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印象的な女性

 今年の話なんだけどさ、あー、どこから話せばいいかな。

 電車。

 電車乗ってるときって暇じゃん。

 だからなんとなくスマホ見ちゃうんだよね。

 おれに限らずみんなそうだろ?

 半分以上のやつがスマホ見てるし、よく見るとかなりの人がイヤホン着けてる。

 歳関係なくさ。


 SNS見てるやつが多いかな。次に動画。

 おれは漫画サイト見るんだけど、すぐ今日の更新分は見切っちゃって、見たいものがなくなるんだけど、でもなんとなくニュースめくったりしてさ。

 まさに時間潰しだよなぁ。

 意味もなく価値もない時間の過ごし方をしがちになっちまう。


 んであのときの話。

 多分5月の中頃だったと思うんだけど、仕事帰りに電車に乗ってたんだよ。

 …あぁ、電車なら毎日乗ってるよ?

 細かいこと気にするなって。

 要は仕事帰りの話ってこと。

 それでさ、その頃たまたまハマってたゲームがあってさ、何て言うんだっけああいうの。

 タクティクスゲーム?

 相手と同じ制限与えられて、じゃんけんみたいな三つ巴の有利不利があって、戦略考えて戦うやつ。

 どはまりしちまっててよ、今思い出すと無駄な時間の過ごし方したなってやっぱ思うんだけどさ、その時ははまってたんだよ。

 んで、その日も電車の中でやってたんだよ。

 おれん家の最寄り駅までは乗り換えが二回あって、最初に乗る電車は10分も経たずに乗り換えだから、二本目の電車からゲーム始めるんだよね。

 んで、その列車降りるときに画面オフにしといて、最後の電車乗ったらまた点けて再開。

 もうルーチンになってた。


 その日もおんなじ感じで電車乗ったわけだけど、いつもどおり空いてる席がなかったから、テキトーに奥に並んで立ったんだよ。ぎゅうぎゅうの満員ってわけじゃないけど、接触しない程度に並んで立ってなきゃならないって程度の込みようで。

 んで、同じ駅で乗って隣に立ったのがおれよりちょっと身長の低い女の子で、電車乗るときに「お、可愛い」って思ったんだよな。

 あ、だからどうってこともないよ。ただの感想。

 あんただって無意識に考えるだろ。

 可愛い。美人。イケメン。塩顔。

 顔じゃなきゃ身体だ。良い筋肉とか血管とか、胸と脚とかな。

 見るところは人によって、タイミングによっても違うんだろうけど、異性を見たら反射的に良し悪しの判断をしてるはずだ。

 意識してなくてもな。

 大抵、その人が視界から消えたら忘れるもんだ。

 モデル級の整った顔を見たところで次の日には思い出せない。

 少なくともおれはそうだ。


 だけど、その子、電車で隣に立った可愛い女の子の顔はしっかり思い出せる。

 身長も、服装も。

 なんでかって?

 その話を今してるんだよ。

 忘れられるなら忘れたいくらいなんだけどよ。


 あー…スマホゲームな。

 隣に立ってる人のことなんてそれ以上気にせずにゲームを再開してさ、そっからずっと集中してた。

 人の乗り降りは出入口付近だけだったから、奥の方って結構動きがないんだよ。

 だいたい降りる駅が遠くて乗りっぱなしのやつが多いから。

 だから画面にかじりつくようにずっとプレイできた。

 んで、切りの良いところでハッと気づいたんだよ、今どこまで来たかわからないって。

 車内放送も聞いてなかったし。

 じゃあ次の放送聞くかぁと思った。

 そう思いながら外を見ようとしたら、夜だから景色もほとんど見えなかったんだよな。

 代わりに、窓が鏡みたいになって薄く電車の中を写してた。


 ふと、なんとなーく思い出したんだよな。

 隣の女の子可愛かったなって。

 そんなにはっきりと考えたわけじゃなくて、なんとなーくよぎっただけなんだよ。

 反射的に目が動いた感じで、顔を上げてから1秒にもならないくらいのことだ。

 ちょうど窓が鏡になってるから窓越しに顔を見たんだよ。


 それで、

 目が合ったんだ。

 びっくりして目をそらした。

 いや、目が合うなんて珍しいことじゃないよな。なんとなく誰かを見たらさ、視線を感じたその人がこっちを見て、こっちが目をそらす。

 よくあることだ。

 ただ、先にあっちがおれを見てたみたいで、それか、同時だったのかもしれないけど。

 見た瞬間目が合ったからびっくりしたんだよな。

 ま、おれが「顔を上げた」タイミングのことだ。隣にいりゃあ動きを感じるだろうし、女の子が何気なくおれを見たって不思議はないよな。

 ただちょっとばつが悪い感じがして、またスマホに戻ったんだよ。

 2、3分やったかな。

 本当に軽く操作したくらいにしてまた女の子を見たんだ。窓越しにさ。

 頭もほとんど動かさずに目だけで。


 ああ、今度は目は合わなかったよ。

 そりゃあさすがにな。

 そんな偶然2回も続かないよなぁ。


 でも、また一瞬で目をそらした。

 スマホに視線を戻した。

 慌てて。


 なんでって?


 見てたんだよ。

 おれを。

 横目で。

 じーっと。


 にらんでるとかじゃないんだ。

 ただ視ていた。

 顔は窓の方を向けたまま。

 目だけでおれを視てるんだ。

 スマホ画面じゃなく、おれの顔をだよ。


 ぞっとした。


 ゲームを続けてみたんだけど気になってさ、またちょっとしてから伺い見たんだよ、その子を。


 まだ視てるんだ。

 そっから何回も確認した。

 窓を見るのも怖いけど、見ないのも怖くて。

 何回見てもじっとおれのことを視てるんだ。


 おれん家の最寄駅の二つ前の駅。

 乗り換えが多い駅なんだけど、そこで下りて行ったよ、その子。


 おれの方が先に下りるんじゃなくて良かった、って。

 それだけ感じた。


 それから一度もその子のことは見ていない。

 あとから考えたんだよな。

 おれが電車に乗ってから顔を上げるまでの間ってどうだったかな、って。

 答えはないんだけどさ、もっと周りに注意した方がいいよな。



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