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会合の後

如月の会合は、重々しい雰囲気の中で終わった。

何しろ、皆が皆次の日から立ち合いが控えていて、とても浮かれた心地にはなれず、会合で発表された立ち合いの順の書は、皆が奪い合うようにして手に取り、見ていた。

三番目の宮の王達はそこまで悲壮でもなかったが、二番目の宮の王達は、皆真剣だ。

何しろ、三番目の王達に負けてしまったら、宮の序列がどうなるか分からない。

せめて、三番目の王達には負けまいと、皆が必死なのは見ていて分かった。

いつもなら、会合が終われば宴なのだが、この日はそれも行われない。

その代わり、余裕のある者は集まって茶でも酒でも自由に飲めば良いと、大広間には部屋へも持ち帰れるようにいろいろ設置されていて、誰でもそこへ行けば、酒も茶も手に出来るようにはなっていた。

だが、思っていた通り、酒は全く減らなくて、茶やら果実の汁やらの飲み物が減っていて、もっぱら解放されている、訓練場へと足を運んでいるようだ。

最上位の王達は、励んでいる他の王達の邪魔をするのもと思ったので、皆維心の居間へと集まっていた。

「那佐はどうした?」志心が言う。「あやつは訓練場か。」

炎嘉が、答えた。

「ああ、維心の居間へ参るぞと言うたら、峡が煩いゆえ付き合って参ると言うて、訓練場へ参ったわ。あれは、あの性格なのだが頼まれたら断らぬので、頼りにされておるのよ。」

志心は、息をついた。

「あれから、戻って美穂に話を聞いて来たが、やはりあちらへ戻りたいと申しておった。まだ始めたばかりだが、亜寿美は素直にしっかり学んでおるようだし、臣下も前向きに美穂の話を聞いて、宮を変えて行こうと良い空気なのだそうだ。そんな中で、放り出して戻りたくないという心地らしい。那佐は、美穂の事を考えて、結界内であるからいつなり宙へと呼べば庭なりへ出て話を聞いてやると言うておるらしい。関が茶会の席へと押し掛ける件にしても、そうやって聞いてくれたので美穂が那佐に訴えて、こちらへ連れて来る事になったようだ。今少し、様子を見ても良いかと思う。」

翠明は、頷いた。

「那佐がよう見てくれておるのなら、信じても良いか。ただ、関が案じられるのだ。無理だろうが、那佐を排してまた王座にと、女一人のことで言い出すのではないかと思えてならぬ。あやつが己から王座を降りるとか言い出した時、少しは抗えと根性がないなと思うてしまったしの。」

炎嘉は、頷く。

「それは皆そうよ。そも、関には那佐を追い落として王座に座るという気概もなければ能力もない。あっさり那佐に斬って捨てられて終わりぞ。そこまではやらぬだろうが、既成事実を作れば大丈夫だろうとか、軽く考えておる可能性はある。」

志心は、首を振った。

「それはない。仮に那佐の目を掠めて手をつけよったとしても、美穂を戻して宮に責任を求め、関を那佐に斬らせるだけぞ。美穂は第二皇子の子とはいえ、我の皇女の子ぞ。そこまで馬鹿にされる筋合いはない。筋を通せと申しておるだけで、仮に美穂が嫁ぎたいと申すなら考えても良いとは思うが…美穂は、それは無いとハッキリ言い切っておった。」

炎嘉は、それには頷いた。

「我もそれは聞いた。かなりはっきりした性質なのだなとあの時思うた。あれは椿や綾に似ておるわ。」

翠明が、渋い顔をした。

「バレたか。そうよ、志穂とは違って美穂は、綾のような感じでな。外では上手くやりおるが、内でははっきり申すので嫁ぎ先が決まるまでは、外へ出さぬ方が良いなと。表向きは、誰かに忍ばれたらと言うておったがな。」

だからなのか。

皆は、美穂の姿を全く見ていなかったので、やっとわかった心地だった。

維心が、言った。

「それにしても…那佐があれを娶ったら問題ないのにの。頑なに首を縦に振らぬ。それだけ美しいなら心も変わろうかと思うのに、あれは徹底しておるな。」

志心が、言った。

「思うに、美穂から那佐を想うて押せば、恐らく那佐は折れると思う。あやつは懇願されたら断れぬようであるしな。案外に押しに弱いようなのよ。というのも、侍女から聞いたが若くなってこのかた、あちこちの宮の皇女が那佐に嫁ぎたいような話が出ておるようで。今は誰も娶らぬとか言うておるし、己から言い寄るなど嗜みが無いと言われるゆえ戦々恐々としておるらしいが、そのうちに誰かが思い切って言い寄って参ったら、あっさり頷きそうだとな。」

炎嘉が、うーんと顔をしかめた。

「どうかの。言われてみたら初も気の強い女で、あれに言いたい放題されておったらしいが、那佐はあまり、女と接することが無い男であったからなあ。あ、昔の那佐であるがの。」

維心は、頷いた。

「戦いばかりで特定の女をどうのと聞いた事はなかったの。思うたらあやつは、女には弱いのかもしれぬ。強く言われたら、じゃあそれでとなりそうな。…何しろ遠い記憶であるし、ハッキリ覚えてはおらぬのだがの。」

志心も、遠くを見るような顔をした。

「確かにの…特定の女は居なかったの。妃というものを持っておらなんだが、あっちこっちで女を拾って相手をしたり、忙しい奴だった。我らはそこらの女を拾うなど無かったが、あやつは拾っておったよなあ。もしかしたら、あれは懇願されたりで哀れだからとかなのか?」

炎嘉は、首を振った。

「分からぬ。本神に聞けばわかるだろうが、そんな事は良い。美穂が嫁ぎたいと思うかどうかであろうが。中身は那佐だが体は渡。あちこち拾っておったのは那佐ぞ。今生、そこまで落ちぶれてはおらぬ。美穂なら、己が惚れたら恐らく己から言える性質だろうが…ここは、待つしかないか。もしかしたら、那佐は結構女に好まれる性質のようだし、ひょっとするのではないか?」

翠明は、ああ、と頷いた。

「それはそうよ。綾は正月からこっち、那佐以外の美穂の嫁ぎ先はあり得ないとまで言い切りおった。つまりは、あれは那佐をかなり高く評価しておるのだ。女目線から、どうやら那佐は好ましい性質のようよ。美穂が、なので指南役をするうちに、那佐と良いようになれば良いとあれは思うておるようだからの。」

やっぱりそうか。

維心も、言いたくなさそうに言った。

「…維月も。那佐の事は誤解しておったと良い評価になっておった。あれは、素で女を気遣う男であるから、あんな風でも接して話せば、美穂も惹かれるのではないかの。ここは、関の事は気になるものの、やはり美穂はあの宮に置いておいた方が良い。美穂が那佐を想うておるような雰囲気があったら、維月からでも綾からでも、言うてみるべきだと進言させることにする。そうしたら、那佐の事だから跳ね付けることはできぬだろうぞ。」

王達は、うんうんと頷き合った。

渡本神は、全くそれを知らずに、ひたすらに訓練場で、皆の相手をしていたのだった。


次の日、朝早くから立ち合いの会が始まった。

龍の軍神達は、審判を任されているのであちこちに配置されて、一つ一つの立ち合いを、進めて勝敗を書き付け、記録して行く。

下位の王達は、それなりにその中では励んでいて、皆ドングリの背比べではあるものの、そこそこ頑張っていた。

とはいえ、それを見学に行く神は少なくて、もっぱらその宮の軍神達が、王を見守るために観覧席に見えるぐらいだった。

最上位の王達は、なので暇にしていて、それぞれ好きなように過ごしていた。

維心は居間に居たのだが、そこへ炎嘉と志心、焔と箔炎が来ていた。

「漸は眠いとか言うて部屋に居る。駿は落ち着かぬからと庭で公明と樹伊と共に素振りをしておった。高彰は落ち着いたものだったが、甲冑の具合がどうのと宮と連絡を取り合って何やらやっておったわ。」

炎嘉が言う。

志心が、言った。

「那佐は?」

炎嘉は、答えた。

「あれは何やらやらねばならない事があるとか言うて。覚が泣き付いて来ておったゆえ、恐らく納得が行かぬから教えて欲しいらしいが、訓練場が使えぬしのう。どこかに場所はないかと探しておった。」

維心が、頷く。

「今、庭の端にある滝の近くの開けた場所で、覚と英、加栄に峡が集まって那佐を囲んで何やらやっておるのが見えるわ。もう明日なのに、今さらであるがの。目覚ましいほど伸びることはあるまいに。」

それでも、あれらは必死なのだろう。

「翠明は?」

焔が言う。

それには、志心が答えた。

「美穂の話相手をしておる。己の控えに呼んでおった。あれも孫のことであるから気になるのよ。我とは違って、己の宮で成長を見守って来た娘であるからな。」

炎嘉は、ため息をついた。

「誠に関のことさえ無ければ、順調に進むはずなのにの。気が揉めるが、那佐なら間違いはないだろう。と思いたい。」

そこへ、義心は入って来て、膝をついた。

「王。中間報告でございます。」

炎嘉がお、と明るい顔をする。

「早いの。午前中でどれぐらい進んだのだ。」

義心は、維心に書を手渡しながら、答えた。

「只今でちょうど半分でありますな。かなりの早さで一試合が終わるので、良い感じに進んでおります。」

維心は、あまり興味も無さげに書を炎嘉へと渡しながら、義心に言った。

「戦闘時間が1分以下とは何事ぞ。一瞬ではないか。今少し粘る奴はおらぬのかの。」

義心は、神妙な顔をした。

「は…そこそこ頑張っても10分ぐらいですか。動きが両者緩慢であるので…その、少し速ければそちらが勝つという案配で。技術よりも、速さが、下位の中では勝敗を分けておるようです。」

炎嘉は、息をついた。

「ま、気の量の違いもある。気が大きければその分動きも速くなるしの。ということは、下位はあまり序列の変動はなさそうか。」

義心は、頷いた。

「は…。見たところ、そのようです。」

緩慢といっても、十分に速いのだが、どうしても義心のように、上位の軍神から見るとそう見えるのだろう。

「まあ、下位は良いのだ。分かっておった。それより、二番目三番目ぞ。明日からどこがどれぐらい頑張れるかにかかっておるの。」

義心は、頷いた。

「誠にそのように。」

下位は恐らく、このまま気の大きさの序列のままで大丈夫そうだ。

ならば、後は二番目三番目だった。

特に、記憶を戻して格段に気の大きさが変わった渡は、どこまでやるのか、そして炎嘉の血族の血を持つ塔矢がどこまでやるのか、ダークホースだった仁弥がどれ程なのか。

明日からは、荒れそうだなと皆は思って楽しみにしていたのだった。


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