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プラスで始める第二の人生  作者: あみゅーず
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9.帰途

「ねえ。王都からアルティボルトへは、どうやって行くの?」

 アキが尋ねてきた。

「早馬なら1日。馬車なら3日、かな。歩きなら4日ってとこだろう」

 俺は答えた。

「できれば、馬車で行きたい」


 俺の身の安全。それについてずっと考えてきた。

 東の森への入場権。それには大金が絡んでるはずだ。あいつがしでかした問題を俺が解決するのはこれから。そして、俺がアルティボルト領に着かなければ、領主として東の森への入場差し止めを強制することはできない。辺境伯が代理を出すにしても、効果が上がるまで時間がかかるはずだ。

 その間にこっそり東の森に侵入して荒稼ぎし、目的を果たせばいい――。そんな風に考える奴は、きっといる。つまり、俺がアルティボルト領に向かうのに、間違いなく邪魔が入るってことだ。


 俺はそれを警戒してたし、辺境伯連中もそうだったんだろう。護衛を兼ねて騎馬の一行を仕立てると言ってくれた。だけどそれはちょっと居心地が悪い。それだけじゃなくて、『新領主様ご一行』って看板をぶら下げてるようなもんだ。それを待ち構えて敵が十分な人数で襲撃してくるなら、かえって危険度は増してしまう。


 兄上の死からひと月ばかりで、東の森入場権売買を勧めた犯人。その情報伝達の速さからして、敵の手先はアルティボルト領、そして辺境伯領に潜んでいる。冒険者としての俺の素性は敵に知られていない…とは思うが。

 敵に気取られずにアルティボルト領にたどり着き、東の森に攻め入ろうとしている者の機先を制す必要がある、と。待てよ、もしかしたらこの手が使えるか?

「クリス。10年前のだけど、この手で行けるか?」

 クリスは考え込んだ。そして「大丈夫」とうなずく。よし! 



 出発に備えて、必要なものを手配する。そしてジャスティナ卿と面談して、アルティボルト領の概要を教えてもらった。さらに偽装工作を進めてもらう。

「子爵が別行動することは誰にも秘密に、だな? 承知した。騎士団を一部偽装して辺境伯領に戻らせる。辺境伯領通過の手形も別に用意した」

 ジャスティナ卿は物分かりよく、準備してくれた手形を俺に手渡してきた。

「この件は辺境伯に問い合わせる必要がない。私の裁量だけでなんとかできることだから、秘密は守られると考えてよい。騎士団にも替え玉のことはギリギリまで秘密にしておく。本当に襲撃があった場合は、損害弁済はアルティボルト持ちだな」

 俺は反対の声を上げた。

「襲撃って、その場合辺境伯領のならず者が動くってことでしょう!? 辺境伯の守備範囲ではありませんか。アルティボルト領が負担する筋合いはないのでは?」


 ジャスティナ卿は考え込んだ。

「ふむ……。ならず者の捕縛は騎士団の手柄となるであろう。ならず者が王都所属の場合、背後関係を洗う口実となれば……結果に応じて『要相談』ということだな。よかろう。しかし偽装工作の費用はアルティボルト持ちだぞ?」

 妥協は必要、だな。

「仕方ありませんが、それを口実に浪費されるのは困ります。また道中でアルティボルトの悪評を流されるのもいただけません」

「騎士団が流さずとも、マグノルトの悪評はすでに流れておるよ。ま、偽装分のかかりは実費にしておこう。騎士団の出発は本当に二日後でよいのか?」

「はい」

 俺の返答にジャスティナ卿はうなずいた。

「詳しいことは聞かぬ方が安全、ということだな? こちらは明後日の早朝に出立させる。道中の宿の手配もこれから始める。子爵がアルティボルトを正しく治めることを期待している」

 そう言い残すと、ジャスティナ卿は別れの言葉もなくさっさと席を立って部屋を出て行った。


 そっけないもんだな……。アルティボルト領の子爵と辺境伯の領宰(りょうさい)を比べれば、領宰の方が手蔓が多く振るえる権力は強いだろうが。

「スマイリー殿。お出口はこちらです」

 あっ、そうか。俺を貴族じゃなくて冒険者のスマイリー扱いすることで、秘密保持を狙ったのか! ハア、俺も気が緩んでたな……。



 翌早朝、俺たちはおんぼろ馬車で出発した。俺が縛られて放り出されてた、例のやつだ。こんなに付き合いが長くなるとは思わなかったな。

 リオのパーティーは、俺とクリスが抜けた3人のままだ。不足する攻撃力は、ゆっくり探すという。

 実はアルティボルト領には正式な冒険者ギルドはなく出張所があるだけで、正式なギルド支部は辺境伯領にしかない。新メンバーを探すのは骨だと思うんだがな……。

 まあ、リオの強運が何とかしてくれることを祈ろう。


「今日はギリギリまで行ってから、野宿よね?」

「ああ」

 すれ違う者に絡まれないよう、男は交代で歩く。アキとフィーブは交代で御者席だ。歩きながら腹の足しになる物や今晩の分の柴を拾っていくので、なかなか忙しい。今のところ魔獣に遭わないのだけは幸いだが。

 野宿の場所には、アキが念入りに魔獣除けの薬を撒いた。クリスが魔獣を探知する結界を作ってるから、より安全だけどな。


 野宿にして旅籠(はたご)を取らないのは、俺たちの足取りを掴ませないためだ。俺の身元は知られてないとは思うが、アルティボルト子爵がリオのパーティーへ依頼したことが調べられてると厄介だ。

 内緒にする手もあったんだが。あのときはオレが抜けたことで、パーティーのギルド評価を下げたくなかったからなあ……。今度から気を付けなくちゃあ。



 辺境伯領を通らず、最短距離でアルティボルト領へ。その経路を選んだおかげで、3日目の昼前には森の入り口に立っていた。魔獣との戦闘もなく、時間最短で辿り着いたんだ。


「ここからがアルティボルト領か? 思ったより早く着いたな。しかし関所がないのはいいが、良く茂った森、だよな?」

 確かに。この森は人の手がほとんど入らないからな。『鬱蒼(うっそう)』という言葉通りの森の有様だ。

「悪い。ここからは馬車で行けないから、歩きだ。馬車は森の中まで引き込んで、木の枝で隠す。馬だけ荷馬として連れて行く」

 こんな暗い森は、人の不安を掻き立てる。クリス以外の三人は、うんざりしたような顔をした。

 それでも少しでも平らな場所を選んで馬車を森へ引き込み、木の枝葉をかぶせて森の外からは見えないよう偽装。馬から余分な馬具を外して荷物をくくりつけた。

簡単に昼食を摂ると、森の奥へと出発だ。


 先頭がクリスで、次にフィーブ。その後ろがリオで、馬の手綱を取るアキが続く。最後尾が俺だ。

「できるだけ静かに。ゆっくりでいい、クリスの魔術に付いて行くんだ」

森の中の道なき道を進むのだが、クリスが灯した小さな光がふわふわと周りを取り囲み、辺りはほのかに明るい。森の雰囲気に気圧されたように全員が黙っている。馬さえも静かだ。

 手入れしてない山道で決して歩きやすくはないが、藪を切り払う必要はなく、滑るとか転ぶとかするほどではなくてほっとした。

 実はここは10年前、俺が冒険者になるために通った道だったりする。あのときもクリスと一緒で、アルティボルトからこの森経由でこっそり抜け出たんだった――。


「止まって!」

 クリスの冷たい声。逆らいようもなく止まった俺たちは突然、鳥肌が立つような恐怖を感じた! クリスの浮かべた光が風に吹かれたようにばらばらに吹き飛んでゆく。氷のように冷たい感触が、身体の中を探っているような不快感――。

「マリマルチニヤハルラ、イルマリハライシハルラハリシエ」

 早口の呪文のようなクリスの言葉。それが、(我らは森の掟に従う。この森を通り抜ける許しを求める)という意味だと、俺はもう知っている。


 身体の中の冷たさがすうっとなくなっていく。

「ゴホッ!」

 リオが急に咳きこんだ。馬も身震いして足踏みする。そんな中、クリスの光がふわふわと戻って来て、周りを取り囲んだ。

 明るさが戻ったんで皆の様子を見る。びっくりして混乱があるようだが、誰も怪我をしてる様子はない。よかった!

「出発します」

 クリスの言葉に従って、俺たちはまた歩き始めた。



「もうすぐ森が切れます」

 クリスの警告に、俺は休憩を求めた。

「森の向こうには、柵が巡らせてあって出入りが見張られている。柵がない部分は、さっきのように結界で守られてるから侵入はできない」

 俺の説明に、リオは噛みついてきた。

「あれは酷い、身体が凍り付いて死ぬかと思ったぜ! 先に説明しといてくれよ! それにしても、何でおれたちは通れたんだ?」

「クリスは通れる呪文を知ってるんだ。俺が通れるのは、領主だからだな」

 詳しいことは、リオにも伝えない。


「柵の向こうにはいつも領の騎士団が詰めてる。領主の指示には無条件で従うはずなんだが、裏切り者が混じってるかもしれん」

「わざわざ森を突っ切ってきたのに、こっから先まで危険があるのかよ!?」

 リオは呆れたように言った。アキもフィーブも不満そうな顔をしてるから同感なんだろう。

「騎士団の責任者、『砦殿』は信用できる。彼が信用できないなら、俺に領主は務まらない」

「ふうん……」


「何だか、あっち、うるさくない?」

 森の外れの方を指さして、アキが口を挟んだ。

「あたし、見て来る!」

 そう言ってたフィーブは戻ってくると、

「柵の前で、騎士団っぽい人たちとそうじゃない人たちが口争いしてるみたい」

 一触即発というわけじゃないけど、簡単には収まらない様子だという。


 一か八か行ってみるか。

 リオたちには念のため隠れててもらう。何にも言わないけど、クリスは俺に付いて来る。

 森を抜けると、柵の向こうで揉めてるのが分かった。ああ、懐かしい顔も見える。

 武器に手を掛けて口争いしていた者たちが、森から出て来た俺たちを見咎めて静かになる。俺は彼らの顔を見渡して大音声(だいおんじょう)で呼ばわった。

「アルティボルト領主のグリン・アルティボルトである! この騒ぎはなにごとであるか!?」


読んで下さってありがとうございます。

申し訳ありません。書き溜めが無くなりましたので、混和から不定期更新となっております。

続きは絶対にUPしていきますので、よろしくお願いいたします。

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