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妃達の話

維月は、王達が前で話し始めたので、皆を見た。

そして、言った。

「皆様、本日はおめでたい席にご同席出来ました事、誠に嬉しく思うておりますわ。離れておってはお声も遠うございますので、どうぞ皆様、こちらへお集りくださいまして。もっとお寄りくださいませ。」

そう言った維月も、膝をにじり寄せて着物をズルズルと引き摺って、皆に寄って行く。

侍女達が、慌てて維月を手伝って移動しやすいようにと補佐してくれていた。

それを見た他の妃達も、維月に苦労させてはと、己も膝を進めて必死に移動し、妃達は一か所に集まって、顔を合わせる事になった。

維月は、ホッと息をついて、言った。

「…皆様、久方ぶりのお方も、初めてのお方もいらっしゃいますわね。」と、いつものように、序列順に漸の妃の瑞花を見た。「瑞花様。最近は宮でいかが?落ち着きましたか。」

瑞花は、微笑んで答えた。

「はい、維月様。最近では王も、頻繁に訓練場へ来られるようになりまして。どうやらこの間の立ち合いで、不甲斐ないと思われたようですわ。」

維月は、フフと笑った。

そんな王は、今神世に多いからだ。

そして、椿を見た。

「椿様。姪であられる美穂様が、おめでたい事でありますこと。渡様は最上位におなりの優秀な王であられますし。」

椿は、微笑んで頷いた。

「はい、維月様。知らせを受けた時には、綾様と喜んだものですわ。」

維月は、さあ次と本当に久しぶりに会う、蒼の妃である杏奈に視線を向けた。

「杏奈様。誠にお久しぶりでありますこと。蒼は月へと上がってから、落ち着かぬことが続きましたが、今はいかが?」

杏奈は、答えた。

「はい。最初はいきなりに光に変わられて月へ帰られるので驚きましたけれど、今はそんな事はあまり。落ち着きましてございますわ。」

あまりって事はやっぱり、今でもあるのね。

維月は思ったが、頷いて美穂を見た。

「美穂様。この度は大変におめでとうございます。美穂様のご選択は、間違っておらぬと思いますよ。渡様は、絶対に美穂様を大切にしてくださいますわ。長くいろいろな殿方を脇から眺めて参りましたけれど、珍しいほど女神の心持ちを考えてくださるかた。良かった事だと思います。」

美穂は、それは美しく顔を上げて、幸せそうに微笑んだ。

「はい、ありがとうございます、維月様。」

維月は微笑んで、次は綾を見た。

「綾様。誠に嬉しい事でありましたわね。我も渡様ならと、知らせを聞いてそれは嬉しく思いましたわ。」

綾は、微笑んだ。

「はい、維月様。我は心からこのご縁が、良かったと安堵しておりますの。渡様は、必ず美穂を幸福にしてくれると思いますわ。」

維月は、まだまだ先は長いと次は塔矢の妃の恵麻を見た。

「恵麻様。とても久方ぶりでありますわね。最近では宮も大変に良い様であると、我が王も申しておりました。励んでいらっしゃるのですね。」

恵麻は、相変わらずそれは妖艶で美しい様子だ。

顔を上げて、維月を見て微笑んだ。

「龍王妃様にご対面できまして嬉しい限りでございます。これよりは、お顔を合わせる事も多いかと思いますので、どうぞよろしくお願い申し上げまする。」

維月は、頷いた。

そして、完全に初対面になる、仁弥の妃の明日香に目を向けた。

「そちらは、仁弥様の妃の御方様?初めてお目に掛かりますわ。」

明日香は、ガチガチに固まった状態で、深々と頭を下げた。

「明日香と申します。何事にも、至らないのでどうぞ、よろしくお導きくださいませ。」

文言も、定型文だ。

緊張の仕方が、半端ないのが分かったが、まだ妃達が居るので、維月はとりあえず先を続けた。

「桜様。あれから子育てはいかがですか?」

桜は、顔を上げて微笑んだ。

「はい、維月様。最近は公青も落ち着いて参りまして、楽になって来ましたわ。あれだけやんちゃな子でありましたが、何やら勉学に勤しむようになり申しまして。」

維月は、それは良かったと頷いた。

「良いことですわ。次の王であられますから。」と、やっと最後だと楢を見た。「楢様。そちらも幼いお子をお育てになっておりますが、いかが?」

楢は、微笑んで答えた。

「はい、維月様。樹佐がとても勤勉なので、最近では樹青も兄を見習って幼いのに筆を持ってみたりしておりますので、誠に手が掛かりませんわ。」

維月は、やっと皆に声を掛けたとホッとして、皆を見回した。

毎回、公式の場でこの儀式を済ませねばならないのが疲れて仕方がない。

綾が、挨拶が終わったと維月に話しかけた。

「それにつけましても、此度は誠に嬉しいことでありました。こうなれば良いと、始めから思うておりましたが、よう婚姻にまでこぎつけましたこと。渡様が、相手が同意せねばというお考えであられるので、美穂がそれでどうやって娶られるのかと案じておりましたけれど。」

椿が、頷いて美穂を見た。

「確かに。渡様は、どうやって美穂を娶ると言われたのですか?あれだけ強固に政略ではと仰っておりましたし、宮のためとかではありませんわね。」

美穂は、美しい顔を困ったように暗くした。

維月は、声を落として、言った。

「…もしかして、美穂様は御自ら渡様に談判を?」

美穂は、え、と驚いたように顔を上げて、真っ赤になった。

それで、美穂が直談判したのだと皆分かった。

「まあ…でも、美穂ならやるかもと思うておりましたし、結果が良いのですから、良かったのではありませぬか?」

綾が言うのに、瑞花も頷く。

「そうですわ。何事も、言わねば分からぬ事もありますもの。女神だって、己から申して良い時がありまする。恥ずかしく思われる事はありませぬ。」

美穂は、皆が慰めてくれるので、恥ずかし気にしながらも、頷いた。

「はい…ありがとうございます。」

そんな会話の最中でも、明日香は後ろでひたすらに頭を下げて、ブルブルと震えている。

見ていられなくて、綾が思わず声を掛けた。

「まあ明日香様?いかがなさいましたか、そのように。お気軽にお話しくださってよろしいのですよ。」

明日香は、声を掛けられてビクと体を震わせたが、しばらくそのままでいて、皆の視線に耐えきれず、思い切ったように顔を上げた。

そして、言った。

「申し訳ありませぬ!我は…我は、下位の宮から王に嫁いで参りまして…。誠に、誠に礼儀など弁えぬのでございます!お恥ずかしくて…顔も上げられぬ心地でございます。」

下位から来たのか。

だとしたら、頑張っている方だ。

何しろ、お辞儀の仕方も所作も、目立っておかしな所は見当たらない。

口上も、しっかりと定型文を覚えているのが透けて見えたし、ここへ膝で移動した時も、きちんとした姿勢で不躾などと思わなかった。

なので、維月が庇うように言った。

「まあ、そのように思われなくて良いのですよ。明日香様は、しっかりと動きを身に付けておられますわ。おかしな所などありませぬ。我らは、そんなに厳しいことはございませぬから。」

椿も、頷く。

「そうですわ。文言も覚えていらっしゃるのは、その口調で分かりまするし、大丈夫です。ご案じなさいますな。」

とは言っても、明日香は涙を浮かべて下を向いている。

どうしたものかと皆で顔を見合わせていると、美穂が言った。

「明日香様、亜寿美様も、一から学ばれましたのよ。」明日香が、美穂を見る。美穂は続けた。「我は、亜寿美様にいろいろお教え致しました。今は宮に戻っておられるでしょう?お元気にしていらっしゃいますか。」

明日香は、亜寿美、と聞いて、少しホッとしたのか、頷いた。

「はい。あの子は関様があのような事になって落ち込んでおりましたけれど、王が序列を上げられて大変であられるのを見て、お助けしたいと思うたのか、今では共に励んでおります。ですが…我はこの歳でありますし、王はまだお若い見た目でありますが、我は老いて参る歳。今さらになかなか、身につかぬでいる時に、皆様とご同席しなければならなくなって…とても、皆様には申し訳なく…。」

そこまで卑屈にならなくても良いのに。

維月は思ったが、しかし最上位の妃達といきなり同席、しかも王と離れてとなると、それは心に重かっただろう。

維月は、明日香を庇って、小声で言った。

「明日香様。大丈夫、我らがきちんとお教え致しますから。問題ありませぬわ。王達が同席しておると、王がお口を挟んで来られる事があるので、黙っておられる方がよろしいでしょうが、我らの前なら。分かっておることなので、きちんとお教え致します。なので、ご心配なく。」

明日香は、感謝の視線を維月に向けて、頷く。

綾が、言った。

「ですが維月様、ここには王もいらっしゃるし、お口を挟んで来られるやもしれぬませぬわね。ずっと黙って座っておるなど、酷でありますわ。どういたしましょう。」

維月は、考えた。

今すぐに、席を外すのはあまりにも早過ぎるし、維心も良い顔をしないだろう。

「…今少ししたら、我から王に…、」

そこまで言った時、後ろから維心が声を掛けて来た。

「維月。」

維月は、ビクと体を震わせた。

妃達に、こちらへ来て王達と共に話せとか言われたら、どうやって明日香を庇おう。

維月は、思いながらも振り返って、言った。

「はい。何かございましたか、王よ。」

すると維心は、少し怪訝な顔をしたが、言った。

「主らも久方ぶりであろう?場を変えて、妃だけで話して来ても良いぞ。新しい者も居るし、主らも気兼ねなく話したかろう。」

まあ!なんてタイムリーな!

維月は、維心から言い出してくれたことに、心から感謝して頭を下げた。

「はい、王よ。お気遣い、感謝致しまする。」

本当にありがとうございます、維心様。後でしっかりサービス致しますから。

維月は心の中でそう思ったが、振り返って妃達に頷き掛けて、そうしてそこを出て、渡が準備してくれた、部屋へと向かったのだった。

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