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その日に向けて

その後は、王達は少し茶を飲んで体を癒してから、何があったのかすら知らない他の宮の残っていた王達に紛れて、明けて来る空を、それぞれの宮へと向けて飛び立って行った。

体の傷は、深手もあったが優秀な龍達のお蔭もあって、誰も後遺症もなく消え去った。

ただ、見た目は綺麗でも完全に治るまで痛みだけは残るので、しばらくあちこち痛みを我慢しなければならなかった。

維心は、どこにも深手はなかったが、あちこち浅い切り傷はあったので、それを綺麗に治して、一見なんでもなかった。

だが、維月と共に、もう明るくなって来ているが奥の間へと休むために入って行くと、顔をしかめた。

「…やはり痛みますか?」

維月が隣りの維心が横になるのを助けながら言うと、維心はフッと鼻で息をついた。

「…志心ぞ。嫌な場所を狙って来るゆえ、浅くても地味に痛む。」

維月は、顔をしかめた。

「見た目は綺麗に治っておりますのに。どれぐらいそうなのでしょうか。」

維心は、横になって言った。

「そう長引くことはない。寝て起きたら痛みも無くなっておるやもしれぬ。これは個神個神違っての。我は、何でも治るのが早いゆえ。案じる事はない。」

維月は、頷いて隣りへ横たわりながら言った。

「誠に…地獄のような光景でありました。知っておっても言えぬしで、月から見て泣いてばかりで。」

維心は、ハッハと笑って維月の肩を抱いた。

「我からしたら、その時は必死であったが胸が沸いてもおった。それは、他の王達も同じ。我ら、闘神であるからの。戦いは、困難であればあるほど血が(たぎ)るような心地になるのよ。主らには理解できぬやもしれぬがな。あれらは、帰りには楽し気に話しておったであろうが。何しろ、そういう生まれであるから。太平で滅多にやらぬから、忘れておっただけ。」

維月は、そんなものなのか、と頷いた。

「私には完全には理解できませぬが、蒼があのような反応をしたのでも分かるように、やはり友である者同士が傷付け合うのは…。」

維心は、苦笑した。

「確かに主はそうやも知れぬの。那佐が居ったら喜んだであろうになあ。我にとり、来月の立ち合いはかなり楽しみになった。碧黎相手に…気が逸る。」

維心からは、ワクワクとした心地が伝わって来る。

維月はため息をついて、維心に布団を掛けた。

「さあ、少しお休みくださいませ。月で蒼が十六夜から実体化の特訓を受けているのが見えますわ。お目覚めの頃には、あの子も新しい人型で、お側に降りておるかもしれませぬ。」

維心は、頷いて目を閉じた。

「では、楽しみに待とう。」

そうして、二人はカーテンの影から差し込んで来る朝日を見ないようにしながら、眠りについたのだった。


それから、維心は訓練場へ向かう事が多くなった。

もっぱら義心を相手に軽く立ち合う程度だったが、そのお陰でやたらと義心の技術が上がると皆が拗ねるので、維月も行って他の軍神達の相手をするのが日常的になっていた。

結局、筆頭軍神の立ち合いで頭角を現したのは、三番目最下位と言われていた、仁弥の宮の軍神筆頭、笹羅(ささら)だった。

王達は急遽二番目三番目は合わせて総当たりになったが、筆頭軍神の時にはまだ、二番目と三番目は別に立ち合っていた。

笹羅は三番目の宮の中で、塔矢の宮の筆頭である備前(びぜん)相手に対等に立ち合い、勝利はできなかったものの、全勝の備前に次いで、一敗で二位という戦いを見せた。

銀令の宮の筆頭である(けい)もかなり頑張っていたのだが、笹羅には遠く及ばない様子で、三位であったものの、上位二名があまりにもできるので、精彩を欠いた。

そこから、渡が言っていた仁弥の腕前も、何となく透けて見えた。

その後、二番目の宮で勝ち残った者達と立ち合うエキシビジョンマッチがあったのだが、やはり備前と笹羅は二番目の筆頭軍神相手にでも、全く怯む様子もなく、グングンと勝ち残って行き、結局負けたのは、翠明の所の勝己と、公明の所の太弦、樹伊の所の朱門にだけだった。

つまり、他の二番目の宮の軍神達は、あっさりこの二人に下されてしまったのだ。

勝った勝己、太弦、朱門にしても、この二人相手に苦戦していたのは確かだ。

つまりは、俄かに塔矢の宮と、仁弥の宮が筆頭軍神の立ち合いでは注目を浴びる事になっていた。

王の結果次第では、三番目最下位と位置付けられていた仁弥と、三番目筆頭の塔矢が、一気に上昇する可能性が出て来たからだ。

更に各宮で訓練場が大盛況となっているのは、維心と維月の耳にも届いていた。

維心が、言った。

「結果は、各宮に書にして送られておるが、あの日に観覧しておった王は、とっくに知っておろう。とはいえ、やはり仁弥よ。あやつができるのは那佐に聞いて知っておったが、それが誠であると分かった。あやつの筆頭の笹羅が、義心も見たらしいがかなりの腕であると。間違いなく、仁弥が育てたからそうなったのだ。塔矢の筆頭の備前はできるだろうなと予測しておったが、まさか笹羅がそこまでであったとは。仁弥が宮を礼儀の点で立て直しておるのは志心に改めて見て来させたので分かっておる。あやつは絶対に二番目に上げねばならぬわ。王の立ち合いでは、しっかり励んで欲しいもの。」

相変わらず渡のことを那佐と呼ぶのは、維月ももう訂正する気持ちもなくなっていた。

「ですが…まだ分かりませぬわ。王同士の実力差と仰いますが、筆頭軍神と同じように並んでおるとは限りませぬし。王は、二番目三番目は総当たりになるのでしょう?」

維心は、頷く。

「その通りよ。我は、志心と共に最後の組み分けの所を見る事になった。最初から焔と箔炎、炎嘉と漸、駿と高彰と分けて担当して見る事にしておってな。最後は我と志心なのだ。」

四つに分けたのね。

維月は、思って頷いた。

「そうなのですね。では、二日目になりますかしら。長引いたら三日目かしら。」

維心は、答えた。

「恐らく、我らが見る最後の区切りは三日目にずれ込みそうだと義心が言うておった。初日は下位の王達であるが、そこがどれぐらい時を取るかで決まるようだ。下位は訓練場を四つに区切ってやるとは言うておったがな。」

龍の宮の訓練場はとても広い。

だが、手練れの者であるほど、広いスペースに影響を与える立ち合いをするので、邪魔にならないためにも広く場所を開けねばならない。

下位は、四分割で良いと義心は判断したのだろう。

何しろ、下位の軍神達は、六分割で戦っていたのだ。

「…くれぐれもお怪我はなさらぬように。お父様との立ち合いに、手負いでは全力で当たられませぬから。」

維心は、顔をしかめた。

「何故に我があやつら相手に。無い。あの折は全員が相手だったから怪我をしたのよ。あり得ぬ。」

少し、拗ねているようだ。

維月は、苦笑した。

「ですから、もしもということですわ。ご油断はなさらないように。」

維心は、頷いた。

「問題ない。」

まあ、多分大丈夫だけど。

維月が思いながら、拗ねた維心の機嫌を直そうと、別の話題へ変えようと考えていると、そこへ鵬がやって来て膝をついた。

「王妃様。西の島南西の宮より御文が参っておりまする。」

翠明の宮からなので、綾だ。

維月は、渡りに船と頷いた。

「これへ。」

鵬が捧げ持つ文箱を、侍女が取りに行って維月へと手渡す。

維月は、紐を解いて中を見た。

相変わらず美しい文字で、綾は維月に現状報告をしていた。

「…美穂様が、渡様の宮へ御指南に参られる事が決定したそうですわ。緑翠様も志穂様より良い嫁ぎ先もなかなか見付からぬので、この際なので修行に出て目立つ方が得策だとお考えになったようで。翠明様が、本日渡様に決定の通知を送られたとのことです。」

維心は、途端に仕事モードに切り替わって言った。

「そうか。安堵した。その件は翠明に丸投げしたのであやつも美穂が駄目なら覚に話を通さねばならぬから、面倒に思っておったようだしホッとしておるだろう。ま、綾が前向きだと主に聞いておったから、我はこうなるだろうなと思うておった。」

維月は、頷く。

「志穂様があれほどに美しいし、きっと美穂様もお美しいと思うのです。渡様も、その気になってくださるかなと思うのですが。」

維心は、それにはうーんと顔をしかめた。

「どうであろうの。何しろあやつはあのような考えであるし、娶るのが恒久的に宮を正せる機なのは確かなのに、気に入ったとしても言い出さぬと思うわ。」

渡は、無理に娶るのは嫌なのだ。

神世には珍しい女の気持ちを考える王なので、己からでは娶ろうとは言わないだろう。

つまりは、美穂から想いを寄せるしか、方法はないのだ。

「…我らは知っておりますので、あのような王はなかなかに居らぬし、きっと幸福になるだろうと分かるのですが、美穂様はご存知ありませぬから。それに、己から嫁ぎたいなど、厳しく躾られておるほど言わぬかと。困りましたこと。」

維心は、苦笑した。

「まあ、縁があったら自然そうなろう。那佐は変わったヤツであるからな。何もかもが良い王であるとは限らぬし。長い目で見ようぞ。」

それはそうだけど。

維月は思ったが、綾とは緊密に連絡を取り合って、もし美穂から渡を思うような事があったら、話を進められるように手助けしようと思っていたのだった。


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