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獅子の宮へ

関はというと、戻って来た臣下達に囲まれて、獅子の宮へと見習いに行くという沙汰が下ったと知らされていた。

龍王妃は殊の外機嫌を悪くしていて、本来なら龍の宮へと送られるところだったが、それすらも拒否されたので、獅子の宮になったのだという。

そこは、関も安堵した。

あの宮の、大きな気の軍団に囲まれて、罪人だと後ろ指を指されることを思うと、獅子の宮の方がまだマシだと思ったのだ。

駿のことは、あまりよく知らないのだが、最上位の中でもそう、煩い王ではないという印象だ。

会合でも、炎嘉が話して、意見を出すのは志心と箔炎、焔ぐらいのもので、他は黙って流れを見ている様子で、特に駿は、話に割り込んだりしない王だという記憶がある。

維心は、黙って座っているだけで威圧感があるので、ここぞという時にしか口を開かないのだが、それとは違っておっとりと、そんな威圧感もなく聞いている感想だった。

つまりは、駿の所ならば、沙汰で謹慎させられるとはいえ、そう苦労もしないように思えた。

亜寿美が、顔色を青くして、言った。

「関様、それはいつまでであるのでしょうか。長くこちらを離れられるということに?」

何も知らない亜寿美は、龍王妃の勘気を被ったとしか伝えられていない。

関は、ぶっきらぼうに言った。

「我には分からぬわ。そう長くはないと思うぞ。我は皇子であるし、無理な事もさせられまい。主は、己の責務に励んでおれば良い。」

関は、美穂を見染めてから、亜寿美の存在が少し、面倒になって来ていた。

よく出来た王妃だと、正月には思ったものだが、それでも礼儀が全くなのは確かな事。

そこへ、あれほどに美しい、上位の縁戚の完璧な皇女を見てしまっては、関の心も一瞬でそちらへと向かってしまったのだ。

亜寿美は、そんな事とは露ほども思っていないので、関を案じて目に涙を浮かべている。

そんな事すら鬱陶しく感じ、関は臣下に言われるままに、獅子の宮へと向かう準備を進めたのだった。


一方、獅子の宮では、(りゅう)と第二皇子の(すい)が、関という皇子の事を調べていた。

この宮へと迎える神の事を、詳しく知らねばと思ったからだ。

父の駿から聞いて名は知っていたが、その時関は、王だった。

だが、渡という父が、急に前世の那佐であった時の記憶を戻して若返り、その明らかに関より優秀な様から、臣下の勧めもあって、王座に返り咲き、関は皇子へと戻ったのだという。

そこまでしか知らなかったが、今回頼樹が持って帰って来た情報によると、関は雅事にはからきしで、妃は三番目最下位と、下位からもらっていたので宮が荒れていたのだとか。

それにより、志心の孫である美穂という皇女が、渡の宮へと臣下と妃の指南のために入ったのだが、あろうことか関は、初見で美穂に懸想したらしい。

それから、渡の再三の忠告も聞かず、美穂の気を惹こうとあれこれ話しかけたりしていたのだそうだ。

そして、渡が放って置いたら何をしでかすか分からぬからと、龍の宮へと美穂を連れて来ていたにも関わらず、関はそこで、龍王妃との茶会の席に居た、美穂を連れ出そうとして龍王妃の怒りをかった。

ということらしかった。

騅は、ため息をついた。

「…面倒な。女にうつつを抜かすとこういう事になるゆえ、面倒なのですよ。父上だって、美しいからと瑤子殿を娶ってそちらにうつつを抜かし、母上に去られた。結局父上は後悔なさって瑤子殿を返すことになって…母上は、箔炎殿に嫁いでしもうてもう戻らぬし、我はそういった事には、誠に面倒に思うております。」

騮は、頷いた。

「我とて同じぞ。あの折、北西の獅子から皇女を我らも娶るという話があったが、受けずで良かったのだ。同じような事があれば、あちらに顔向けもできぬしな。それにしても…この関という皇子。頼樹が申すに、立ち合いなどあまりであるらしいぞ。今回、王の立ち合いがあるというので、臣下も関が王のままではと、渡殿が戻るのを焦って進めたのだと聞いておる。現に、渡殿は二番目三番目の総当たり戦で、全勝で一位で勝ち残ったらしい。そんな父王が居ながら、全くできぬということは、それだけ愚かであるのか、それとも怠惰であるのか。こちらへ来たとして、我らがつらく当たらずとも勝手に苦労しようぞ。」

騅は、頷いた。

「はい。しかしながら兄上、どう致しますか。放置しておくわけにもいきませぬ。曲がりなりにも皇子であるし、我が軍神達は容赦なく弱い者は叩き切りますゆえ。放って置いたら、恐らく数日で大怪我ならまだしも、死ぬやもしれませぬ。」

騮は、眉を寄せた。

「そうだのう…死なせてはならぬのだろうの。だが、特別扱いはせぬぞ。こちらへ来ることになったのは、そも己の行いに対する沙汰であるのだ。少々痛い目を見ぬ事には、罰にはなるまい?ま、加減の事については、また父上にお伺いして決めるわ。主はあまり案じるでない。」

騅は、頷いた。

「は。兄上には、面倒を抱えられましたな。」

全くだ。

騮は思ったが、これもいつか王になったら請け負わねばならない事かもしれない。

今のうちに、いろいろやっておかねばと、ため息をついたのだった。


駿はといえば、立ち合いの会三日目の朝に、戻って来た頼樹から報告を受けた。

自分もこれから試合があるので気が立っている時だったが、請け負ったからにはしっかり処理せねばならない。

駿は、言った。

「では、騮はあちらの軍宿舎に関を入れるのだな。関はどう思うておるのか分からぬが、甘いところがあるヤツであったから。恐らく、遊びにでも来るような心地であるやもしれぬ。最初は、放って置いて良いと申せ。軍神達の中で揉まれたら、少しは己が何をやったか思い知るであろうて。」

頼樹は、頷いた。

「は。ですが、命の件は。いくら沙汰とはいえ、死んではまずいのでしょう?」

駿は、顔をしかめた。

「確かになあ。我は別にどっちでも良いが、預かっておけと言われておるからの。つまりは、帰さねばならぬということであろう?だが、ずっと放置しておったら、七日も持たずで死ぬだろうの、あやつの腕であったら。」

頼樹は、頷いた。

「は。騮様は特別扱いはせぬと仰っておるのですが、どう対応したら良いのでしょうか。」

駿は、ため息をついた。

「まあ、三日ぐらいなら持つだろうて。その間に考える。とりあえず、最上位の王達に、死んではまずいかと聞いておくわ。マズかったらやり方を考える。で、本日関は宮へ連れて来るのだの?」

頼樹は、頷く。

「は。そのようにご指示頂きましたので、騮様にもそうお伝えいたしました。」

駿は、ハアとため息をついた。

「終わって帰っても面倒が待っておるのかと思うと気が重いが、これも必要なことぞ。騮には面倒だろうが、我が帰るまでは死なせるなと伝えよ。」

頼樹は、頭を下げた。

「は!」

そうして、そこを出て行った。

駿は、これからの立ち合いだけでも気が重いのに、と、文句を言いたい心地だった。


駿が、甲冑を着て控えの間を出ると、志心が同じように甲冑姿で出て来たのが見えた。

「駿。頼樹が出入りしておったの。順調か?」

駿は、頷いた。

「騮が、あれを軍宿舎へ入れると申して準備しておる。だが、それからぞ。聞いておきたいのだが、死んではまずいのだの?」

志心は、顔をしかめた。

「さすがに死んではの。腕の一本や二本なら無くなってもしようがないが。」

後ろから、炎嘉と焔、箔炎が出て来て、言った。

「なんぞ、物騒な。立ち合いの話か?」

志心は、首を振った。

「いや、関ぞ。駿が、死んではまずいのか聞くゆえ、さすがに死んではなあと言うておったのだ。」

焔が、うんざりしたような顔をした。

「一応預かることになっておるからなあ。那佐も、殺せとまでは言うておらなんではないか。それとも、聞いてみるか?」

息子が死んでも良いかと父親に聞くというのもどうだろう。

炎嘉が言った。

「維心に言うたらどっちでも良いとか言いそうであるし、どうしたものかの。確かに、あやつの腕では主の宮で生き残るのは難しそうぞ。那佐は気軽に申しておったが、修行というより戦場に行くのと同じような様であるしな。未だに軍神達の序列争いは熾烈か。」

駿は、頷いた。

「我とて、気を抜いたら王と認めてもらえぬのではないかというほど熾烈ぞ。常に高い位置を保っておらねば、もしやと思わせる事があるほどに強さが重要視されておる。ゆえ、今は我ら王族には歯向かう事はないし、昔よりは忠誠心も育っておってやりやすいが、それでも他の宮と比べるとの。例え皇子でも、罪人であって沙汰で我の宮に来るとなると、誰も遠慮などせぬ。放置しておれば、三日持てば良い方ぞ。七日もあれば跡形も無くなろうな。」

それは過酷だな。

さすがにあの腕では厳し過ぎるかと皆は顔を見合わせて、どうしたものかと考え込んでいたのだった。

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