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昔と今

仁弥の琴は、確かにとても素晴らしかった。

琴ならどんな物でも弾きこなし、笛もできるし笙すらこなす。

最初に和琴の独奏を聞かせてから、後は皆との合奏で、曲に合わせて楽器を換えながら、それは演奏に貢献した。

その様はそれは楽しげで、とても場に溶け込んでいた。

そうこうしている間に日が傾いて来たので、仁弥は言った。

「これほどの手練れの方々との合奏は初めてで、楽しくてつい時を忘れてしまい申した。我はそろそろお暇せねば。」

炎嘉が、言った。

「何を言うのだ。泊まれば良いぞ。着物は準備させようぞ。主の腕は誠に良い。」

維心も、頷いた。

「そうよ。主は本日の宴の功労者よ。」

仁弥は、苦笑した。

「そのように申してくださるのはありがたい事ではありますが、宮を放置して取るものとりあえず来てしまい申したので。本日はこれで。またの機会がございましたら。」

焔が言った。

「もう、こやつを二番目にしてしもうたら良いのだ。毎年呼べるではないか。知らぬでおったのが惜しいほどよ。これほど優秀な奴はそうおらぬぞ?」

乱暴な話に、仁弥は目を丸くしたが、さすがに志心が言った。

「こら。落ち着け。とりあえず、立ち合いの件でも励んだら考慮に入れよう。」

それには、渡が言った。

「ああ、ならば仁弥はそこそこやるぞ。」え、と皆が渡を見る。渡は続けた。「考えてもみよ、こやつが正月おっとりしておられるのは何故ぞ。他の宮は正月返上で大騒ぎしておるのに。腕に覚えがあるからぞ。うちの関ですら、我は正月から訓練場へ連れ込むつもりだった。どこも同じよ。だが、こやつはすぐに香を送って来たりできたのだから、宮でまったりしておったのだろう。」

仁弥は、咎めるように渡を見た。

「渡、主な。同い年で幼い頃から共に励んだとはいえ、主には敵わぬではないか。三度に一度ぐらいしか勝ちを譲ってくれぬくせに。まして、そんな若い姿になりおって。」

序列は違うが、幼馴染みらしい。

渡は、笑った。

「譲ったのではないわ。主が勝手に勝ちおったのよ。イライラさせおるゆえ、忘れとうても忘れられぬわ。」

ということは、かなりできるのだ。

つまり、仁弥の宮は三番目最下位ではあるが、恐らくその地位に甘んじていなければならなかったのは、宮の品位。

礼儀問題だったのだと思われた。

「…待て、ということは、主、もしや宮の品位の問題か?志心が見て来て、まあ三番目の下位ならそんなものかと問題ないとか言うておったが、他は問題ないのでは?」

炎嘉が言うのに、仁弥は渋い顔をした。

「ああ、あの折はやっと桂が戻って改革が進んで来ている最中でありまして。何しろ、明日香が下位から来ておって、宮が荒れると慌ててこれを覚殿に頼み込んで長年務めさせ、学んで来させたほどなので。」

志心は、ふーんと顎を触った。

「ならば、焔が言うのも乱暴な事ではないの。財政には困っておらなんだし、後は礼儀ぐらいのものであった。礼儀だけなら下位でもおかしくないと思うたが、しかし他が良いし、ならば、三番目の最下位かと。だが、桂の様を見ても今は良さそうよ。一度宮の中をまた、見せてもらえぬか。」

仁弥は、またあれかと内心面倒だったが、頭を下げた。

「は。いつなり歓迎致します。」

明日香をもっとしつけておかねば。

仁弥は思って、惜しまれながら席を立ち、亜寿美に声を掛けてから、仁弥は帰って行ったのだった。


妃達は自分達だけで話せる環境だし、このままでも問題なかったが、一度風呂に行こうと話し合い、王達に告げた。

王達も、ならば自分達もと席を立ち、暗くなって来た中で露天風呂へと向かった。

月の宮ほど開放的ではなかったが、広い露天風呂に皆が嬉々として浸かっている中、男風呂では仁弥の話で持ちきりだった。

何しろ、知らなかったのだ。

「…深く知らねば分からぬ事も多いことよ。此度のことがなければ、あやつの事も良くしらなんだ。だが、宮は多いしのう。全てをこうして調べるわけにもいかぬ。」

炎嘉が言うのに、渡がハーッと風呂の縁に両腕を乗せて浸かり、言った。

「ま、我は記憶を戻す前にあちこち遊んでおったし、主らより知っておる事は多いだろうの。」

関は、渡のそんな様にハラハラし通しだったが、黙って控えめに脇に居る。

志心は、頷く。

「少し下の序列の王達とも、このように過ごしてみるべきであるのやもな。那佐が居らねば知らぬところであったやも。立ち合いの時に、案外できるなと気付く程度で。」

渡は、チラと志心を見た。

「それも疑わしいぞ?」え、と皆が渡を見るのに、渡は続けた。「そも、主ら二番目は見ても、三番目の王達の立ち合いまで全て座って見るか。見ぬだろうが。時がかかってしようがないからの。せいぜい最後まで勝ち残った王達の、立ち合いを見るだけで判断しようと思うておるのではないのか。」

言われてみたらそうだが。

維心が、言った。

「あのな那佐、我らは忙しいのよ。そんなことに時を取っておられぬのだ。知っておるなら主、教えぬか。」

渡は、フッと息をついた。

「…まあ良い、我は立ち合い自体が好きで、あちこち指南に行って知っておる。確かに仁弥は他と抜きん出ておる。覚とて敵わぬ。ゆえ、恐らくあちらに指南するのを条件に、桂を預かってもらっていたのではと思うがの。銀令は最近旭に指南してもらって腕を上げておるが、それでもまた仁弥には敵わぬと我は見ておる。実際にあの二人が立ち合っておる様は見たことがないがの。塔矢はできるが、我には敵わぬ。ゆえに、仁弥と塔矢は対等ぐらいではないかの。」

そこまでか。

「…あれの皇子は?悠仁(ゆうじん)とか言う皇子が居ったの。」

渡は答えた。

「あれはやっとできた跡取りで、まだ二百になったぐらいぞ。とはいえ、幼い頃からかなり仁弥が厳しくしておるから、それなりにできるな。血は争えぬしの。」

ならば、次の王もできる。

焔は、言った。

「どうする。もう二番目三番目はひとからげで総当たりにするか。その中で、上位からいろいろ考慮して序列をつけて行ったらどうか。覚も仁弥に敵わぬのだろう?やらせてみなければ分からぬぞ。」

確かにそうだ。

維心は、頷いた。

「…義心に変えさせるわ。やはり財力だけでは上位につけられぬ。難しいが、厳しくすると決めたしの。ここはやるよりない。」

焔が言った。

「では、もしやその立ち合いを、全て見よと言うのか。かなり掛かるぞ、総当たりなのだからの。勝ち上がりとはわけが違う。幾日掛かると思うのよ。その間座っておれと申すか。」

炎嘉が、面倒そうに言った。

「ああ、それは時を分けて観覧しようぞ。二人ずつ、朝から区切ってその間だけ見て、後で報告し合う形でどうよ?できようが。」

焔は、渋々ながら頷いた。

「…しようがない。ではそれで。」

渡は、言った。

「主はそれだけの気を持っておるのに怠けておるのな。戦国で早々に引っ込んだのだから、これぐらいやらぬか。」

焔が驚いた顔をしたが、関が堪らず横から咎めた。

「父上!最上位の王に!失礼でありますぞ!」

渡は、フンと鼻を鳴らした。

「うるさい。我は別に序列どうのどうでも良いのだ。そんなものがあるゆえ、臣下の顔色を見てまた、王座に就かねばならぬ我の心地を考えてもみよ。最上位が何ぞ。維心には勝てると思うたことはないが、他ならやってみなければ、勝てぬと思うたことはない。」

那佐の考えがそうなのだろう。

最上位だからと、容赦ないのだ。

確かに途中で引っ込んだだけに、焔も返す言葉がなくウーと唸った。

「…清々しいほどハッキリ申す。確かにそうよ、我は逃げた。分かったわ、精査ぐらいはするわ。」

渡は、頷いた。

「最初からそう申せば良いのに。見ておったら維心と炎嘉ばかりにどうするどうすると、結構丸投げよな。昔と変わらぬの。」

志心が、言った。

「主は。今は何のかんの分担してやっておるが、心一つにするにはやはり、誰か決断して責任を負ってくれる者が必要なのだ。神世全てを動かしておるのだぞ。」

渡は、え、と驚いた顔をした。

「え、維心と炎嘉は責任まで負うのか?」と、二人を見た。「主ら、それで良いのか。」

炎嘉が、苦笑した。

「主は最近の我らの動きを細かくは知らぬだろう。それで何とかやっておる。正確には維心がいつも後始末ぞ。だが、皆を治めるとはそういうこと。ただ上の位にふんぞり返っておるのではない。」

渡は、真面目な顔になった。

「…主は、昔から面倒ばかりを背負うのだな、維心よ。言われた通りに戦うだけの、我とは大違いぞ。我も、考え直さねばならぬ。」

何やら分かった風な渡に、関は困っている。

維心は、ため息をついた。

「やはり主よな、那佐。ならば、我らを助けよ。王座に戻り、序列を上げ、我らの側近くで共に世を動かす助けをせよ。神世に物を言うには、やはり序列よ。そういう世に、我らがした。」

渡はしばらく維心を見つめていたが、一つ頷いて、黙り込んだ。

昔と今の記憶を探り、自分のやるべきことを模索しているのだろうなと皆は思って、それ以上何も聞かなかった。

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