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侍女

漸は、どこかの宮でハッと目を覚ました。

部屋は暗い。

目を凝らすと、そこは小さな部屋で侍女や侍従に与えられている控えの間のようなものだった。

…あれは何だったのだ。

漸は、ハアハアと息が上がる自分を、何とか落ち着けた。

それにしても、あの場で気を失ったにしても、侍女の部屋に押し込むとは何事だ。

腹を立てて布団をはね上げて寝台から降りると、粗末な臣下の着るような寝間着姿であるのが分かった。

…何ぞ?

廻りを見ると、同じ部屋の反対側に何やら寝台があって、そこに何かが動く気配がした。

「え…?!」

漸は、思わず出た聞き覚えのない声に口を押さえた。

…何だこの声…!

そして、うーん、と唸る寝台の誰かは、女の声であるのが分かった。

女…?!

そう思った瞬間、背筋に冷たいものが流れた気がして、そんなはずはないと急いで部屋にある姿見の前へと駆け出した。

そして、呆然とした。

その前には、見たこともない男が、驚いた顔でこちらを見ていたのだ。

…どういうことだ…!!

漸は、思った瞬間、心に何かが浮いて来た。

…そうだ…我はこの宮の侍従。今日、王の着物を揃えて準備をし、他の宮へと宴に出掛ける王を送り出した…。

ならば、この漸という記憶はなんだろう。

鏡の中の自分が、呆然としているのが見える。

段々に、その顔を毎日見ていた記憶も浮き出て来た。

「…お兄様?」女の声がする。「どうしたの、まだ交代の時ではないけれど。今夜は王は戻られないから、ゆっくり休めと康久(やすひさ)様が仰っておられたでしょう?」

…そうだ、これは妹の千早。

「…おかしいのだ。」言葉が勝手に出て来る。「何か、王であったような記憶があるような…。」

相手は、笑った。

「まあ。お兄様ったら。夢をご覧になったのでしょう。ゆっくりなさって。我は明日は早番だから、まだ休みたいわ。おやすみ。」

漸は、頷いた。

「ああ、分かった。」

そうだ、我は千早を養うために宮へ上がった克哉(かつや)

ここへ来た時から、妹も共に侍女の修行をさせてもらえる事になり、こうして部屋を与えられた。

だったらこの記憶はいったい何だ…?!

漸は、混乱して来る頭の中で、いつしかまた、気を失うように眠ったのだった。


また、南へと戻って行った王達を見送って、椿が言った。

「…あれは…どうなったのでしょうか。漸様は、いったいどこに?」

維月は、几帳を侍女達に戻させながら、答えた。

「お父様は、何でもその気になればおできなりますので。恐らく気の色も大きさも変えて、どちらかに漸様をお送りになられたのかと。ですが、問題ありませぬ。お父様は、神世の益にならぬことはされないので。」

綾は、言った。

「維月様でもどちらに行かれたのかわからないのでしょうか。」

維月は、苦笑した。

「我は、地の陰でもありますので。恐らく力の痕跡を追えば分かるのでしょうけれど、知ろうとは思いませぬ。もし龍の宮であったりしたら、気になって仕方がありませぬしね。」

確かにそうだ。

表向き、侍女でしかないのだから、どこの宮でも居る可能性があるのだ。

「ですが…あの王が侍女など。とても務まらぬ気が致します。」

瑞花は、案じてそう言った。

維月は、慰めるように言った。

「それでも、帰って来られたら女の気持ちもお分かりになるのではないでしょうか。神世の理も、知らねば回りから大変な事になりますゆえ、恐らく習得されましょう。今は、お心安く。お子を産むことだけを考えておられたら良いかと思いますよ。」

瑞花は頷いたが、自分のせいだと思っているようだ。

十六夜が、言った。

「…まあ、親父のやり方は極端だが、だいたい上手く行くからよ。多分大丈夫だと思うぞ?そもそもお前、そんなに心配なら、話を聞いてやれば良かったんじゃねぇのか。突き放したいなら、徹底的にやりな。その方が相手のためになることだってあるんだからよ。」

その通りかもしれないが、瑞花は浮かない顔だった。

綾が、言った。

「…これぐらいやった方が、王というお立場のかたには良いかもしれませぬわね。庇いたいなら、今から瑞花様が碧黎様にお願いして、瑞花様がまた宮へお戻りになってお教えすることになさったら、戻れるやも知れませぬよ。どうですか?」

瑞花は、驚いて首を振った。

「今戻るなんて…。」

維月は、頷いた。

「そうでしょう。ならば、ご納得なさらないと。あのまま放置はできぬのが皆様のお考えでした。瑞花様が離れられて、野放しになったら何があるか分からぬのです。そんな無責任なことで良いのですか?」

言われて、瑞花はハッとした。

そう、自分は無責任なことを言っている。

王はそのままにして欲しいが、自分はここに居たいのだ。

瑞花は、納得するよりなかった。

「…はい。申し訳ありませぬ。」

維月は頷いて、言った。

「では…もう瑞花様は戻られた方がよろしいわ。王達にも、思わせ振りだと言われてしまいました。我らはまた、王達にご機嫌伺いに参った方がよろしいかと思います。」

それには、綾も渋々頷いた。

「はい。我もそのように。こうなった今、離れておる意味もなくなりましたし。このままにしたら、さすがに王もご機嫌がお悪くなりましょう。」

妃達は頷いて、そうして瑞花は仕方なく、北の対へと戻って行った。

維月は、妃達を引き連れて、気楽だったのにと名残惜しく思いながら、南の庭へと向かったのだった。


漸の人形は、漸の控えに寝かされた。

蒼は、こちらへ戻って来る前に何があったか一応高瑞に話に行っていた。

維心達は、そのまま妃達の桟敷の上で浮かんでいるわけにも行かないので、仕方なくそのまま南へと戻って来たが、漸が居ないのなら同席しても良いのではないのか、と思い始めていた。

焔が、言った。

「…別に我は己の妃が居るわけでもないし、分けられていても問題ないが、主らは気になるようだの。とはいえ、十六夜は女の型になったらあんな感じか。あやつは黙っておったらかなり美しいのう。」

炎嘉は、頷いた。

「我は前にも見たことがあるが、あれが何も考えずに女の型になったらあれなのだ。維月とは全く似ておらぬが、それでも気の強そうな、それでいて強烈な癒しの気を持つ女になるゆえ、主が言うように黙っておったら男が放って置かぬだろうの。実際は、中身が十六夜であるからああだが。」

箔炎が言った。

「まあ、我らとて女の型になろうと思うたらいくらでもなれるであろうが。維心などそれは美しい型になるぞ。炎嘉も、見た事はないが華やかな女になるのではないのか。」

炎嘉は、顔をしかめた。

「維心が女の型になっておったのは、維月が男の型になってしもうた時に必要に迫られてであったわ。普段、遊びでなったりせぬ。我だって女になろうとは思わぬのに。」

維心は、言った。

「そうよな。好んでやることではないわ。そも、型だけで機能などは全く変えられぬから、子を産む事も出来ぬし本物の型ではない。あくまでも、中身は元の己の性であるから、見た目だけ変えてもの。なので、主らが十六夜を見て呆けておったのは滑稽であったわ。」

焔が、ブスッと頬を膨らませた。

「それは、見慣れない美しいものがあったら見るわ。あやつは見た目だけでなく癒しの気が強烈であるからな。呆けもする。」

しかし、渡が言った。

「…だが、主らは気付かなんだか。美穂を始め、妃達の体からあやつの気が気取れたぞ。あれはどういうことぞ。まさか、あのような所で共に居って手を出すなど不可能であるし、あの時何も言わなんだが、気になって仕方がないのだがの。」

塔矢が、頷いた。

「それは我もそのように。誰も何も言わぬので、我は黙っておったのだがの。」

翠明が、言った。

「我も気取ったが、月の結界の中で浄化の光にされされておるし、特に気にしておらなんだ。そも、綾はあれだけ気分が悪そうだったのに、それは顔色が良かったのだ。ならば細かい事は良いかと思うて。主らも今言うたように、あんな場所で手籠めになどできぬしな。十六夜の事は知っておるし、あれが女に手を出すとは思えないゆえ。」

翠明は、少なからず十六夜の事は知っている。

なので、十六夜に対して嫉妬心とか、そんなものは湧かないようだった。

維心も、頷く。

「十六夜はそういう欲求自体がないゆえな。手籠めにして欲しくてもしないだろう。ゆえ、確かに妃達に十六夜の気は残っておったが、そういった意味ではないと思う。後で聞いてみたら良いではないか。そも、腹に子が居るのに、もし何かあったらあれの気には主らは誰一人敵わぬ。今頃、軒並み子は流れておるわ。子が無事であるのなら、何もない。」

そうは言っても、妃達から他の男の気が気取られるということは、そういう事だと言うのが常識の世の中に居るので、王達はだんまりだ。

維心と炎嘉は顔を見合わせて、ため息をついたのだった。

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