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面倒なことに

維月は、十六夜と月から龍の宮で、宴の席で深刻に話し合う、神達を見下ろした。

神達は神達で、蒼を怒らせたのはまずいと思っているらしい。

どうにかして話し合いの場を持ちたいという考えであるようだ。

事情を知るこちらから見たら、蒼は己の臣下をあんな風に扱われたことに怒っただけで、他の王達とこれから断絶しようなどと思ってはいない。

考え方が違うのは理解力しているし、自分のことなら心の中で消化できた蒼も、嘉韻のことでは冷静ではいられなかっただけなのだ。

ちょっと意地になっただけだったのに、碧黎が出て来たことで一気に面倒なことになった。

十六夜は、言った。

《…どうする?言うか。どっちにしても言わなきゃ、当日いきなり親父が出て来たらみんな驚くだろうし。》

維月は、答えた。

《それはそうなんだけど、お父様は他の王達とは立ち合うとは仰られなかったのよね。維心様とだけ立ち合おうと思われてるんじゃないかしら。だって、維心様は他の王達と立ち合われても、遊んでいらっしゃるようにしか見えないし、きっと負けないと思う。そんな維心様が敵わないお父様に、他の王達が敵うはずないでしょう?無駄なことはなさらないんじゃないかな。》

十六夜は、ため息をついた。

《言われてみたらそうだな。結局、維心が死ぬ気で戦う様を蒼に見せたいわけなんだろう。でもさ、どう思う?義心相手に戦ってた他の軍神達を見て、思わなかったか?全く敵わないと思ったら、必死になるか?あいつら見た目必死だったけどよ、義心だったら仕方ねぇって空気だったじゃねぇか。維心だって、親父には敵わねぇのは最初からみんな分かってる事なんだし、ダメならダメで良いって思わねぇか?宮の序列には関係ないんだしよ。》

確かにそうだ。

維月は、頷いた。

《そうね、だったら…》

《確かにの。》碧黎の声が割り込んだ。《何か、大きな物がかかっておらねばあやつは何が何でも勝とうとはせぬわな。適当にやりおるやも知れぬ。》

十六夜は、慌てて言った。

《だからって、維月を賭けてとかダメだぞ!》

それは言いそうだ。

だが、碧黎はうんざりした声で言った。

《蒼に維心の神世に対する覚悟を見せると言うておるのに、維月ではならぬわ。維月のために必死になるのは、蒼は既に知っておる。そうだの…》と、実体が龍の宮に向かうのが見えた。「この島を賭けてもらおうか。」

《ええ?!》

維月と十六夜は、慌てて実体化しながら後を追った。

「待ってくださいませ!お父様!」

しかし、碧黎の方が速い。

二人は、必死に龍の宮へと降りて行った。


維心達が大広間でお通夜状態で話しているその目の前に、碧黎がパッと出て来た。

いきなりなので全員が呆然としていると、碧黎は言った。

「維心、蒼は納得しようと努めておるが、我は別に納得せずとも良いと思うておる。維月は主の妃であるしそこはもう良いから、この際月の宮をどこかに移転させようかと思うての。」

え、と全員が息を飲む。

維心は、言った。

「…移転とは?どこへ行くつもりよ。」

碧黎は、頷いた。

「月。」全員が、仰天した顔をした。「最近月にも人が住んでおるしな。十六夜一人でみておるが、それも心もとないと思うておったところ。そも、月の宮なのに我の上にあるのが間違いであった。あちらなら特に問題なく過ごせるし、蒼も納得せずとも良いと伝えようと思うておる。なに、我らと話せぬようになるだけぞ。太古の昔と変わらぬわ。維月は残すが、我らとの橋渡しはさせぬ。あれは月だし戻って来れるがの。ま、なので我もあちらから地上を見ることになるし、これまでほど地上を良くは見ておられぬから、主らにはそこそこ励んでもらうしかないがの。上から見たら島など小さいゆえ、どうしても全体を見る。地震なども、なので島ばかりあまり構えなくなる。主らが良いようにせよ。」

炎嘉が、言った。

「そのような!これまで主はこの島こそが主の拠点のようにして、守っておったのではないのか。それを…簡単に捨てて参るというのか。」

碧黎は、答えた。

「そも、我は地上全てが本体であって、初めから島だけ特別ではないのよ。島はたまたま拠点にしておっただけ。これからそうでなくなるだけよ。蒼は、己が悪いとか言うて、消化しようと努めておったが、あれを苦しめるのもの。もとより我ら、戦うことはせぬわけだしの。我が、そう判断しただけ。」

王達は、困惑して顔を見合わせる。

維心は、言った。

「…我の価値観は変わらぬ。我らには、戦うより他こちらを守る術がない。だが、今ここで主の加護も失くなるとなれば、島はこの潤沢な気を求めた、まだ見ぬ神に侵略される可能性が高まる。これまで、主が居ったからこそ他に見つかることなく、おかしな思いを持たせる事なくここは無事だったのではないのか。」

碧黎は、頷いた。

「よう分かっておるではないか。その通りよ。太古より、準備ができるのを待って、少しずつこちらの存在を知らしめ、対応させて世界を一つにしようと動いておった。ここは我が気の原点であり、地上に広く行き渡る気の源ぞ。知られれば、間違いなく狙って来る輩は出て参るだろう。だからその、準備を今、しておるのではないのか?」

維心は、歯軋りした。

「…まだ、早い。」維心は、唸るように言った。「まだ完璧に準備ができてはおらぬ。今来られたら、島を守りきるだけの力がない。」

主には分かるだろうの。

碧黎は、内心思った。

そう、まだ早い。

今、何かあったら島は維心の結界ぐらいしか残らないだろう。

「…ならば、主はどうしたい?我にどうして欲しいと願うのよ。」

維心は、答えた。

「…我が願うのは、これまで通りという事ぞ。蒼は月の宮の王であり、その蒼が我らを理解しようと努めておるのに主が決めて良いことではあるまい。蒼が落ち着くのを待って、我らは話し合いたいと思うておる。これまでもお互いに話して、納得してやって来た。これからもそうできるはずぞ。」

碧黎は、腕を組んで言った。

「ほう。我の加護を受けるのに、蒼が納得したら良いと主は言うのか?王とは言うても、蒼はただ主らとの兼ね合いでそう名乗っておるだけで、あれは月の力が使える存在でしかない。真実、地を守っておるのは我であるのに、我が決めて良いことではないと?」

炎嘉ですら、じっと黙っている。

他の王も、何か言って拗れてはとただ固唾を飲んで見守っていた。

維心は、碧黎を睨んで言った。

「ならばどうすれば良いと申す。我に頭を下げよと申すか。ならば、いくらでも下げようぞ。それで、島を守れるならの。」

碧黎は、首を振った。

「主に頭を下げさせようとは思うておらぬ。そんな事は何の価値もないゆえな。では、こうしよう。」と、皆を見回した。「王の立ち合いが、来月にある。その後、維心も含めた最上位と称されるここに居る炎嘉、志心、漸、箔炎、焔、駿、高彰の八人のうち、誰か一人でも我を下すことができたら、我は考えを改めて、主らを引き続き守ろうぞ。守るべきものであると、主らはその能力で我に証明して見せよ。」

全員が、息を飲んだ。

碧黎に、立ち合いで勝てと言うのか。

「そのような!」焔が我慢できずに立ち上がった。「維心でも主などに敵わぬと聞いておるのに、我らが束になっても主には敵うまいが!」

碧黎は、焔を見た。

「主、我が立ち合っておる様を見たことがあるのか。ないであろうが。それなのに、最初から諦めるのか?そんな事で、我の守りが無くなった島を、守り切れると申すのか。気も使わぬ我に、もしかしたら勝てるやもとは思わぬか。」

炎嘉が、焔の袖を掴む。

そして、鋭く首を振った。

焔がストンとその場に座り込むと、維心が言った。

「…分かった。」維心は、これ以上ないほど険しい顔で言った。「我らのうち、一人でも主に勝てば主は考えを改めるのだな?」

碧黎は、頷いた。

「我は約したことは違えぬ。確かにそう約そうぞ。」

維心は、頷いた。

「ならばそれで。」他の王達は驚いた顔で何か言いたそうだったが、維心は続けた。「だが、誰か一人でも勝ったら主には我らにこれ以上、理不尽な要求はせぬと約してもらうぞ。」

碧黎は、フッと笑った。

「良いだろう。ならば、それで。ああ、維月は感情的になるゆえ、王の立ち合いが終わるまで月の宮で預かるわ。主も、集中せねばなるまい。せいぜい励めば良い。ではな。」

碧黎は、言いたいことだけ言って、スッと消えた。

そこには、何が起こっていたのか全く知らない他の王達が歓談する声以外、何も残っていなかった。


維月と十六夜は、月から必死に降りて来て碧黎を追って龍の宮へと降りたものの、既に碧黎が話し始めているのを見て、邪魔をするのを躊躇った。

なので、仕方なく外でその様子を窺っていたのだが、何と月へと宮を移転するとか言う。

十六夜は、小声で言った。

「確かに月に人類が来ててオレ一人で見てるけどよ、なんで宮まであっちへ来させるんでぇ。軍神達は神なんだぞ。オレ達が移動させてやらにゃ、地上へ帰れなくなる。月にはマジで何にもないからよー。」

維月は、言った。

「だからお父様はわざとあんな風に言っておるのよ。維心様に本気で戦わせようと思ったら、ああでも言わなきゃ危機感もたないでしょ?本気で移転させようなんて、思っていらっしゃらないと思うけど、でも蒼は拗れるのが嫌なのに…ここまでさせて、やっぱり嘘でしたーなんて絶対腹立つと思う。私なら。」

十六夜は、言った。

「だから親父はそこんとこ考えてて、蒼は納得しようとしてるけど、親父自身が勝手にやろうと思ってるって言ってるんだよ。蒼には多分、親父も本気だって言うだろうし、蒼は本気で移転かって心配するだろう。オレ達は…知っちまってるから、多分、言うなって言われる。」

碧黎が、話を終えて王達の前から消えた。

と、思ったら、背後から声がした。

「よう分かっておるではないか。」げ、と二人が振り返ると、続けた。「帰るぞ。聞いておったなら知っておるの。維月、しばらく里帰りぞ。維心は、これで島を守るために本気で王達と立ち合いに励むだろう。主は居らぬ方がむしろ好都合なのだ。さ、参る。」

維月は、訴えるように言った。

「でも、お父様…!」

だが、それを言い終わらない間に、三人はその場から、パッと消えたのだった。

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