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如月の会合

渡は、夜明けと共に出発すべく、出発口へと出て来ていた。

いつもは輿など使わないのだが、本日は美穂も連れて行かねばならないので、もう歳だし帰りは疲れておるだろうから輿にする、と軍神達に言って、準備させた。

するとそこへ、美穂が侍女二人と共に、きちんと外出用の着物を着て、出て来た。

見送りに来ていた、滝が驚いた顔をして振り返った。

「美穂様?どうなさいましたか、王は会合に出向かれるのですが。」

美穂は、頷いて答えた。

「はい。祖父が、立ち合うので龍の宮へ連れて来てもらえと連絡して参りまして。渡様に、お連れ戴こうと思うて出て参りました。」

滝が、困ったように渡を見る。

渡は、頷いた。

「そうか。志心か翠明が申して来たのだの。ならば、こちらへ来て日も浅いし案じて状況を聞きたいのやもしれぬ。連れ参ろうぞ。輿へ。」

同じように見送りに来ていた、関が言った。

「しかし、危険な立ち合いだと聞いておりますのに。連れて参って観覧席で巻き込まれでもしたら。」

渡は、美穂を輿へと急がせながら、関を振り返った。

「これの祖父が来いと申しておるのに、連れて参らなんだら何を言われるか分からぬわ。恐らく、こちらではどんな様子か聞きたいのだろうて。まさか、皆で何か無礼な事はしておらぬだろうの。美穂がそれを志心にでも訴えたら、我が宮は立て直しどころか廃宮になってもおかしくないぞ。大丈夫だの?」

念を押すように言うのに、滝が答えた。

「そのような!皆には、礼儀は弁えるよう重々申しておりまするし、それに自信がないものは、決して美穂様に近付かぬようにしておりまする。そんな事は絶対に。」

関が邪魔しておるのを見逃しておるわ。

渡は思ったが、頷いた。

「ならば良い。では、我は宮の大事であるし、四日留守にするぞ。滝、主は我が立ち合う会の二日目から来るのか。」

滝は、頷いた。

「はい。しかと王のご雄姿を、この目に焼き付けたいと思うておりまする。」

渡は、頷いて輿へと足を踏み入れた。

「では、行って参る。できるだけやるわ。」

皆が深々と頭を下げる中で、関だけは渋い顔をして、渡と美穂が飛び立って行くのを見送ったのだった。


龍の宮では、夜明けであるにも関わらず、多くの神でごった返していた。

七夕の時とは違い、あの浮き足立った様子は全くなく、皆厳格な雰囲気で粛々と移動して行く。

そんな中で、渡は輿から降りたって、ちょうど歩き出した峡と行き合った。

「渡。何ぞ、主も輿か。珍しいの。」と、輿からベールに包まれた女が降りて来たのを見て、目を丸くした。「え、誰を連れて参った?主、いくら立ち合いは心配ないからと、浮かれ過ぎではないか。」

渡は、ちらと後ろを見てから、言った。

「…美穂ぞ。志心と翠明の孫。我の宮の指南に来ておるのだが、置いて参ったら我の留守に何があるか分からぬからの。連れて参った。翠明の控えにでも行かせるわ。」

峡は、同情気味に頷いた。

「そうか。気を遣うのう。上位の王の縁戚であるし、間違いがあっては申し開きもできぬ。」と、一際豪華な輿が降りて来るのが見えた。「お。珍しい、この時間に炎嘉殿が。」

え、と渡は上を見た。

確かに、最上位がこんなに早く来るのは珍しい。

峡は、急いで足を踏み出した。

「参るぞ、渡。これ以上気を遣うのは疲れるからの。」

渡は、首を振った。

「いや、我は話してから参る。主は先に行け。後ろから志心の気配もするし、美穂を任せねばならぬ。」

峡は、頷いてさっさと歩き出した。

「では、後でな。」

峡は、その場を退散して行った。

他の王達も、最上位の気配に急いで到着口を去るのが見える。

渡は、困ったように輿の側で控えている、清を見た。

「主は輿を片付けて参れ。その後は、訓練場の観覧席なり、好きにすれば良いわ。行け。」

清は、頭を下げた。

「は!」

そうして、他の軍神達と共に、龍の軍神に案内されて輿を移動させて行く。

そうしているうちに、炎嘉が輿から降り立った。

「那佐ではないか。」と、美穂を見た。「お。美穂か。何ぞ、連れて参ったのか。」

渡は、むっつりと言った。

「そうか、主は皇子の妃の妹であるから面識があるわな。理由があるのよ、志心はまだか。」

炎嘉は、上を見た。

「上で会ったゆえ、もう来るわ。我らも事前に話し合う事があっての。」と、美穂を見た。「美穂、励んでおるか。とはいえまだ、三日ほどであるな。」

美穂は、頭を下げた。

「はい。皆様とても良くしてくださるので、我は心安くしておりまする。」

志心の輿が降りて来て、志心が出て来た。

上を見ると、焔の輿やら箔炎の輿やらが、降りるのに待っているのが見えた。

最上位が、事前に話し合う事があるのは本当のようだった。

「那佐?何ぞ、美穂を連れて来たのか。我らに気を遣わぬでも良かったのに。」

渡は、言った。

「志心、美穂を主の控えに預かってくれぬか。この四日。」

志心は、首を傾げた。

「別に孫の事であるから良いが、それなら何故に連れて参ったのよ。何か問題でも?」

渡は、答えた。

「こうして見ると主にそっくり。そのせいで、こやつを宮に放置してこれなんだのよ。」

炎嘉は、言った。

「ははあ、あんまりにも美しいゆえ、さては臣下達が懸想でもして大変なのだの?主が居らぬと押さえきれぬほどか。」

渡は、ウーと唸った。

「臣下はそんな大それたことはせぬわ。ではなくて、関よ。我は叱責した。そのお陰で言い寄りはせぬのだが、やたらと亜寿美との茶会の席に同席したり、面倒なのだ。我が居らぬと何をしでかすか分からぬから、志心が来いと言うて来たとか言うて、これを連れて来た。」

志心が、顔をしかめた。

「誠か。」と、美穂を見た。「困ったの、確かにこやつは見目が良いから、そこらの男が懸想して忍んで来たらと翠明も、宮の奥に置いてかなり警戒しておったのだ。」

だからこんな世間知らずに。

渡は思ったが、美穂は言った。

「ですが、渡様がとてもお気遣いくださるので、我は問題なく過ごしておりますの。臣下も、おかしな事を言う者は居りませぬ。お祖父様、宮に帰すとは仰らないですわね?」

志心は、困ったように言った。

「主が関になど、那佐の前でなんだがハッキリ言って許すことはできぬからの。主は関に嫁ぎたいか?」

美穂は、すぐに首を振った。

「いいえ。それはありませぬ。」

やっぱりハッキリ答えるのに、渡はもう驚きもしなかったが、志心も驚く様子もない。

恐らく、本当に身内の間ではこんな感じなのだろう。

だが、炎嘉は驚いた顔をした。

「…主、志穂とは感じが違うの。顔は似ておるのに。何やら綾や、椿に似ておるような。」

美穂は、ハッと炎嘉を見た。

渡はもう知っているので気にしてはいなかったが、よく考えたら炎嘉が居た。

美穂が困っていると、志心は言った。

「こやつは幼い頃から気が強いのでな。とはいえ、外向きには完璧であるし、問題ない。綾や椿に似たのだろう。」と、美穂を見た。「とりあえず、後で考える。主は我の控えに行っておれ。龍の侍女が連れて参ってくれるわ。我は、これから維心達と話し合いがあるのだ。」

美穂は、しおらしく頭を下げた。

「はい、お祖父様。」

美穂は、進み出た龍の侍女に先導されて、己の侍女達と共にそこを去って行った。

そこへ、焔と箔炎が歩いて来て、行った。

「何ぞ、何かあったか。那佐は女を連れて来たのか?」

焔が言うのに、渡は顔をしかめた。

「好きで連れて参ったのではないわ。困ったことになっておるのよ。だから置いて来れなんだ。」

炎嘉が、説明した。

「そら、美穂よ。志心にそっくりで美しいのだ。ゆえ、関が懸想しておるらしい。」

箔炎が、呆れた顔をした。

「はあ?何故に関よ。ならば、那佐がとっとと娶れば良いではないか。関はならぬわ。能力が違う。ようそんなことが言えたのあやつは。己から王座を降りたくせに。」

最上位の王にとって、王座はとにかく面倒でしかない代物なのだ。

それを降りた関に、あまり心象は良くなかった。

渡は、言った。

「それこそ美穂が哀れであるわ。王座を降りたのは我も同じ。戻るのも本来否だった。とにかく、此度は志心に預ける。我が宮に居れば問題ないと言いきれるが、しかしこれを聞いて主らがどうするか考えてくれたら良い。我が娶ること以外でな。いっそ、無器量な皇女とか居らぬのか。」

炎嘉が、眉を寄せた。

「そんな都合の良い事があるはずはあるまい。それより、ちょうど良いわ。我ら、これから立ち合いの会の話をするのだが、主も来い。」

渡は、むっつりと言った。

「それは良いが。面倒は押し付けるなよ。」

そうして、次々に到着して来る最上位と二番目の王達を後目に、皆は維心の待つ応接間へと移動したのだった。

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