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茶会の席で

維月、瑞花、椿、杏奈、美穂、綾、恵麻、明日香、桜、楢の10人は、小さ目の応接室へと案内され、そこで椅子へと腰かけた。

これから、正月の遊びも恐らくこの10人で挑むことになるし、正月は杏奈は里帰りで居ないまでも、残りの9人はきっと一緒だ。

となると、皆で知り合って仲良くしない事には、きっと気を遣ってつらい事になるのだ。

なので、ここは皆で明日香を育てるようにしなければと、維月は思っていた。

だが、茶が運ばれてくるのを待つ様も、茶器を扱う様も、明日香に非の打ちどころなどなかった。

きちんと上位の者達が茶を口に運ぶのを待っているし、話すのも控えめで、亜寿美の時のように、ここがまずい、という所が全く見当たらなかった。

維月は、言った。

「それにしても、落ち着いて来られましたら、明日香様には全く非の打ち所がありませぬわ。いったい、何を案じてらしたのかと思うほどです。」

それには、綾も頷いた。

「はい。きっと、とても励まれたのですね。おかしなところなどありませぬから、もっと自信をお持ちになった方がよろしいですよ。」

明日香は、茶碗を置いて、ため息をついた。

「…はい。学んで来ましたことを、実践で使うのは何しろ初めてのことでありまして。もし知らぬところで粗相をしてしまってはと、案じて混乱してしまって、お見苦しい様をお見せしてしまいました。何しろ、上位の王妃様方とご同席するのは、本当に全く初めてのことでありますの。我などに、過ぎた席であると思うておりました。」

落ち着いて聞いてみると、明日香はしっかりとした良い女神だった。

年相応に落ち着いていて、言葉にも乱れたところはない。

維月は、言った。

「格がどうのと王達は仰いますが、我らはそんな事は気にしておりませぬ。こうして共に茶を飲んだり、皆で楽しく過ごすのが目的であって、誰かを貶めようと同席するのではありませぬから。明日香様は、こうして見ると、ご自身が仰るより、ずっとしっかりと礼儀が身についていらっしゃいますわ。問題ありませぬ。王達の前では、微笑んで頷いておったら良いのですから、分からない時はそのようにしてくださいませ。女は、その気になればずっと黙っていられるのが、特権なのでありますから。」

綾が、ホホと笑った。

「まあ、誠にその通りですわ。常は物を申す事も制限されるのですから、嫌な事は黙っていられるのは特権でありまする。お困りになったら、それで凌げば良いのです。問題ありませぬ。」

明日香は、段々に何とかなると思って来たのか、微笑んで頷いた。

「はい。ありがとうございます。」

良かった、上手くやれそう。

維月は、初対面の明日香がそんな風なので、ホッとしていた。

他は、いくらか同席もしたことがあるし、個人的に話したこともある女神ばかりで、皆上位の王の皇女だ。

明日香だけが、面識もなく分からなかったのだが、明日香もこうして見ると、しっかり学んで分かっているのだ。

このまま、しばらくはこの序列で行くのだろうし、ここは皆で協力し合ってやって行こうと、維月は決意を新たにしていた。


そんなわけで、美穂と渡の婚姻の後の宴であるにも関わらず、新しい序列の妃達との対面式のようになってしまったのだが、和やかな雰囲気で交流できたので、良かったと維月は思っていた。

綾も、来年のお正月はまた楽しみですわねと話を振ってくれている。

だが、正月の前にはまだ七夕もあり、月見もある。

そこでまた、会えるような気がするし、正月まではまだ間があった。

それまでに、今少し仲良くなれたなら、と維月は思っていた。

数日共に過ごすのだから、やはり仲良く友として過ごしたいからだ。

何をしても一番上の維月は、主従関係のような立場は、嫌だった。

月見、と考えが至って、ハッとした。

…そういえば、明日香は楽器ができるのだろうか。

維月は、急いで聞いてみた。

「時に明日香様、楽などはいかがでしょうか?何か弾かれますの?」

明日香は、すっかり打ち解けていたので、微笑んで維月に応えた。

「はい。王が大変に楽をお好きであるので。我は嫁いでからではありますが、ずっとご指南頂きまして、琴なら何でも。笛も、琵琶も王から習っておりまする。」

そうか、仁弥だから。

維月は、ホッと肩の力を抜いた。

ならば、困る事はないようだ。

綾が、興味を持ったようだった。

「まあ。明日香様には楽がお好きであるのですね。我らも、よう合奏などを致しますのよ。維月様は、十七弦が大変に見事で。」

維月は、慌てて言った。

「まあ。我など。綾様の筝の素晴らしさに比べましたら。」

椿が、言った。

「瑞花様と楢様の琵琶も大変に良いのですわ。名手の域でありますの。では、月見が楽しみでありますわね。きっと、また合奏をと王達が言い出しそうですし。」

維月は、何度も頷いた。

「誠に。いっそ、ここでもう曲目と担当楽器を決めてしまっておきませんこと?そうしたら、宮で練習できるので、安心して当日を迎えられますわ。いつも、いきなり演奏しろと仰るから、王は。」

綾が、頷いた。

「それは良いお考えですわ。では、何に致しましょうか。人数が増えましたし、曲も選び放題ですわね。」

皆の会話が、弾んで行く。

維月は、これで次の合奏は気負わなくて済みそうだと思っていたのだった。


王達は、酒も進んで話しに花が咲いていた。

塔矢も仁弥も、少しリラックスして来て、笑みも浮かぶようになっている。

渡は、あちこちからからかわれてもう、面倒になったのか、言った。

「もう!うるさいぞ、主らは!余程我が羨ましいのか。主らもどうせ、そんな女が欲しいのだろうが。居らぬくせに。」

炎嘉と志心が、ぐ、と黙った。

焔が、あーっと酒を煽ってから、言った。

「それはそうよ。滅多に維心や主のように、何をもとりあえず優先しようと思えるような、女など見つからぬからの。」と、翠明を見た。「お。そうか、主もか翠明よ。」

翠明は、苦笑した。

「まあ、我は綾以外は要らぬわな。あれが生まれ変わっても娶ったぐらいだし、あれを亡くした時には、しばらく呆けて何も手につかなんだわ。」

炎嘉が、言った。

「それを言うなら塔矢もぞ。恵麻と塔矢がどれほどに仲睦まじいか、鳥とはよう行き来があるゆえ臣下から聞いておるわ。」

塔矢は、言われて困ったように言った。

「それは…確かに、我も今となっては恵麻以外など考えられぬが。」

駿が、言った。

「まあ、主らは良いわなあ。だからこそ、皆正妃にしておるのだろう?我は…もう、面倒になってしもうたわ。今は関がようやってくれておって、奥も順調に回るし我としては不自由もしておらぬし。」

炎嘉が、あ、と思い付いたように言った。

「そうよ関。正式に主の臣下になったのだの、駿。あれは臣下の方が性に合っておったとかで。良かったのではないか?」

駿は、何度も頷いた。

「誠にそうなのだ。あやつは実に優秀な臣下であって、他の臣下達とも上手くやっておるし、休みの日には共に遊びに出掛けたりしておるようよ。筆頭の帥斗が、己の娘を縁付けたいとか申しておったり、信頼もある。我としては、誠に拾い物であったわ。幸運だった。」

渡は、それを聞いて複雑な顔をした。

「まあ…あれは勉学はできたし。だが、王としては精神的に弱かったのやもしれぬの。あれが今、楽しくやっておるのなら良い。あれは、我が美穂を娶る事を知って、何か言うておったか?」

駿は、答えた。

「特に批判するような事は何も。同じ格の血筋であるので、最上位となった今なら跡取りの皇子の事を考えると、良い選択だと思うと言うておった。あれは、もう本当に王族には未練などないようよ。」

関は関で、楽しくやっているようだ。

渡は、安心して頷いた。

「ならば良い。」

箔炎が、ガンガンと飲み続ける焔から酒瓶を取り上げながら振り返った。

「ところで那佐よ、そろそろ時刻ではないか?月が良い位置に来ておるぞ。侍女を妃の所へやって、準備をさせねば。主も、戻っておかねばならぬだろう。初夜なのであろう?」

渡は、それを聞いて顔をしかめた。

「この歳で初夜とは何やら落ち着かぬ響きよ。あやつは何も知らぬから…気を遣うわ。」

志心が笑った。

「知っておる方が気を遣うわ。まあ、やっとであるから励むが良いわ。」

渡は、軽く志心を睨んだが、侍女に命じて妃達の所へ美穂を呼びに行かせ、自分は席を立って、奥へと戻って行ったのだった。

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