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総当たり戦

その日、維月は軽めの着物にがっつりと中が透けないベールを被って、貴賓席へと向かった。

朝から、二番目三番目の試合を見るのは炎嘉と焔らしく、その二人が同じ席に居て、先に座っていた。

維月は、美穂と貴賓席の前で会って、驚いた。

美穂は、本当に美しいのだ。

いくら中が透けないとはいえ、真側に立てば中はいくらか見える。

確かに志心に似ていたが、良く見るとどこか、綾にも似ていたのだ。

維月は、深々と頭を下げる美穂に、ハッと気付いて声を掛けた。

「まあ、美穂殿。お会いできて嬉しいですわ。誠にお祖父様の志心様のお美しさを継がれて、気品のあるかたですこと。」

維月が言うのに、美穂は顔を上げて、恥ずかしそうに言った。

「まあ。龍王妃様にそのように仰っていただいて、とても恥ずかしい心地でありますわ。本日は、ご同席頂きまして、誠にありがとうございます。」

維月は、微笑んだ。

「よろしいのよ。我も見たいと思うておりましたのに、王が女はとか仰られて。お許し頂けないところでしたから。」と、席へと歩き出した。「こちらへ。もう始まっておりますわ。渡様には、まだ順が回っておらぬようですわね。」

維月が美穂を伴って席に座ると、炎嘉が振り返って言った。

「来たか、維月。美穂も。主らが見ておると思うたら、あちこち皆が落ち着かぬだろうの。それでなくとも、臣下達が戦々恐々としておるのに。」

見ると、確かに各宮の臣下達が、観覧席にひしめき合って立ち合いを食い入るように見ていた。

その中に、知った顔を見つけたのか、美穂が言った。

「あ、あちらに渡様の宮の滝が見えまする。軍神の清も、関様も。」

確かに、関の顔が見える。

維月は、滝の顔は見知っていなかった。ので、関の横に居るのが滝だろうなと予測しながら見ていた。

関は、こちらに美穂が居ることに気付いてはいないようだったが、維月はその頭を上から睨んだ…あれほど亜寿美が頑張って正月には琴を弾いたりと励んだのに、もうフラと新しい女に興味を持ったりするのだ。

維月の関への心象は、今最悪だった。

「…皆様励んでおられるようですわ。」維月は、言って二分割されている、訓練場のあちらとこちらを見た。「…あら。こちらは終わりますわね。」

見ると、確かに片方が刀を飛ばして、それが地にサクッと刺さった。

美穂は、感心した目で維月を見た。

「維月様は立ち合いがお分かりになるのですか?我にはさっぱりで…終わるのも、分かりませんでした。」

維月は、苦笑した。

「我は、時に王と共に訓練場にも立つのです。月でありますから、動きを模倣するのも目で追うのも得意でありまして。」

美穂は目を丸くした。

「まあ。」と、訓練場を見た。「叔母の椿も立ち合うのです。我にもできるのかしら…祖父はとんでもないと申しておりましたが。」

恐らく、育ったのは西の島なので、この祖父とは翠明だろう。

炎嘉が、それを聞いて維月の隣りから割り込んだ。

「やめておいた方が良い。あれは向き不向きがあるからの。幼い頃からやっていても、難しいもの。我が見たところ、主には適性はなさそうぞ。気の感じで判断しておるのだがな。」

美穂は、残念そうな顔をした。

「誠ですか。とても残念ですわ。」

維月は、言った。

「ご無理はいけませぬ。何事も、優れていることを伸ばして参るのが一番でありますから。」と、次の対戦者が出てくるのが見えた。「あ、あれは渡様では?」

見ると、終わったフィールドに渡と、もう一人あれは、加栄だろうか。

二人が、出て来て浮き上がるのが見えた。

美穂は、一気に緊張した顔になった。

昨日、飛ぶのも億劫だと疲れ切っていた、渡を見ているのだ。

しかし、炎嘉が言った。

「おお、那佐が勝つな。加栄を見よ、もう最初から何やらおかしな気を。もう諦めておるぞ、あれは。」

確かにそう。

維月は思ったが、美穂は言った。

「ですが、昨日は飛ぶのも億劫だと歩いていらしたのです。お疲れでは?」

維月は、首を振った。

「渡様からお疲れな様子は全くありませぬわ。恐らくもう、回復なさったのかと。」と、言った。「あ、始まりましたわ。」

渡は、目を鋭くしたかと思うと、一気に加栄に斬り込んで行って、一瞬にして加栄の刀は飛んだ。

「一本!」

龍の軍神が叫ぶ。

焔が、手で顔を押さえた。

「…見ていられぬわ。実力差がありすぎるのだ。加栄もそこそこできるはずなのに。」

炎嘉は、笑った。

「那佐があの程度で負けるはずなど無いわ。何度も立ち合うのに、遊びに付き合うつもりもなかろう。加栄は哀れよな。他も似たようなものだろう。」

美穂は、隣りで呆然としている。

維月は、フフと笑った。

「ご心配には及ばぬようですわね。渡様はとてもお強いですわ。ほとんどの神が、恐らく敵わぬのかと。」

炎嘉は、頷く。

「我は塔矢と仁弥が気になるのだ。あれらが那佐と立ち合うのを見たい。だが、まだ先だろうの。順が決まっておるからなあ。夕刻近くになろうし。」

維月も、立ち合いの順が書かれた表を見たが、確かにまだまだ先だろう。

もしかしたら、こんな退屈な立ち合いが続くのかと、少し気が滅入って来たが、美穂が渡を見たいのだ。

維月は、何としても美穂が渡にもっと興味を持つように、頑張ってここに一日座って居ようと心を鼓舞していた。


渡はと言うと、全く手応えのない相手ばかりでため息をついていた。

二番目の王達の実力は大体知っているし、順調に勝ち進んでいるのはやはり、予測した通りの王達ばかりだ。

銀令も少しはやるかと思っていたが、渡の敵ではなかったし、今楽しみにしているのは最上位といつも共に居る、翠明、公明、樹伊と当たることと、塔矢と当たることだった。

見ていると、翠明はあんな感じではあるが、なかなかやる。

闘神ではないので、戦うことは好きではないようだったがらやらせてみたらかなりの腕なのだと分かった。

後は、塔矢だった。

塔矢は、三番目というのが嘘のように優秀な王だ。

立ち合いも、前に渡が見た時よりも、やはりかなり腕を上げていて、楽しみで仕方がなかった。

観覧席には、臣下が大挙して来ていて、そこに関も居た。

まさか美穂は大丈夫だろうなと見ると、何と貴賓席に龍王妃と共に並んで座って見ていて、驚いた。

中が全く見えないベールをつけてはいたが、気の色で分かる。

女が少ない観覧席で、やたらとベールに包まれた二人は目立ってしまっていた。

…関も、いくらなんでも龍王妃の前に出る勇気はあるまい。

渡は、ホッと息をついて、また目の前の立ち合いに集中した。

「渡様、公明様、こちらへ!」

審判が呼んでいる。

渡は、立ち上がってそちらへ向かったのだった。


維月は、炎嘉達が居なくなり、次の当番の駿と高彰が来てもまだそこに居た。

二人とはそこまで親しくもないので、挨拶はしたが炎嘉ほど話をするわけではない。

渡はここまで負け知らずで、公明も樹伊もそこそこ抵抗したが、あっさり下されてしまっていた。

渡の立ち合いは、実戦を知る動きなので、滅多な王では敵わない。

それは、ここまで多くの立ち合いを見て来て、維月にはもう分かっていた。

「…少し、休憩しませぬか?」維月は、隣りの美穂に言った。「我が見たところ、ここからしばらくは渡様が負けるはずがないかと。少し離れて、またお祖父様の翠明様と立ち合うぐらいに戻りましょう。」

美穂は、まだそこに居たそうだったが、維月に言われて頷いた。

「はい。龍王妃様がそのように仰るのでしたら。」

まだ居たいのね。

維月は思ったが、ここからまた渡の番が廻って来ても、一瞬で終わってまた、渡の番を待つのを繰り返すのは疲れた。

なので、後ろ髪を引かれる顔をしている美穂を連れて、近くの応接間へと向かうことにしたのだった。

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