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島を懸けて

碧黎が去った後、炎嘉が言った。

「…えらいことになった。」と、碧黎が現れてから、ずっと持ったままだった盃を置く。「碧黎だぞ。あれ自身も言うておったが、あれが立ち合っておる様など見た事は無い。ただ、恐らく維心より出来るだろうという、推測だけぞ。」

焔が、悲壮な顔をした。

「維心も敵わぬのに…我らにどうせよと申す?あやつが、この島を特別に扱わぬとしたら、どうなるのだ。」

維心は、大広間の檀上以外の王達が、こちらの会話や碧黎の訪問に気付いてもいないのをチラと見て確認してから、言った。

「…主は、この島の深い歴史を知らぬ。常、碧黎が裏で糸を引いておった。ここは、その昔戦国で、それをまとめるために我の前世であった維翔が生まれ、混沌としておった世は固まり始めた。その後また、我が五代龍王として生まれ、炎嘉や志心と共に戦国を終わらせ、やっと島はまとまった。もし、この狭い島の中で戦っておるうちに、大陸から攻められておったらどうなったと思う。あの、北からの侵攻を考えて見よ。あれが、もしその頃に起こっておったなら。」

焔は、眉を寄せた。

「…バラバラであるのだから、戦力は分散して簡単に島の奥まで侵攻されておっただろうの。だが、実際にはそれは最近のことだった。」

維心は、頷いた。

「その通りよ。なぜにそんな風に、上手い具合に太平になってからそんな事が起こったのだ。こちらの存在は、向こうも知っておったのよ。だが、あえて皆、出て来ようとはしなかった。なぜに?」

それには、箔炎が答えた。

「…つまりは、碧黎がそれを操作しておったと主は思うのか?」

維心は、首を振った。

「思うのではなく、知っておるのだ。碧黎は、操作しておった。あちらの大陸との交流も、始まった当初そろそろ良いかと思うたとあれは発言しておる。つまりは、我らがこの地に出現してこのかた、ずっと見守られ、操作されて、待たれておったのだ。最終的に成長し、この地という球体の全てがまとまり落ち着く世を作るために。だからこそ、今また我らはこうして集い、新たな動きに対応させられようとしておる。言うたではないか、漸ばかりか那佐まで戻って参った時に、何かが起こると。この地には、北と北西の大陸だけではないと。次の試練が、もうすぐそこまで来ておると見て間違いない。だが、まだ早い。」

炎嘉は、難しい顔で頷く。

「維心の言う通りよ。まだ早い。我らはまだ、これから島を再編成し直し、戦力をしっかり把握して事に当たろうとしておる最中。今、碧黎に見捨てられたら、碧黎の操作がなくなり、面倒が準備もできておらぬまま向こうからやって来る事になる。月の宮が無くなり、最終的に行き場のなくなった神達が、籠るシェルターもない。全員が己の結界内に引き籠り、結界を破られない力のある者達だけが、その中でのみ生きて行ける世の中になってしまうやもしれぬ。だからこそ、今碧黎の守りが無くなるのだけは、避けねばならぬ。無理であっても、あやつに一太刀でも浴びせねば、島を諦めねばならぬようになる未来が来るやもしれぬ。無理という言葉一つで、終わらせられる事ではないのだ。」

維心は、頷いて額に手を置いた。

「…こうなってしもうたからには、励むよりない。十六夜や維月にすら敵わぬ主らが、今の時点で碧黎を下せる可能性は低い。こんなことはしておられぬ、我らは励まねばならぬ。」と、立ち上がった。「訓練場へ参るぞ。徹底的に来月まで鍛練するのだ。十六夜と維月にも、手伝わせよう。あやつらだって、月などに引きこもりとうないだろう。相手をしてくれるはず。」

志心が、言った。

「それは良いが、維月は帰さぬと言うておったではないか。恐らく、来られても十六夜だけぞ。確かにあやつも手強いが、そんなことで我らの腕が上がるのか。我らは幾分、主と立ち合うことで能力が上がる可能性はあるが、主は?主よりできるヤツを相手にするしか、主の腕が上がることはあるまい。簡単ではない。」

全員が、立ち上がって歩き出した。

「…とにかく、やるしかないのよ。」炎嘉が言った。「我らの腕を上げて、維心が碧黎と立ち合うまで、いくらか疲れさせるしか方法はない。下されるのは仕方がない。そこまで時を稼いでおけるだけの、技術を身に付けておかねばならぬ。」

そんなことができるのか。

焔が、泣き言を言った。

「弦の心地が今分かる。とにかく勝てとはなんと乱暴な話であるものか。敵わぬ相手に、どこまで食い下がれるのか、恐怖でしかないわ。」

箔炎は、焔を慰めるようにその肩に手を置いた。

「皆同じよ。だが、最終的に勝ちを任される、維心に比べたらまだマシよ。未知の強大な力相手に、とにかく勝てとは誠に酷なことよ。」

確かにそうだ。

皆が維心を見ると、維心はこれ以上はないほど険しい顔をしている。

こればかりは維心に任せるより他なく、皆がため息をついたのだった。


蒼は、帰って来た碧黎と十六夜、維月から話を聞いて、仰天した。

月に引っ越すとか言うからだ。

「ええ?!月にですか?!」

碧黎は、あっさり頷いた。

「よう考えたらもう、良いかと思うて。主も、そのように苦悩する必要もなくなる。宮を閉じるということは、外と完全に孤立するということぞ。それなのに良い時だけ交流など、もうせぬで良いのよ。なのでもう悩む必要はないぞ、蒼。」

蒼は、慌てて言った。

「そこまで良いんですって!オレは、別にもう怒ってもないし、嘉韻と話して柔軟に考えないとって思ったところなんです!維心様は、間違ってなかったんです。オレが感情的になってしまっただけで!」

碧黎は、首を振った。

「無理をせずとも良い。まあ、維心達が食い下がるゆえ、立ち合いなどという遊びをすることになったが、あれらは我には勝てぬ。無駄なことではあるが、それでも一応あれらの気持ちも考えて、段取りを踏むことにしたのだ。主も、なので引っ越し準備をしておけよ。月には何もないが、我の本体が良く見えるぞ。」

そんな観光気分になれるはずはない。

蒼は、必死に食い下がった。

「待ってください、本当に移転なんかしたくないです。オレが悪かったんです、撤回してくださいませんか。維心様に謝りに行きますから!」

碧黎は、首を振った。

「これは決まったことぞ。今さら口出しするでない。主が始めたことであるぞ?ではな。」

「碧黎様!」

碧黎は、パッと消えた。

蒼は、もうどうしたら良いのか分からなくなって、困った顔で立ち尽くす十六夜の足元で見上げて言った。

「十六夜!碧黎様を止めてくれよ、オレが悪いだけなのに!」

十六夜は、答えた。

「親父が一回言い始めたことを簡単に変えると思うか。オレ達だって、必死に止めたさ。でも聞かねぇんだからどうしようもない。維心には、勝ってもらわにゃ。」

能力も定かでない碧黎相手に?

蒼は、心底悪かった、と思った。

嘉韻自身はあんなことは訓練中にはしょっちゅうあって、むしろ最近手応えのない相手ばかりだったので、怪我をするほど追い詰められた戦いは楽しかった、と言ったのだ。

恐らく義心も同じだろうと。

それが闘神の感覚なのだと。

蒼は、理解していなかったと、反省したばかりなのだ。

より強い相手と戦うのは、軍神にとって得るものが多く願ったりなのだという。

維心も闘神なので、恐らく普通なら碧黎と戦うことは楽しいのだろうが、今回は月の宮の移転がかかっている。

碧黎が遠く離れ、守りが失くなるということなのだ。

維心は、島を背負って戦うことになってしまったのだ。

「…龍の宮に行って来る! 」蒼は立ち上がった。「維心様に謝らないと…オレ、なんてことをしてしまったんだ!」

蒼のせいだけでもないんだが。

十六夜と維月は思ったが、蒼が最近習得したパッと移動を使って目の前から消えるのを、黙って見つめたのだった。

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