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王達

維心が、眉を寄せて額に手を置いた。

隣りの炎嘉が、それに気付いて言った。

「…どうした?また何か気取ったとかではなかろうの。」

維心は、むっつりと言った。

「…綾が困っておるわ。」

え、と皆が維心を見る。

隣りの様子を、結界内なので見える維心は、見ていたのだろう。

「維月ではなく綾か?」

焔が言うのに、維心は頷いた。

「まあ、大きな意味では維月も困っておったが、直接には綾。」 と、関を見た。「関、少しは公の場の茶会ぐらいは催して慣れさせておった方が良かったぞ。あれは…内々の茶会と変わらぬ動き。本神には悪気がないゆえ、我も咎めるのはと思うが、皆がどう扱ったら良いのか困るのだ。」

関は、やっぱり何かと慌てた様子になった。

「あれは、母上が茶会などまだ早いと言うて、外からの神を迎えての茶会には出たことがなくて。臣下や侍女としか、茶を飲んだ事もなく。」

ならば、格が上なのだから気遣いもいらなかっただろう。

そこへ、鵬が入ってきて膝をついた。

「王。取り急ぎご報告をと。」

維心は、手を振った。

「良い、見ておった。綾を美しいと見つめて目を離そうとしなかったの。話し掛けられても、目も合わせず一心不乱に菓子を食しておったし。」

鵬は、頷いた。

「は…。王妃様にご無礼を働いたわけではありませなんだが、綾様が大変にお困りで。王妃様にも、口を出してはと思われたようで、黙っておられましたが椿様が亜寿美様を咎められ、ショックを受けておられました。最後には、綾様に膝をついて謝罪なさって…我が王妃様には、ご寛大にも知らぬ事は教え合うのだと場を整えられましたが、これはお知らせしておかねばと。」

箔炎が、言った。

「椿か。まああれなら黙っておられなんだろうの。」

翠明は、ため息をついた。

「綾も上位の女神としか付き合いがないゆえ、対応に困ったのだろうの。美しいと言われるのには慣れておるが、そこまで見つめられたらの。」

関は、翠明に頭を下げた。

「翠明殿、申し訳ありませぬ。やはり連れて来たのが間違いでありました。」

渡が、言った。

「いや、我の責ぞ。先程も言うたよな。あれを連れて来いと言うたのは我であるから。」

炎嘉が、言った。

「連れて来て良かったのだ。これは先程も言うたが、そうでなければ宮の精査に行く事になっておった。そしたら遅かれ早かれ知れる。とはいえ…関、他に妃は?確かもう一人居ったよな。」

関は、バツが悪そうに言った。

「は…。しかしあちらの方が、礼儀にはからきしで。亜寿美の方がまだできるのです。なので正妃にしておりまして。」

渡は、ため息をついた。

「それも、我のせいよ。というのも、我は己の鬱憤を宮で晴らしておったゆえ、父親に手が掛かる関は、舅にまで煩わされとうないと、三番目からばかり妃を選んだのだ。上だといろいろ実家に気を遣うであろう?覚を見よ、同じ格の峽に気を遣っておろうが。それを避けたかったのよ。」

気持ちは分かる。

分かるが、こうして序列再編の時に、いろいろあっては宮の格に関わって来るのだ。

「…亜寿美が悪いのではない。あれはあれで、宮ではきちんと妃をやっておるのだろう。主が二番目の格でなければ何の問題もなかったのよ。困ったの…二番目七位でこれか。塔矢が我が宮の恵麻を娶っておるゆえ、しかも塔矢があの腕であるし、今は三番目であるが間違いなく二番目に上がって来るぞ。銀令も旭の皇女を娶ってそれは精進しておるし、恐らく上がる。このままでは…那佐の功績が我らの記憶にあるのに、三番目に陥落してもおかしゅうない。」

志心が、言った。

「…とはいえ、三番目ならあれらと茶会などないだろうし、こんな風に言われる事もなかろう。三番目なら問題なくあれも王妃としてやって行けるのだろうから。その方が、幸福なのやも知れぬぞ。関だって、立ち合いばかりの毎日から解放されようしな。三番目なら、恐らく関はそこそこ立ち合える王なのだし。」

だが、漸が言った。

「だが、戦国を戦い抜いた王なのだろう?その那佐は。いくら序列を気にせぬとはいえ、我が気にするわ。我は、その戦国で何の役にも立っておらぬからな。」

焔が顔をしかめた。

「それを言うたら我らもぞ。のう箔炎よ。」

箔炎は、頷いた。

「しばらくは我は戦国に居たが、途中で逃げたからの。最後まで戦った那佐には敵わぬ認識ぞ。」

皆が、渡を見る。

渡は、ため息をついた。

「…分かっておるわ。我のことであるからの。別に我は、今も序列がなんぼのものぞと思うが、しかし渡としての記憶もある。臣下の心地もぞ。三番目に陥落したら、関や亜寿美が良くともあれらの士気は格段に下がる。王に対する不満も大きくなろう。王というのは、臣下に認められねば王ではない。ゆえ、そうなった時には、もっと我を王座にと大騒ぎになるだろう。関を討とうとする奴もおるやも知れぬ。ゆえ、三番目に下がるのは我とて否ぞ。我の心地ではない、宮全体を考えるからぞ。」と、関を見た。「これは、記憶のない我が荒れるのを側で見て育った。いろいろ我の話を聞かぬでおったのも、結局は我のせいなのだ。なので、今から我が育ててなんとかなるならと思うておったが、それがこやつの幸福ではないような気がして参った。こやつは、上位で立ち混じるには未熟なのだ。今、苦しんでおるのを見ると、これを王座に留め置こうと無理をさせているのが、己のエゴでしかないように思えて参った。」

関は、下を向いた。

確かに、今はなんと王座というのは面倒なのだろうと思い始めていた。

立ち合い然り、上位の王との付き合い然り、勉学だけでは追い付かないものを求められ、最近いっぱいいっぱいだったのだ。

渡が、王座に戻ってくれたらと、臣下からの不満を聞く度に思う。

その上、上位の王達に妃のことまで責められて、もうどうしたら良いのかわからないのだ。

維心が、言った。

「那佐、いや渡。関を哀れと思うなら、王座に戻ってとりあえず今回の序列再編を凌ぐべきではないか?その間に、皇子に戻った関と妃を育てて…そうよな、主、若くなったのだから、上位から妃を娶ってそれに教えさせたらどうか。宮も躾直させて。その上で、譲位出来そうなら譲位するとか。」

渡は、顔をしかめた。

「なんと申した?妃?今さらか。初とて父上に強制されて娶ったのに、どうせなら己で選ぶわ。相手も我などに嫁ぐなど哀れではないか。それなら関に娶らせるわ。」

関は、首を振った。

「父上は、なんだかんだ母上のことは大切に扱っておられました。それならそれで、相手も恐らく問題なく宮で過ごせましょうほどに。」

渡は、関を軽く睨んだ。

「主。王座を降りるつもりか。」

関は、一瞬躊躇ったが、頷いた。

「…はい。このままでは、宮が立ち行かなくなります。臣下の不満は今でも多く、これ以上どうせよと言うのだと最近ほとほと困っておりました。我は、父上には敵わぬのです。今一度皇子に戻り、学び直したいと思います。」

渡は、じっと関を見ながら言った。

「…皇子とて、我は長生きするし、また譲位できるかも分からぬのだぞ?主が言うように妃でも娶れば、それが子を生んでまた皇子ができるやも知れぬ。それでも、王座を降りるか。」

関は、頭を下げた。

「は。我とて、王になるために教育を受けてここまで参りましたが、神世が変わろうというのに、強さに重きは置いておりませなんだ。今さらに、筆頭軍神にすら下されることがある腕を、劇的に伸ばせるとは思うておりませぬ。安穏としておった己の責。ここは、しばし時を戴いて学び直してどこまでできるか、試してみとうございます。」

渡は、ため息をついた。

炎嘉は、言った。

「那佐、主は戻るべくして戻った王ぞ。仕方がない、血が薄まった息子に無理をさせず、ここは一度王座に戻れ。」

渡は、チラと炎嘉を睨むように見た。

「…妃とか申すなよ。とりあえずそれどころではない。とはいえ、宮の中をなんとかせねばならぬし、誰か貸してくれ。主の息子の妃とか。」

炎嘉は、顔をしかめた。

「我の息子の妃は志心の娘の子よ。温室育ちであるのに、亜寿美の教師をさせるのか?だったら瑞は?」

漸が、首を振った。

「我の妃で迎えたばかりではないか!あれは軍と奥で大変なのだぞ。いくら里だからと。」

渡は、またため息をついた。

「皇女達なあ。楢が居った頃はまだ、今少しマシであったのにの。亜寿美は同じように初に習っておったのに、何故にできぬか。」

志心が言った。

「しようがないわ。楢は赤子の頃から初に躾られたゆえ、身についておったのだ。椿や綾は?」

箔炎が、顔をしかめた。

「あれに奥を任せておるのに、他の宮に貸し出す事など出来るはずはあるまいが。妃はやめよ、どこぞに出来た皇女は居らぬか。上位なら誰でも良いが。」

皇女…。

皆は、顔を見合わせた。

そもそも、最上位に皇女は今、居ない。

二番目にも、教師ができるほど育った皇女が居なかったはずだ。

維心が、言った。

「皇女がどこに生まれてどれぐらいの歳なのかなど、誰に分かるのよ。皇子ならば話題にもなるが、皇女のことは知らぬわ。」と、脇に控える鵬を見た。「いや…主なら分かるか?」

鵬は、待ってましたと頷いた。

「はい。我の頭の中には、全ての宮の王族が記憶されておりますので。」

龍の宮の筆頭だものな。

皆が思っていると、炎嘉は言った。

「ならば、百…ではまだ幼いな。せめて二百ぐらいの、しっかりした皇女は居らぬか。二番目までぞ。」

鵬は、頷いた。

「はい。それに該当する皇女を申し上げます。」

皆が、固唾を飲んで次の言葉を待った。

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