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来訪

龍の宮では、昼も近くなって、炎嘉と志心、蒼以外のメンバーも来訪したので、維心達は場を応接室へと移した。

そこは、月の宮の応接室と同じように畳敷きにして、丸く円を描くように細いテーブルを設置して、その下に足を下ろせる溝を作り、窓を向いた前には畳の敷いた場所がまたあり、楽などを楽しめる場所を作ってあった。

思えば、月の宮は上手く遊ぶための場所を設えていたのだ。

龍の宮でも、この応接室はこの時だけ設置されるのではなく、常設される事になっていた。

目の前の畳の上には、楽器が当然のように置かれてあって、今回も楽をやることもあるのだろうなという雰囲気だった。

焔が、上機嫌で言った。

「月の宮を思い出すの。良いなあ、我もこんな場所を宮に作ってあるのだが、臣下と共では何やら味気なくてな。当番になったら、我の宮へ皆を招くことができると思うておる。」

炎嘉が、言った。

「誠か。では次は主の宮に行こう。実は我も作らせてあるゆえ、次はうちでやるかと思うておったが主がそう言うてくれるとは思うておらなんだわ。」

焔は、ムッとした顔をした。

「我とて正月は気分を変えたいのだぞ?だが、蒼には何度も世話になっておるし、我が儘ばかりもならぬなと思うて。」

漸が、言った。

「我も、もしもの時のためにと瑞が勧めるゆえ、これと同じように作らせた。瑞は月の宮に居ったゆえ、よう知っておるからの。今少し臣下を教育してから、主らをまた招いて良いかと思うておるよ。」

隣りの、瑞花が黙って頷いた。

蒼が言う。

「良かった。皆が気に入ってくれて。この形は試行錯誤を繰り返して作り出したものだったので。」

維心が頷いた。

「誠に良い形と思うぞ。皆が顔を合わせられるし、何より長時間でも疲れぬからなあ。」

龍の宮の酒は、相変わらず飲みやすくおいしい。

どんどん運び込まれて来るが、通常滅多に口にできない高級品だった。

「酒は旨いし言うこと無しぞ。今年は何の遊びかの。またマーダーミステリーとか言う犯人捜しをするのか?」

志心が言うのに、維心が答えた。

「あの折、複数のシナリオを持っておってな。まだまだあるらしいし、やりたいならできるぞ。」と、維月を見る。「のう、維月。」

維月は、頷いた。

「はい、王よ。いつでもご準備できますので、お命じくださいましたなら。」

翠明が、言った。

「またあれか。面白いのだが疲れるのよ。犯人にならぬのなら良いのだがの。」

すると、隣りの綾が言った。

「まあ、王ったら。脇役ではなく主役になる機でありますのに。犯人の方が考える事が多くて楽しめるのではありませぬか?」

それには、焔が答えた。

「あのな綾、己が犯人になることを考えてみよ。このメンツの中で、隠し通すのは難しいのだぞ。現に維心と炎嘉は正解にたどり着いたしな。別の者が告白しておるのにも関わらず。」

綾は、美しい顔をしかめた。

「確かにそうでありますけど。」

今生、綾は焔の兄の燐の子として生まれているので、焔を叔父だと思って育ったので、気安い。

維月は、ホホと笑った。

「ですが確かに、犯人役をやり遂げてこそこの遊びを極めたと言えるのではないかと。難しい役でありますから。」

維心が、微笑んだ。

「確かにの。我も犯人に当たるとどうなるのか興味はあるのだ。とはいえ、こればかりは運でもあるしな。」

維月は、微笑み返して頷いた。

「誠に。楽しみですこと。」

和やかな雰囲気になってきて、そろそろ楽でもと話し始めた時、鵬がやって来て膝をついた。

「王。関様、渡様ご到着でございます。」

来たか。

皆が、黙る。

維心は、頷いた。

「入るが良い。」

鵬が頭を下げて後退し、扉を開くとそこには、関、関の妃、渡が並んで立っていた。


…あれは、確か亜寿美様というお名だったはず。

維月は、頭の中で考えていた。

あちこちの妃が陳情などに来るので、維月も幾人かは上位でなくとも面識はあるのだな、亜寿美は初めてだった。

名前を間違えてはならないので、維月は名前を呼ぶのは相手が名乗るのを待ってからにしよう、と思いながら、じっとそちらを観察していた。

炎嘉が、言った。

「おお、よう来たの関、渡。そろそろ楽でもと言うておったところなのよ。そちらの空いておる場所に座るが良いぞ。」

見ると、本来覚達が座るはずだった場所が広く空いている。

翠明の隣りになる場所だった。

ちなみに樹伊と公明は、反対側のこちらに居た。

綾は、急いでベールの中で扇を高く上げて、目を伏せる。

関とは面識がないので、隣りに来るとなるとハッキリ見えないようにするためだった。

…気を遣うわね。

維月は、綾を気の毒に思った。

だが、まだ自己紹介も終わっていないので、簡単に妃だけ場所を移したいとも言い出せない。

一方、亜寿美はといえば、扇こそ上げてはいたが、嬉しげに皆を眺めているのはハッキリ見えた。

つまりは、綾ほど完璧に隠してはいなかった。

少し気になったが、維月は黙って推移を見守っていた。

すると、炎嘉が言った。

「…関の妃は、ええっと、確か仁弥(じんや)の娘だの。だとしたら三百くらいか。」

仁弥…誰だったかしら。

維月は、眉を寄せて考えた。

関が、頷いた。

「は。亜寿美でございます。何分三番目の宮から嫁いで参ったので、何事も弁えぬので、案じておるのですが。」

炎嘉は、頷いた。

「最低限の礼儀を弁えておったら問題ない。他の妃と接しておれば、自然身に付いて参るものであるしな。とはいえ、序列再編に関わるゆえ、主も気を遣うの。」

関は、頭を下げた。

「は…。誠に。」

三番目…。

維月は、知識をフル動員していたが、仁弥がその中でどのくらいの地位であったか思い出せなかった。

とはいえ、亜寿美の様子は少し、不安なものだった。

何しろ、自分の事が話題に上がっているのに、炎嘉に頭を下げる様子もないのだ。

恐らく、こんな場には慣れていないと思われた。

…このまま王達に囲まれていたら、きっとボロが出て責められて大騒ぎになるのでは。

維月は、焦って言った。

「王。そろそろ我は友と話して参りたいですわ。隣りに用意してある茶席に、移ってもよろしいでしょうか。」

最悪、妃だけの場所なら何をしても維月が許せば何とかなる。

隠しておこうと思ったら、皆に言って隠す事も可能だからだ。

ここで何かしてしまったら、維心も居るし何を言い出すか分からないのだ。

維心は、チラと維月を見て、言った。

「…そうか。」と、何かを探るような目で亜寿美を見たが、頷いた。「ならば、行って参るが良い。妃同士で話したい事もあろうしな。」

維月はホッとして、立ち上がる。

それを見た他の妃も、己の王に頭を下げて立ち上がる。

本日は、椿、綾、桜、瑞花、楢が来ていて、そこに亜寿美というメンツだった。

「…大丈夫なのか、亜寿美。」

亜寿美は、立ち上がりながら頷いた。

「はい。王はご心配性であられること。」

主が心配しなさすぎなのだ。

関は思ったが、維月を先頭に部屋を出て行くのを、黙って見送るよりなかった。


それを見送ってから、炎嘉が言った。

「…関。気を遣わせるのを分かっておって連れて参ったのか。なんぞ、あれは。主は上から二番目の宮の王であろう。妃一人も躾られぬのか。もう三百なのだろう?我に頭も下げぬでおったではないか。」

関は、慌てて頭を下げた。

「申し訳ありませぬ。何しろ、嫁いでから母上が躾てくれておりましたので、任せきりで。母が亡くなって、現状を知りましたほど。とりあえずは、外との交流がなかったので何とかなりましたが…宮では難なくやっておるのです。」

維心が、言った。

「…維月は何か気取ったのか、ここから連れ出したほうが良いと判断したのだろうの。あれは甘いゆえ…気になるがの。」と、扉を見た。「鵬。」

鵬が、扉を開いて膝をついた。

「御前に。」

維心は言った。

「侍女に隣りをよう見ておくように申せ。主も祥加と代わって見ておれ。」

鵬は、頭を下げた。

「は!」

鵬は、扉を閉じた。

関が顔色を悪くしていると、維心は言った。

「なに、予防ぞ。関、妃の一人も躾られぬ王など、二番目の序列の王ではないぞ。渡の頃は初がようできた妃であったし、我らも特に考えた事はなかったが、亜寿美は何やら不安を感じる様。何もなければ良い。最低限でもできておったら特に言わぬから。とにかく、宮の様子も気になるほどの様であった。隣りの綾ができた妃であるから、目立ってしもうてならぬだけやも知れぬしな。」

志心は、ため息をついた。

「言いとうないが、我らを一当たり眺めておったのは困った様子よ。綾は主が隣りに来た途端に扇を高く上げて目を伏せた。こんな初めての場所で、あれはないぞ。とはいえ…連れて来たのは褒めてやろう。連れて参らなんだらこちらも外に出せぬのかともっと案じただろうからの。それこそ、宮を精査に行く事も考えただろう。」

父上が言うた通り。

関は、思った。

亜寿美はあれで、とりあえず宮では何とかやっていたのだ。

だが、最上位や上位の宮の妃達に比べると、場に慣れていないのもあって、悪目立ちしてしまう。

隣りの綾など、世にこんな女がと関も隣りに座るのにどぎまぎした程だ。

あの中に、立ち混じる隣りの様子が、気になって仕方がなかった。

亜寿美本神が自覚していれば良いのだが、行きの輿の中であれほど言ったにも関わらず、どうやら分かっていなかったようだ。

渡が、言った。

「…我の責ぞ。」何の事かと関が驚いて隣りを見ると、渡は続けた。「初に任せて宮の奥は見ておらぬでな。亜寿美があそこまで無自覚だとは思いもよらず。放置したまま安易に譲位したゆえ、関は苦労しておるのよ。」

維心が、言った。

「初は上手くやっていたのだ。主は悪くはない。雀があれを主にあてがったのは間違いではなかったの。仁弥の子ならばな…あれは、次の再編で恐らく下位に陥落するだろう。何しろ三番目最下位であるから。やはり、下位から娶るとかなり努力せねばお互いに不幸になるのだ。難しいことよ。」

渡は頷いたが、関は困っていた。

もう一人、妃が居るのだが、そちらも同じ三番目の宮から娶っていたので同じようなもので、亜寿美の方がいくらかマシなほどだった。

…気が楽だからと下の序列から選んだのが間違いだったのか。

関は、ため息をついていた。


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