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プラスで始める第二の人生  作者: あみゅーず
2/10

2.出会い/過去

過去話です。

 そうだな、リオとも初めは揉めたっけ。すかした奴だと思って関わらないようにしてたんだ。

 それがパーティーを組むことになったのは、魔獣狩りでの出会いがきっかけだった――。



「クリス、レジス草は採取できたか?」

「できた。が、不足だ」

 今回の依頼のレジス草採取。クリスも欲しい、ということで採取に来たんだが、穴ネズミが多いせいか、十分な数のレジス草が見つからない。依頼分にも事欠くほどだ。

 虫食ったりしおれたりしてるのも合わせれば数はあるかもしれないが、「品質不良」ってことで依頼料をケチられるのは目に見えてる。それにクリスの性分では、根こそぎ採りたくないだろうし。まだ時間はあるから他の場所を探すか?


「スマイリー。誰か戦ってる」

 ん? クリスは地獄耳だ。耳を澄ませば、確かに魔物の叫び、人の声、みたいな音がする。

 開けた方に移動してみれば、物音はだんだん大きくなってきた。

 木に登って偵察すると、5人ばかりの冒険者がビッグボアを囲んで戦ってる……が、下手を打ったな。障害物の少ない空き地では、突進力があるボアの方に分がある。なんでこんなところで戦う気になったんだ?


「クリス、どうする? ボアの方が有利だが、助けないのも寝覚めが悪い」

「ギリギリまで待つ。その間に仕掛けくらいは作る」

 そい言うと、荷物を降ろして手際よく罠を作り始める。俺も身軽になって、『得物』を確認した。

 人間の方もそれなりに善戦してるようだが、相手の大きさと興奮具合にうまい手が打ててない。しかし、何であんなでかぶつと真正面から戦おうと思うのかね? あ、一人やられた!

 おいっ、逃げるなよ、パーティーなんだろ? 

 一人がやられて戦えないのを見て戦う気をなくしたのか、二人が逃げ出し始めた。ボアがそっちを追おうかと注意が逸れたすきに、残りは怪我人を岩の陰に引き込み、身を屈めてる。


 これでボアが引き上げてくれればよかったんだが。手負いになって興奮冷めやらないのか、ボアは怪我人の方に向きを変えた。

 どう見ても危なそうだな……。パーティーを見捨てて逃げ出した奴は保身に()けてるかもしれんが、仁義にはもとる。逃げるのに街への直進コースを選んでるのは、方向感覚が優れてるのか誰かに面倒を擦り付ける気なのか――。


 まあいいや。俺に利害関係はないが、メンバーを守ろうとする奴には手を貸してやりたい。今の俺なら、勝ち目は十分ある。

「クリス、あいつらに手を貸してもいいか?」

 クリスはうなずいた。この木とあいつらの距離。あまり近くはない。

「輪っか作戦。怪我しないよう戻れ」

 さすが長年の相棒だ。ツーカーで話が通じてるのは幸いだ。俺は覚悟を決めて、木から下りた。



 走り寄りながら呼びかける。

「おーい、そこの人! 加勢はいるかね?」

 太刀持ちの男が、背後に二人をかばって立ちはだかってる。ボアの突進を二度も外らして直撃を避けてるんだから、なかなかの腕なんだろう。

「頼む! 怪我人がいるんで、俺一人じゃきついんだ!」

「わかった! 報酬はしっかりもらうぜ!」


 ビッグボアの突進を正面から受け止めるなんて、普通の人間にはできっこない。挽肉になるのがおちだ。だけど人間には、魔物には無い知恵がある。そこで勝負しないと。

 地響きを立てて突っ込んでくるボアの足元に玉を投げた。すごい音を立ててボアが倒れた。ラッキー! そこへ目玉を狙ってパチンコ! ビギーッと耳をつんざく苦鳴。でかい目玉だけあって、間違いなく当たってくれたな!

 土煙をたてながら、もがいて立ち上がろうとするボア。向きを変えると、無事な片目が俺を捉えたのが見えた。よしよし、焦点は攻撃した俺に移ったな! 身をひるがえした俺は、さっきまでいた森の方向へ駆け出した。


 鋭い口笛が聞こえる。この方向、だな。

 背後から迫る地響き。ちょっ、ボアの奴、速すぎだろ! 俺は全速力で走る! 口笛がまた聞こえた。早く何とかしてくれよ!


 背後で空気の動く音がした! 巻き込まれないよう、俺はその場を転がってやり過ごす!

 ベキバキ! ブフッ、ビギ~!!

 振り返ってほっとした。右後脚に絡んだ紐が木に引っかかって、半身宙づりになった状態のビッグボアが、前足で地面を掻きながら激しくもがいていた。クリスの罠が成功したんだ!

「スマイリー! 木が細くてボアを支え切れない! とどめを早く!」

 げっ!!

 油断してた俺が剣を抜いて腹をざっくり裂いたのと、駆け寄って来たさっきの男がボアの喉を掻き切ったのはほぼ同時だったんだ。



「俺はリオネル。リオって呼んでくれ。危ないところを助けてくれてありがとう」

「俺はスマイリー。こっちはクリスだ。ひとまずこいつを解体したいんだが」

「了解。怪我人を手当てしてこっちに連れてくる」

 全面的にこっちの作戦は成功したけど、とどめは二人同時だもんな~、報酬の分け方で問題が起きるかな?


 ボアが宙づりになってるのを幸い、そのまま血抜きをする。こんなでかいの、食べではあるんだけど運ぶのが難しいよな。どれだけ持ち帰れるかな? 

 怪我した男は胸が痛むらしいが、手足の骨は無事で歩くのは大丈夫、らしい。今回はビッグボアの討伐を依頼されて、初めて5人が組んだそうだ。逃げたのは二人組パーティー。リオと薬師のアキも二人組、怪我した奴はソロだそうだ。二人組の片方がリーダーで、作戦らしい作戦もなくむやみに森に入った上、予想よりでかかったボアにビビッて追い散らされたそうだ。


 そんな今回の顛末を、ボアを解体しながらリオから聞いた。

 初対面同然な5人で組んで情報収集や作戦がいい加減なんて、命にかかわることだけに甘すぎる……。とは思うが、冒険者なんてそんな奴らが多すぎる。「馬鹿な真似したな」なんて思ってても、大人な俺は口に出したりはしない。喧嘩になるのがオチだからだ。

 忠告したって無駄だから、俺は機械的にうなずきながら手を動かしてた。俺が適当な大きさにばらした肉に、クリスが特製の粉をふりかけ、集めてきた大きな葉っぱで手際よくくるんでから、広げた革に載せていく。


「あんたら、肉どうする?」

 俺が尋ねると、リオとアキっていう女の子は申し訳なさそうにしていた。

「これだけのでかぶつ、肉全部は運びきれない。ここに残しといても獣の餌になるだけだから、あんたらが運べる分は自由に持っていけばいい」

 俺がそう言ったんで、二人は持てるだけの肉を持ってくことにした。怪我人もだ。彼はしばらく仕事が受けられなさそうだから、少しでも現金収入があるといいんだろう。逃げた二人にかける情けはないけどな!


 討伐証明の牙は切り取って、リオに渡した。リオがギルドで成功報酬をもらい、半金を俺たちによこすそうだ。俺らが報酬をもらってリオ達が罰金を払うんじゃ、差し引き損になるもんな。その代わりボアの魔石はこっちがもらう。アキって子が、

「近くでレジス草のありかを知ってる」

って言うから、それも含めて交換条件にしたんだ。



 帰り道、無事にレジス草を確保できたのはよかった。

 帰途警戒しながら、俺は今後についてリオに尋ねてみた。逃げた二人が恨みを持つような奴らだと厄介だからね。ここは俺の本拠地じゃないから、早めに他所へ出た方がいいかもしれない。


 わりかし安全な街道に出てから、リオは話しかけてきた。

「さっきのは見事だった。俺たちが5人いてもうまくいかなかったのを、あんたたちは2人だけでなんとかしたんだ。本当に鮮やかだった。初めにボアを倒した、脚元のはどうやったんだい? あれは魔術なのか?」

「いや、ただの手妻だ。音が出て、気をそらせるくらいさ」

 本当はちょっと違う。あれはクリスが作った使い捨ての魔術道具だ。叩きつけるとちょっとした衝撃があるんだが、ボアみたいにでかいのじゃ効き目はないも同然。

 あれは運がいいことに、ボアの着地した脚元にちょうど穴ぼこができたから転んでくれただけだ。いつもそんなに上手くいくわけがない。


「あの木の罠は、すごく効果があった。ボアが追っかけてきた足元に仕掛けてたんだろう?」

「ボアは勢いつけてまっすぐ走るから。あれがウルフや鹿なんかだととっさに跳びのくから、あんまり成功しない」

 俺がボアにちょっかいかけてる間に、クリスが木をしならせて手早く罠を作る。俺が走ってボアを罠のところにおびき寄せる。ボアの脚が紐の輪っかにかかったところでしなった木を元に戻せば、その勢いで宙づりになるって仕組みだ。ボアの脚が思ったより速くて焦ったぜ。


 あの罠もクリスの技術があってこそだ。木をしならせるのに普通はすごく力がいるし、丈夫な縄が必要だ。クリスは魔術師だけど万能じゃないし、できることには限界がある。クリスは息をするように自然に魔力を使うけど、目立たないように効率的に魔術を使うようにしてる。

 そう、クリスの紐は、魔術を編み込んである特別製だ。全速力のボアの脚をひっかけたくらいで切れることはない。もったいないから、今度もちゃんと回収してきた。汚れちまったから、あとできれいに洗わないとな。

 木をしならせるのは、「最適なベクトルで力をかければ楽にできる」そうだけど、チンプンカンプンでちっとも理解できなかった。俺の魔力じゃ、がんばっても種火をつけるのが精いっぱい。魔術なんて一生無理だ!


 俺はクリスの魔術について誤魔化すため、何でもないことのように話をする。

「いや、子供のころ罠を作ったりしなかったか? 鳥がエサを食べてると籠が落ちるヤツとか、落とし穴とか。そんなのの応用なだけだよ」

 規模はすごく違うけどな。


 リオはしばらく黙ってたが、思いつめたように口を開いた。

「俺はね、同郷のアキと一緒に冒険者を始めたんだ。俺は剣なら自信があるし、アキも薬師として有望だと思う。だけど組んで依頼を受けるってのが難題でね。採集系の依頼なら大丈夫だが、討伐系の依頼では攻撃力が足りない。だからほかの奴と組むことになるんだが、今回のような失敗が多くてね」

 薬師のアキは薬草の見分けができるし自分の分の薬草も採取できるので、リオが護衛してアキが採集に専念できるのは好都合だ。だけど採集依頼をこなすだけじゃ、冒険者として実入りは良くない。


 しかし小動物ならともかく、ボアみたいな大型魔獣討伐だと、非力なアキでは力不足だ。リオ一人でも難しいので、ギルドで臨時にパーティーを組んで討伐することになる。

 だが、そういう場合はろくに作戦もなく、力に任せて攻撃することが多く、連携が取れているとは言えない。素材に傷が付けば買取金額が下がるし、臨時パーティーだけに分け前でもめるのはしょっちゅうなんだとか。


「アキが今回付いてきたのは、怪我したときの用心だけじゃなくて、解体や素材の査定が上手いからなんだ。だけど他のメンバーは荷物持ちとしか考えてなくて。失敗したって思ったね」

 荷物持ち扱いじゃ、アキは十分な分け前はもらえないはずだ。薬師を仲間に入れるなら、薬をうまく使った戦い方があると思うんだが。

「君たちの戦いを見てて、目からうろこが落ちた。二人だけでも作戦を立てれば、厄介なボアでもやっつけられるんだ。俺が間違ってた。アキとパーティーを組むなら、アキの特色を生かす戦い方をするべきだったんだ!」

 うん、それは正しいと思うよ。


 だけど、次にリオが口にしたことは、全く予想外だった。

「君たちに折り入って頼みがあるんだ。これからも君たちの戦いを見せてくれないか?」

 リオはさらに力説した。

 本当なら君たちのパーティーに入れて欲しいが、今の自分達ではとても付いていけないだろう。自分達を鍛えて作戦を考え、一緒にパーティーが組めるようになりたい!


 ちょっとそれは……。変なの助けちゃったな。評価されて悪い気はしないが、それは行き過ぎだろ!?



 残念ながら宣言の通り、それから俺たちはリオたちにまとわりつかれることになるのだった――。


次は現在の話です。

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