序列
急いで行った会議場の扉には、旗清が言った通り紙が貼り出されてあった。
新しい序列の通りに、席に付くようにとのことだった。
最上位
維心、炎嘉、志心、漸、箔炎、焔、蒼、駿、高彰、渡
二番目
翠明、塔矢、仁弥、公明、樹伊、旭、銀令、覚、峡、英、加栄、快都、旗清
三番目…と言う風に、一位から順に王の名前が書かれてある。
ちなみに、メインテーブルに、座れるのは、上から15人までと決まっていた。
つまりは、ここでメインテーブルに座るのは、維心、炎嘉、志心、漸、箔炎、焔、蒼、駿、高彰、渡、翠明、塔矢、仁弥、公明、樹伊までとなり、これまでそこに上がっていた覚、英、加栄がもう、そこに座れなくなったということになる。
しかし、皆が案じていた、二番目から三番目への陥落は、なかった。
三番目の宮から塔矢と銀令が割り込んで来て、中での序列は変わったものの、一応のメンツは保たれたのだ。
そして、何より驚いたのは、不動だと思われていた、最上位の中に、渡の名があったことだった。
「渡!」峡が変な声を上げた。「主の名が最上位の中にある!」
渡は、あれだけ皆が皆最上位に最上位にとうるさかったので、それはそうだろうなと特に騒ぐこともなく頷く。
「誠にの。これから責任が重うなるわ。気が重い。」
渡はそう考えるのか。
峡が驚いていると、仁弥が困惑した顔で言った。
「のう、共に行こうぞ。急に二番目三位などという晴れがましい地位になってしもうたので、メインテーブルに座らねばならぬ。気楽に皆の話を聞いておるだけではならぬということだの?」
渡は、仁弥を見て頷いた。
「その通りぞ。まだ維心達は来ておらぬようだが、とにかく入って座っていよう。説明があろうしな。」
仁弥は、不安そうだったが、頷く。
そうして、自分の序列を確認した王達は、新しい席へと戸惑いながら進んだのだった。
中に入ると、いつもは居ない龍の臣下達が居て、王達を席へと案内していた。
メインテーブルを見ると、もう翠明や公明などは来て座っているのが見える。
進み出た龍の臣下が、言った。
「渡様、仁弥様。お席にご案内致します。どうぞこちらへ。」
二人は頷いて、その臣下についてメインテーブルへと向かった。
渡が案内されたのは、高彰と翠明の間の席だった。
仁弥は、緊張気味に座っている、塔矢の隣り、公明の手前に案内されていた。
翠明が、言った。
「主は最上位か、那佐。まあ、大方そうだろうとは思うておったわ。皆が主を最上位にと言うておったしの。」
渡は、むっつりと言った。
「責任が重うなるだけぞ。誠に気が重いわ。」
反対側の隣りの、高彰が言った。
「のう那佐よ、我の宮に来ぬか。あれから軍神達と鍛練するが、全く手応えがなくての。主に見て欲しいのよ。主は最上位の末席だが、本来我がそこだったと思う。主が我と立ち合っておらぬからこれで済んでおるのだ。」
渡は、苦笑した。
「己を貶めるでないぞ、高彰。主は良い手筋であった。だが、ここぞという時に慎重になり過ぎて手を控えるのだ。何度も勝てた機があった。直すのはそこぐらいぞ。志心と箔炎が勝てなんだ駿に勝ったのだろう?あれは最後に自暴自棄になってなりふり構わなんだからよ。最初からあれができておったら、もっと勝ち星を上げておったと思うぞ。」
高彰は、ため息をついた。
「…だが、主にはそれが見えておったのだろう?」高彰は、うんざりしているようだった。「我には分からぬで。誠に未熟であったわ。」
駿が、あちら側から言った。
「何事も時の運もあるぞ。我だって、まさか志心や箔炎に勝てるとは思わなかった。相手の前情報に踊らされて、こんなことをやったら攻めこまれると手を控えてしまうのが悪かったと我も思う。あの二人とやった時は、早う宮に連絡をと焦っておったし、他の事は考えられなんだから。ああいう時は、下手に考えぬ方が良いのだと我も思う。」
塔矢と仁弥は、それを聞きながらもまだ固まっていて、かなり緊張しているのが見て取れた。
そこで、龍の臣下達がわらわらと出て行くのが見えて、扉の横の侍従が声を上げた。
「龍王、鳥王ご到着です。」
皆が、一斉に立ち上がって頭を下げる中、メインテーブルのもの達は、立ち上がる様子もない。
思わず立ち上がった塔矢と仁弥は、それを見て慌ててまた椅子へと座ったのが見えた。
維心と炎嘉が、その中をメインテーブルの上座へと進んで歩いて来て、席に座った。
「さて、新しい序列は分かったな。」炎嘉が、口を開いた。「これから当分はそのまま行く。また、様子を見て変わる可能性もある。序列は、王の力量だけではなく、その軍神筆頭の質、宮の財力、品格などを加味して考えられたものぞ。もちろんのこと、いずれかが悪うなれば序列も下がるし、逆も然り。皆、己の新しい地位に慢心することなく励むようにな。」
皆が、頭を下げる。
だが、メインテーブルのもの達は下げない。
つまりは、ほぼ対等だと見られているからだとそれで塔矢と仁弥は理解した。
それがまた重くて、ますます下を見るのに、炎嘉は苦笑して先を続けた。
「…では、水無月の会合を始める。」
そして、通常通りの議題が、炎嘉によって進められて行った。
会合は緊張した空気の中で終わり、宴の席へ移る事になった。
また慣れないのが、頭を下げる王達の間を、維心と炎嘉を筆頭に歩き抜けて行く事だ。
渡は全く気にしていないようだったが、仁弥はそんな渡に寄って来て、小声で言った。
「主、何故にそんなに落ち着いておるのよ。我は落ち着かぬわ。」
渡は、仁弥を見た。
「序列が何程のものぞ。昨日までと何も変わらぬわ。主も、そんなに卑屈になるでない。最上位の王とて、普通の神よ。取って食われるわけでもあるまいに。落ち着け。」
そうは言われても、これまでその他大勢の中で生きて来たのに、いきなりこんな場所で皆に頭を下げられるのには慣れない。
そんなわけで、会議場を出て、回廊を歩いて行く間も、仁弥は渡の側から離れなかった。
唯一渡だけが昔から知っている友であり、序列関係なく仲良くしてくれた神だったからだ。
渡は、その気持ちが分かったので、そんな仁弥を咎める事はなかった。
前を歩く、炎嘉がふと振り返った。
「那佐よ。そういえば主、臣下が山ほど縁談を持って来ておると聞いておるが、気に入る皇女は居たか?」
渡は、途端に不機嫌になった。
「誠に鬱陶しいわ。己の身に置き換えてみよ、連日絵姿を山ほど居間に置いて行きよるのだぞ?連れて来た時もあった。維心のように、思わず切りそうになったわ。気持ちが分かった。」
維心が、振り返って気の毒そうに言った。
「ああ、面倒よの。主の心地は分かるぞ。だが、今度茶会がどうのと聞いておるし、最上位になったのもあって数は増えるぞ?どうするのよ。」
渡は、地団駄踏んだ。
「うるさいぞ、維心!主らが最上位などにするからこんなことに!もう、適当にあっちから言うて来た奴を娶る!めんどくさい。」
維心は、堪え切れずにクックと笑う。
炎嘉が、笑って言った。
「よう分からぬ女では我慢がならぬようになるぞ?決めるなら慎重に選べよ。どうせ一人しか娶らぬとか言うのだろうが。」
渡は、むっつりと言った。
「それ以上必要なかろうが。だが、茶会などやってられぬ。臣下は嬉々として準備しておるが、我は出ぬわ。結界内なのだし、見ようと思えば見えるしの。もう、何でも良い。」
何でも良くはないだろう。
皆は思ったが、それ以上渡をつつくのはやめた。
志心が、言った。
「美穂は上手くやったようだの?宮の中が格段に良い雰囲気になっておって、正に最上位だという品格なのだと聞いておるぞ。そろそろ、あやつもお役御免か。」
渡は、そういえば、と、頷いた。
「確かにそうよ。指南は終わり、今は内を回す神員が居らぬから、あれにやってもらっておった。今すぐ帰すと困るゆえ、誰か見つかったら返すで良いか?」
志心は、顔をしかめた。
「それは良いが…ということは、見つけねばならぬぞ、那佐。」
渡は、ため息をついた。
「だの。分かった、しばし待て。我も考える。」
だからそのまま美穂を娶ると、何故に思い到らぬのだと言うのに。
皆は渡のように地団駄踏みたい心地だったが、皆育ちが良いので踏み留まったのだった。




