表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/191

試合よりも

維心は、王達の立ち合いよりも、その後にある碧黎との立ち合いにウキウキとしている様子が維月にはハッキリと透けて見えていた。

甲冑を着つけている時も、緩んで無様な戦いになってはならぬと、何度も引っ張っては確認する徹底ぶりだ。

維月は、浮足立っている維心を見ながら、既に心配だった。

浮足立っているとはいえ、維心はその時になればやるのは分かっているのだが、それよりも、碧黎相手に怪我をしないかと案じて仕方がないのだ。

だが、維心は自分に怪我をさせるほどの相手と立ち合うことに、恐れるよりも胸を躍らせている。

自分を倒すような相手が、これまで居なかったのだから気持ちは分からなくもないのだが、碧黎がどこまで徹底的にやるのかと思うと、維月は維心の髪すら大切に思っているので、どこにも傷はつけて欲しくなかった。

だが、そんな事を言っても、維心はこれほどに楽しみにしているし、これは必要なことだと碧黎も他の王達も言う。

維月は、なので何も言えずにため息をついた。

維心が、そんな維月に気付いて、言った。

「維月?どうしたのだ、浮かぬ顔を。本日の立ち合い、我は負けぬぞ?案じるでない。」

そんな事ではない。

維月は、維心を見上げた。

「王達との立ち合いは、案じておりませぬ。そうではなくて、お父様との立ち合いですわ。維心様の、髪一本でも大切に思うております私としては、誠にお怪我をして欲しくはないのです。」

維心は、息をついて維月を抱き寄せた。

「主が我を大切に思うてくれておるのは分かる。だが、必要な事ぞ。一度は我だって全力で戦ってみたい。我は、どこかで誰かに下して欲しいと思うておるのだろうの。碧黎には、それができるのだろう。長く生きた記憶の中で、一度も負けたことも、負けると思ったことすらない我が、心を躍らせるのも分かって欲しいのだ。」

維心様は、闘神だものね。

維月は、理解しようと努めたが、だからといって、心配な気持ちが無くなる事はなかった。

だが、無理に頷いた。

「はい。維心様は、闘神であられるのですから。戦う事に心が沸くのは、致し方ないかと。ですが、私は維心様が傷つくのは、見たくはないと覚えておいてくださいませ。」

維心は、頷いて維月の頬に軽く口づけた。

「分かっておる。仮に傷が出来ても、何でもないゆえな。すぐ治る。」

だからそれは分かっているんだってば。それでも心配なの!

維月は内心思ったが、頷いた。

「はい。」

その言い方と気に、維月が納得していないのは分かっていたが、維心は苦笑して維月の手を取って、訓練場へと向かったのだった。


訓練場では、もう何戦か進んでいて、試合が終わっていた。

28試合あって、それの全てを訓練場全面を使ってやるので、早くから始める必要があったのだ。

最上位は、特に順も決められておらず、8人しか居ないので、とにかく準備ができた者から順に、始めて行こうとなっていた。

維心が観覧席に維月を置いて、フィールド上へと降りて来ると、炎嘉が振り返った。

「遅いぞ、維心。もうさっさと済ませておるわ。最初から番狂わせがあったのだぞ。」

維心は、控えの席で身を乗り出した。

「誰が立ち合うたのだ。どうなった?」

志心が、答えた。

「駿が我を下しおった。油断しておったが、あやつは本番に強いのだの。腕も上げておる。さっき、箔炎も駿にやられておったわ。」

維心は、興味を持った。

「ほう。見ておったら良かったわ。」と、また出て行く、駿を見た。「駿は連戦だの。今度は漸とか。」

箔炎が、頷く。

「関を預かるゆえ、本日宮へと迎える準備を騮がやっておるようなのだがの。頻繁に連絡が来るゆえ、あやつは忙しいのだ。さっさと終わらせてあっちに集中したいという事らしいぞ。我があやつにやられるとは…全く。」

見ていると、確かに駿は腕を上げているようだった。

漸相手に、あっさりと攻め込んで一本取ってしまっていた。

「お。また駿の犠牲者が出た。」焔が言う。「調子が良いのう、駿。」

駿は、あっさりと戻って来ながら、言った。

「関の件、主らは死んだらどうのと申すし、関の腕をようよう那佐に聞いてみたら、三日も持たぬと分かったからの。宮へ連絡して、我が帰るまでどこかに隔離しておいてもらわねば。何度も聞くが、死んではならぬのだろう?」

駿は、どうやら早くあちらの対応を済ませてしまわないと、戻る前に関がさっさと殺されては宮の面子に関わると焦っているらしい。

維心は、顔をしかめた。

「別に死んでおっても生きておっても関係ないがの。那佐はなんと言うておるのだ。死んでは否と?分かっておって獅子の宮に預けると申したのではないのか。」

駿は、ため息をついた。

「やはり、できたら生きて帰して欲しいとのことであった。一応跡取りが、あれしか居らぬからと。だがなあ、特別扱いなどしない宮であるし、それなら監禁して置くことになるぞと言うたら、もう面倒だからそれでも良いとか申す。とにかく、帰って様子を見てから決めねばと思うておるのだ。」

また面倒な。

皆が思ったが、今はそれどころではない。

駿もそれどころではないが、そんな事を背負ってしまっているので、焦って立ち合っているのだ。

…駿に押し付けて、悪かったかの。

維心達は思ったが、それが原動力になって駿がさっさと回りを下して回っているのなら、それもまた良いかもしれない、と維心も刀を手に、フィールドへと出て行ったのだった。


結局、維心は全勝、炎嘉は維心に負けて一敗、志心は炎嘉と維心と駿に負けて三敗、漸は箔炎と高彰にしか勝てなかったので五敗、箔炎は焔と高彰にしか勝てず同じく五敗、焔は漸と駿と高彰に勝って四敗、駿は志心と漸と箔炎に勝って同じく四敗、高彰は駿にしか勝てずに、六敗という結果に終わった。

大体が序列の通りと言えばそうだが、漸が思ったより振るわず、箔炎も同じくで、案外に頑張ったのが駿だった。

しかも、気になる事があるのにサクサク進めて行ったので、案外に駿は、土壇場では頼りになるのだと皆は思った。

よく考えたら宮が宮なので、昔から戦場の中で暮らしているようなものだった。

駿が、そんな中で励んでいないはずはなかった。

そう思うと、序列も変わってしまうのかもしれぬと思ったが、炎嘉が言った。

「…とはいえなあ。どうしたものかの。筆頭の結果もあるし、宮の大きさや負担している責務の量もある。最上位は今の序列のままで良いのではないかと思うておる。」

維心も、頷く。

「それはそうよ。我は、別に最上位は序列を移動させようとこんなことをしたのではない。他の王達にも戦わせるために、我らだってやるのだと見せるためのものぞ。ゆえ、此度の結果は結果として置いておくが良い。後、宮で励むための理由にもなろうしの。」

確かに、このままではまずいかもとは思った。

結果が悪かった者達は、そう思っていた。

そこへ、渡がやって来た。

「すまぬな、駿。主、他の事を考えながら立ち合っておったろう。関の事を頼んだからよな。もう、主の気を煩わせるのならこの際、死んでおっても文句は言わぬから。我から頼んだのだしの。」

己の皇子をか。

そんなことを言ってのける渡に、皆が退いていると、志心が言った。

「那佐、主な、確かに面倒な皇子だろうが、少しは気遣わぬか。獅子の宮は厳しいのだと、関は知っておるのだろう。だからこそ、主はそこを選んだのだと思うておったが。」

渡は、首を振った。

「いいや。知っておるかは知らぬ。あやつは、宮の内情まで知らぬやもしれぬがの。最上位であるから、どこも品行方正で問題ないと思うておるやも。何しろ、平和ボケしておってどうしようもないのよ。この前までの神世なら、別にあれでも充分に王でやって行けたのだろうが、今は無理よなあ。」

知らぬで獅子の宮へ放り込むのか。

ということは、関は安穏と何の警戒心もなく、獅子の宮へと到着しているかもしれない。

何しろ、もう日は傾いて来ているし、もう午前中にはついているはずなので、現状どうなっているのか気になった。

駿が、皆の懸念を感じ取って、言った。

「だからさっき申しただろうが。今頃は、部屋へ監禁状態ぞ。皆と接してはまだまずい。我が帰ってから指示を出すと騮には言うてあるから、恐らく大丈夫だろう。」

何も知らぬのなら、勝手に部屋を抜け出したりしていないだろうな。

皆は思ったが、案じていても仕方がないので、立ち合いも終わった事だしと、他の下位の宮や二番目三番目の王達が退出して行く中で、神もまばらになった観覧席の方へと歩を進めた。

これから、最上位の王達の試合よりも重要な、維心と碧黎の立ち合いが、始まるのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ