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下位の宮の立ち合いが終わってからは開かれなかった宴だが、残りは明日の最上位の立ち合いだけとなったので、この日は開催された。

最上位は、酒の影響など受けぬと誇示するためでもあった。

とはいえ、今日は皆あまり飲まない構えで、壇上の席に座っていた。

いつもは居る覚、英、加栄は、今回は下の他の二番目の席に居る。

やはり立ち合いがあまり奮わなかったので、あちらから辞退して来たのだ。

なので、最上位と翠明、公明、樹伊が座る壇上に、渡がやって来て、言った。

「維心。話があるのよ。」

維心は、渡を見た。

「那佐。我も主と話したいと思うておった。座れ。」

渡は、頷いて皆の前に座った。

炎嘉が、言った。

「やはり主は二番目三番目の中では突出しておるな。まだ余裕があったのではないのか。」

渡は、答えた。

「時の運もあるゆえ。どんな下位でも、常に勝てるとは思うておらぬ。」と、維心を見た。「維心。関のこと、誠にすまぬと思うておる。あやつが無礼なのは、美穂にのぼせておるからぞ。ゆえ、謝罪に参ったのだ。」

そのことか、と維心は首を振った。

「別にもうそれは良い。主の宮に某か責任を取れとは言わぬつもりよ。ただ、こちらで話し合っておってな。」

志心が、頷く。

「やはり、あのなりふり構わぬ様子は、美穂を預けるには不安であるなと思うての。ゆえ、我らとしたら、関をどこかに行儀見習いと称して預ける沙汰にしようかと言うておったのよ。その間に、美穂には主の宮の指南に励ませて、終わったら美穂も関も帰して、行儀も良うなっておるだろうし万事上手く行くであろう?」

渡は、パッと明るい顔をした。

「おお、良い考えぞ!帰ってからのことを思うと気が重かったが、それなら良いな。」

炎嘉が、言った。

「そう。ゆえにの、表向きは沙汰ということだが、我らは別にもう何も思うておらぬ。これを口実にできるゆえ、良かったとさえ思うておるのよ。」

渡は、肩の力を抜いて、側の酒瓶を手にすると、自分で杯に注ぎながら頷いた。

「確かにそうよ。して、どこの宮で預かってくれるのだ?」

志心が、うーんと他の最上位の王達を見た。

「実はの、本来ここ龍の宮が一番良いのだが、維月が嫌がると維心が言うので。翠明も綾が居るから万が一を考えて否だし、我の宮でも良いのだが…どこが良いと思う?」

渡は、皆の顔を見回した。

そして、駿の顔を見て、お、と言った。

「駿。主の宮は確か、元はぐれの神が多うて皇子も手練れであるよな。」

駿は、ギョッとした顔をした。

一番候補から遠いと思っていたのだ。

「…確かに、うちは手練れでなければ地位があっても下に見てこてんぱんにされる宮であるが。」

元ははぐれの神の軍神が多いが、それでも代替わりしてもう、普通の神と全く変わらないのだが、それでも一番力社会の顕著な宮だ。

力が無いとバカにされ、皇子であろうと容赦ない。

渡は、頷いた。

「一度そういう所で揉まれたら良いのよ。あやつはだらけておって、我に王座を譲った後は、励むどころか訓練場に行く頻度も低い。亜寿美が励んでおるので、あれの体たらくが目立つのよ。ここは、そういった宮で苦労する方があやつのためにもなる。少しは我の跡目に相応しゅうなるやも知れぬしな。」

誠か。

駿は、まさか自分の所に話が来るとは思わなかったので戸惑ったが、炎嘉が言った。

「確かにそうよ。今、駿の所には若い娘も居らぬし、問題なかろう。では、それで。」

それで?!

駿は、まだ承諾してもいないのに、勝手に決まったと目を丸くしたが、しかし明日の立ち合いで、どこまでできるかわからないのだし、ここは借りを作って置く方が良い。

そう考えて、頷いた。

「ならばそのように。騮に世話させるわ。嫌がるだろうがの。」

騮とは、駿の第一皇子だ。

志心は、ホッとしたように頷いた。

「良かった、どうなることかと。確かに駿の所なら、安穏とはしていられぬ。女手がないゆえ、宮の奥を回すのも皇子達と駿でやっておるのだろう?そろそろ駿も、誰か娶れば良いのに。」

駿は、顔をしかめた。

「もう女は懲り懲りぞ。どうしてもなら、騮に娶らせたいが、あやつも面倒がって未だにそんな様子もない。もう慣れたしこれで良いわ。」

那佐は、酒を飲みながら上機嫌で言った。

「我も女はもう懲り懲りぞ。正式に娶ると気を遣って仕方がないからの。主の心地は分かるわ。どうしてもなら、その辺で遊ぶぐらいでもう良い。」

…だから美穂を娶って欲しいのに。

皆は思ったが、あまり言うと拗れるので、黙っていた。

維心は、維月と美穂が宴に来て居らずで本当に良かった、と思っていたのだった。


そうして、宴は終わり、皆は明日の最上位の立ち合いに備えて早めに休むことにした。

二番目三番目の王達も、帰る者は帰ったが、最上位の立ち合いを観覧したいと残っている者も多く居た。

渡は早速臣下に、関を獅子の宮に預けることになった、と知らせた。

それが、今回龍王妃を怒らせた罰で、宮自体には何の咎めもなかったので、そこは滝達も安堵していた。

臣下達も最上位の立ち合いは見たかったようだったが、帰って関にそのことを告げて準備をさせよと言われ、仕方なくもう、日も暮れていたが帰って行った。

駿は、決まったなら一刻も早くと皆に急かされて、軍神を何人か宮へと帰して騮に今回のことを知らせ、受け入れ準備をせよと伝えさせた。

獅子の宮では、明日は王が立ち合いだと大騒ぎであったので、降ってわいた面倒に、顔をしかめていた。

「…父上も面倒な奴を引き受けたものよ。」騮は、知らせを受けて顔をしかめた。「そやつは父王が宮の威信をかけて戦っておる時に、女に現を抜かして龍王妃の勘気に触れたのだろう?全く…そんな奴がこの宮でやって行けると思うのか。」

知らせを持って来た、軍神の頼樹(らいき)は下を向いた。

「は…しかしながら、王もお断りになられる状況ではなかったようで。渡様は出来るだけ厳しい宮にと仰せで、龍の宮は龍王妃が否と申すしで、こちらに白羽の矢が立ったとのことです。」

騮は、ため息をついた。

「龍王妃がそれだけ怒っておるのなら、龍の宮は無理ぞ。ま、少しは神世に借りを作っておかねばならぬし、良いやも知れぬ。我に面倒をとのことであったが、軍へ放り込むぐらいしか思い付かぬわ。部屋も、この様子では客間など要らぬな。軍宿舎に部屋を準備させるが良い。これは、罰なのだからの。それぐらいはせねば。」

頼樹は、頭を下げた。

「は!ではそのように。」

そして、皇太子の対を出て行った。

騮は、最近退屈だったし、その皇子とやらがどんなものなのか、見てやろうとニヤリと笑っていたのだった。


美穂は、無事に渡の立ち合いが終わったので、ホッとしていた。

怪我でもしたらと気が気でなかったが、渡は掠り傷さえ受けず、全勝で勝った。

…やはりあのかたは、頼りになるかたなのだわ。

美穂は、思いを新たに、きっと渡の役に立ってみせると、渡の宮に帰ってからの、指南の進め方を考えることにした。

「…真紀子。巻き紙と硯を。」

真紀子は、驚いた顔をした。

「え、もうお休みになるお時間ですわ。何をなさるおつもりですか?」

美穂は、答えた。

「落ち着かぬし、このまま眠れると思えないわ。宮に戻ってから、指南をどう進めるのか、考えて書き付けておこうと思うのです。」

真紀子は、とんでもないと首を振った。

「それは明日に。本日はいろいろお疲れなのですから、褥に入られたらきっと眠れるはずですわ。さあさあ、お着物を替えて。休みましょう。」

美穂は、顔をしかめたが、よく考えたら真紀子も奈美も疲れているはずだ。

ここで美穂がいつまでも寝ずにいると、二人も眠ることができないのだ。

「…分かりました。」美穂は、立ち上がった。「では、休む支度を整えましょう。」

真紀子はホッとしたように、奈美を呼んで着物を替え始めた。

美穂は、渡は今、どうしているだろうと思いながら、窓から月を見上げていたのだった。

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