、立ち上がった。

「では、我はこれで。邪魔をした。話しておかねばと思うたのだ。漸の心地も知れて良かったことよ。これで我も、いろいろ心積もりできようしな。」

そこが胆だったのだろう。

高瑞にも、天媛が言わないことを知っておきたいということがあり、ここへ来たのだ。

皆は、重い空気で高瑞を見送ったのだった。

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