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とある戦士と商人のお話  作者: 神宮真夜
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戦士の視点~SIDE-A

お目汚しですが楽しんで頂けんたら幸いです。


二話構成になっておりますが、中身は一話完結短編で視点が違う形です。


「リーン、今日限りでお前はクビだ」


金髪碧眼の美青年であり勇者でもあるクレスはそう言うと、目の前の女性に首を斬るような仕草をする。

それを見ながら俺は『こいつは何を言い出すんだ?』と呆れかえってしまった。



勇者パーティと言われる俺達がクエストを終えて酒場で祝杯を上げている最中、いきなり言い出したこのセリフに俺と言われた本人のリーンは唖然として動きを止めてしまった。

リーンに至っては手にした箸でつまんでいた揚げ物をポロリと落として……なおも固まっている。


「あ、あの……わ、わたしクビなんですか?」

「ああ、そうだ。 今言った通りだよ」


我に返ったリーンが慌てて聞き直すが、どうやら聞き間違いではなかったようで、クレスは再度繰り返した。

そのクレスの両腕にはそれぞれ僧侶のプリシラと魔法使いのレイが抱き着いている。


その二人は驚いた様子がない事から、恐らく二人も知っていた事の様だ。



「おい、クレス。 どうしてリーンが首になるんだ? リーンはこのパーティにとって色々貢献してきたじゃないか?」


堪らずに口を出した俺は勇者パーティに雇われている戦士だ。

冒険者としてのランクも高く、冒険者ギルド内では最上位のランクを持つ。

それ故、勇者パーティの一員として雇われていた。


そんな俺はリーンがこのパーティにどれだけ貢献していたかが分かる。

それだけにこの『クビ』宣言は意味が分からないものだった。


しかし俺の言葉にクレスは肩をすくめると、


「おいおい、イグニス。 お前それ本気で言ってるのか?」

「イ、イグニスさん……」


リーンが泣きそうな目で俺を見ている。

プリシラとレイはどうでもいい様で、クレスにすり寄って視線もずっと彼の横顔に向いていた。



「本気だ。 リーンは商人という職業ながら俺達のパーティを影から支えて来た」

「なぁ~にが『支えて来た』だ。 支えていたのは俺達じゃねーか! リーンの奴は戦えもしないし魔法も使えない。 偵察をさせれば敵に見つかり、料理や野営設営も全然ダメ。 力も体力もない……これのどこが支えて来たって言うんだ? えぇ?」

「商人には商人の戦い方って言うのがあるだろう? 事実商人としてリーンのスキルには目を見張るものがある」


この世界にはスキルという神から祝福された技能がある。

戦士の俺には『剣技』といった剣の使い方に秀でて色々な技を使えたりするものや、『頑丈』『頑健』といった傷や病気に強い身体になったりするものがあったりと、その種類は多岐にわたる。


そしてリーンには『鑑定』『幸運』『交渉』といったスキルがあった。


「リーンの『鑑定』のおかげで宝箱からのアイテムが何か分かるし、呪いが掛かっているなんてのも分かる。 『幸運』のおかげでアイテムが出やすいし、『交渉』のおかげで買い物や宿泊代を安くもしてくれている」

「だから、それこそが不要だってんだよ。 俺は勇者だ、いずれは魔王を討伐する者として国からいくらでも補助金がでるんだぜ? クエスト中のアイテムなんざ大したものはないし、買い物や宿泊代を安くする必要もねぇ!」

「あぅぅ……」


存在を否定されたように感じたのかリーンが項垂れる。


「冒険者ギルドから紹介されたから暫く様子を見ていたが……やはりお前はイグニスと違って俺達のパーティに不要だ。 分かったら荷物をまとめて冒険者ギルドに帰るんだな!」


シッシと手で追い払う様な仕草をする。


「待て、俺は納得していない。 このパーティにはリーンが必要だ」

「イグニスさん……」


クレスに言われて立ち去ろうとしたリーンの手を掴んで止めると、クレスに再度向き直る。

リーンは一瞬何か言いかけたがそのまま黙り込んだ。


「お前が必要でも俺達には必要ない。 どうしても必要ってんならお前が雇えばいいだろ? こっちはお前にしか給金を払わないがな」


それだけ言うと聞く耳を持たないと言わんばかりに両腕の二人といちゃつき始めた。



「イ、イグニスさん……いいんです。 クレスさんの言う様に私は戦闘で役に立ちませんし、旅でも足を引っ張ってばかりで……」

「いや、良くはない。 俺はリーンが頑張ってきた事を見ている。 旅の準備から武器などの手入れまでリーンは自分の時間を使ってくれてまでしていただろう? それも不平不満も言わず黙々とだ」


目を潤ませているリーンに、俺は腰の剣をスラリと抜いて見せると、


「俺のこの剣も……鏡のように磨き上げられいつでも最良の切れ味を出せるのはリーンのおかげだと思っている。 だからリーンにはこのパーティに残ってほしい」

「で、ですが……」

「クレスの言った様に、給金は俺が払おう……とはいっても以前ほど潤沢じゃないかもしれんが……」

「そ、そんなことは!! ……でもそれよりイグニスさんに迷惑が……」

「気にするな。 俺はリーンが必要だからそう言ったまでだ」


リーンほど優れた商人はいないだろうと俺は思っていた。

旅をするにしてもどうしてもお金というのは必要になるし、こういう大事な……縁の下の力持ち的な仕事をしてくれるリーンのことを俺は尊敬していた。


「わ、分かりました……ええと、では宜しくお願いいたします」

「ああ、俺からも頼む……ただ、給金だが月15万でいいだろうか? 俺も金が要りようで……少なくて申し訳ないが……」

「あ、そ、そんな! 以前の二倍近くはありますので……あ、ありがとうございます!」

「は?」


その言葉を聞いて、クレスに怒りが湧きあがる。

俺は月30万なのに……リーンには7万程度しか渡していなかったのか?

国から金が出るとか言っておいて……何て奴だ!


月15万と聞いて嬉しそうなリーンに、


「では、今日からよろしくな」

「い、いえ! こちらこそ私なんかを雇って頂いてありがとうございます!!」

「『私なんか』とか言うな。 俺はリーンの事を高く評価しているんだ」

「は、はい!」


先程から目を潤ませていたリーンだが、俺の言葉に遂に涙を溢してしまう。


「え、えへへ。 う、嬉しくてな、泣いちゃいました」

「大げさだな。 まぁリーンらしくはあるか」

「へへ……えへへ」


ゴシゴシ涙を擦りつつ鼻先を赤くしたリーンは俺を見て照れ笑いを浮かべていた。



リーンはぱっと見は地味な女性だ。

髪は焦げ茶色のおさげで顔にはソバカスが浮かび服装も地味な色を好む。

美人というよりは愛くるしい顔立ちで誰にでも好かれる。

実際どこの街に行ってもすぐにお店の人と仲良くなり、そういった所も交渉に一役買っているのかもしれない。



祝賀会という名のリーンのクビ宣言会が終わり、クレス達は三人で宿に引き上げて行った。

今から三人でお愉しみってやつだろう。

俺とリーンが雇われた時にはすでにそんな関係だったように思える。


「さて、じゃあ先に今月分の給金を渡しておく」

「え、い、いきなりですか?」

「色々入用になるだろう? 宿も個人で借りることになるし……」

「あ、そ、そうですよね」


困り顔で頭を軽く掻いている。


「それじゃ、俺は街の外に行ってくるから」

「えぇ!? こんな時間からですか? どこに??」


夜も更けて宿に戻ると思っていたのかリーンは驚きの声を上げる。


「食い物を探してくる」


それだけを伝える。


今までは宿で飯を出してもらっていたが……リーンを雇うとなると俺も節約しないといけない。

宿は宿泊だけにして飯は極力自炊しよう。

俺は俺で金が要るのだ。


「あ、あたしも行きます!」

「ん? なぜだ? 危ないかもしれないぞ?」

「だ、大丈夫です! きっと! ……多分……だったらいいな……とか」


どんどん声が小さくなるリーンに思わず吹き出してしまう。


「も~どうして笑うんですか!!」

「いや、すまん。 どんどん小声に変わっていくから面白くてな」


愛くるしい顔で口を尖らせ、


「良いです良いです! どうせ私はドジで戦闘では役立ちませんし!」

「ああ、悪かった。 それじゃ一緒に行くか? 何かあれば俺が守ってやるから」

「ふぇぇ!」


何故か一瞬で顔を赤くするリーン。

まぁどう見ても何かあれば守るのは戦士の俺だろうに……何故照れたのか分からず俺は首をひねったのだった。







街外れの森


夜ともなると薄暗く不気味さを増している。

フクロウだろうか? 遠くて鳴き声が聞こえ羽ばたきの音が聞こえて来た。



「お、これは良さそうだな」


手にした松明に照らされたキノコに手を伸ばそうとして、


「駄目ですよ! それ毒キノコです」

「え、これ食べられるウメエヨダケじゃないのか?」

「そっくりですけど、ウソツキダケって毒キノコです」

「そうなのか? でも……」

「『鑑定』したので間違いないです」


なるほど……そういえばリーンにはそれがあった。

それを聞いた俺は素直に手を引っ込める。


ドヤ顔のリーンはいつの間に取ったのか沢山になった籠の中身を見せ、


「『鑑定』があれば何でも分かっちゃいますから! 食べられる野草から薬草まで何でもござれですよ!」

「やっぱりリーンはすごいな。 俺だけだと毒キノコ食べていたかもしれん」

「あ、で、でもそれは私の所為でイグニスさんが食費を節約したからで……」

「……気付いていたのか」

「まぁ、今まで普通に宿で食べていたのが急にこれですから……さすがの私もわかります」


気を遣わせたくなくて黙っていたが……お見通しだったようだ


「……ごめんなさい。 私の所為で」

「リーンはほんとにそればかりだな。 謝ることはない、それにこれだけ食材があればたらふく食えそうだしな」


俺はリーンの手から一杯になった籠を取ると、


「じゃあ、戻って食事をしようか。 作るのは俺に任せてくれ」

「す、すみませんがお願いします」

「いや、採るのはほとんどリーンに頼りきりだったからな。 料理ぐらい出来ないと申し訳ない」

「そんなことはないですよ!」


慌てて顔の前で手を振るリーン。

なぜかリーンに料理をさせると8割の確率で爆発する。

そう、文字通り爆発するのだ。


なのでリーンの料理禁止が暗黙の了解となっていた。


街の近くまで戻り、開けた場所で早速料理を始める。

街の中では火事の恐れがあって出来ないし、宿の厨房も他の客の事があり借りることは出来ない。

自炊は街の外で作るしかないのだ。



火を焚いて水の入れた鍋を掛ける。

茸や野草を手ごろに切って一度湯に通し灰汁を抜いたら、再度新しいお湯で煮立て、そこに味噌とほしいいを入れてしばらくしたら火を止める。


「まぁ、こんなものかな?」


味付けは味噌だけの簡易的な雑炊になった。


「さて、食べようか……」


そうして椀を取り出した時、狼の遠吠えの様な物が聞こえて来た!








今の遠吠えは!!


「リーン! 早く街へ……いや、俺の側を離れるな!」


剣を抜きつつ叫ぶと同時に森の中から黒い何かがいくつも飛び出して来た!

凶暴な肉食獣スカーレットウルフだ。


黒い毛並みに赤く燃える様な瞳を持ち、集団で狩りをする狼。

普通の狼より何倍も残虐な性格で、獲物をいたぶって最後には生きたまま平らげる残忍さだ。



「ちっ! 街に戻る間もないか……」


一瞬で周りを取り囲まれる……数としては十匹程度か……

背後にしている焚き火に照らされ黒い獣が爛々と赤い目を光らせる。



「あわわ……イ、イグニスさん」


リーンが俺の背後で震える声を出す。


「リーン、焚き火を背後にして俺の後ろにいろ」


四方八方から攻められれば俺とて守り切れないかもしれない。

焚き火と俺でリーンを挟み込むように位置どる。



ガァウ!!


いきなり三方から同時に飛び掛かって来た!

厭らしい方法だ……三匹のうちどれかは必ず傷つけ様とする形。

そうして徐々に傷を付けて弱らせていくのだろう。



俺に『剣技』のスキルがなければ有効だったかもしれない。

だけど俺にはスキルがあった。



『クイックブレード』


普通ではありえない速度で剣が振るわれ三匹の狼を全て切裂いた!

三匹同時に地面に叩きつけられ動かなくなる。


「す、すごい……」


いや、リーンは何度かこの技を見ているだろうに……何故今更驚いているのか




一瞬怯んだスカーレットウルフだが、一際大きいリーダー格が吠えるとまたもや三匹で取り囲んできた。

焚き火があるおかげで背後から襲われずに済むのは助かったと言えるだろう。



そして再び三匹が……今度は緩急で時間差をつけて飛び掛かってきた!!


だが、俺の『剣技』にはそれにも対応出来る。


『トリプルスラッシュ』


三連続の斬撃が飛び掛かる狼たちを次々切り伏せていく!

そして地面に狼達三匹の骸が加わった。



俺達の周りをウロウロしていたスカーレットウルフ達は、それを見ると敵わないと思ったのか逃げ出していく。

最後にリーダー格の狼が唸り声を上げるもそのまま森の中へ走り去っていった。




「はぁぁぁぁぁぁぁ~~。 た、助かりました!」

「大丈夫か?」


腰が抜けたように地面にへたり込むリーンに手を差し出し立たせてやる。


「す、すみません。 助かったと思ったら力が抜けちゃって」

「無理もない。 リーンは戦闘時はいつも後方に下がっているからな。 こんな敵に接近することはなかっただろう?」

「は、はい。 でも、これからは私も少しは慣れるようにがんばります。 イグニスさんに雇われた身ですから!」


助かったことで安堵した彼女はその顔を崩しにへら~と笑顔を見せた。

それはとても彼女らしい姿で、


少しは元気も出た様だし……まぁ良かったか


クビにされて落ち込んでいた彼女も平常運転に戻りつつあり、ほっとしたのだった。





それからしばらくは今まで通り勇者パーティとしてクエストをこなして旅をしていた俺達だったが、ある時を境に勇者パーティから離脱することとなった。


それはクレスが俺を雇えなくなったからだった。

国から補助を受けていた彼は図に乗り、プリシラやレイに臨むものを買い与え、贅沢な暮らしをし、遂にはクエストさえ行かなくなった。

そしてそれが国王の耳に入り、国からの補助金が打ち切られたのだった。


国王曰く『勇者に贅沢をさせるためのお金ではない』とのこと。

至極最もな理由だろう。




俺が勇者パーティを抜ける時、


「イグニス行かないでくれ! 世界でも有数な戦士のお前がいないとクエストが大変なんだ!」


と泣きついて来たが、給金の事を言うと、


「金? 金は……そ、そうだ! クエストを終わらせたらその金で何とかするから……頼む!」


……悪いがそれなら自分でクエストを受けて達成した方が得だから。

そう言って別れた。


そうして『いつもはリーンが贅沢などに歯止めを掛けていたんだな~』と実感することとなったのだ。




ちなみに勇者達とはそれっきりだが、風の噂で借金して行方を眩ませたと聞いた。

三人共手配書まで出回っていたから、余程の事をしたんだろうが……もはや俺達には関係ない話だった。





その後も俺とリーンは冒険者としていくつものクエストをこなしていった。

リーンのスキルはもの凄く『鑑定』は敵の弱点までも見抜きどんな敵も容易に倒すことが出来た。

『幸運』も相まっていくつもの宝を発見し、その度にその場で鑑定も出来て必要なものだけを選択できた。

勿論それらの売却にもスキルが発揮されて毎回高値でアイテムを売ることも出来たのだった。


リーンは『私なんかには……』と毎回いうが、二人で見つけたものだからと折半してお互いに協力し合って冒険を進めて行った。






「どうしてイグニスさんはお金を貯めているんですか?」

「そうだな……リーンなら話しても良いかもな」


以前そんな質問をリーンに受けた。


「……俺は孤児でな。 ミルシュトラという街の孤児院で育ったんだ」

「えぇ!? じゃあ、ご両親は……」

「俺は両親の顔も名前も知らない。 孤児院のシスターが言うには朝、孤児院の前に捨てられていたそうだ」

「そんな……」


悲痛な顔をして早々に目を潤ませるリーン。

そんなリーンの頭を撫で、


「シスターは捨てられた俺を本当の親の様に育ててくれた。  ……でも孤児院は寄付で成り立つ。 だからいつも貧しく……でもシスターは自分の食事すら俺達に与えてくれてな」

「なんて素晴らしいシスター!」


シスターの事を褒められて、何故か俺がむずがゆく感じる。


「だから、恩返しがしたくて……冒険者になって毎月仕送りをしているんだ」

「それでお金が……」


実際毎月得る金額の三分の一は孤児院に送っていた。

でもそれでも……俺が受けた恩には到底届いていない様に感じる。


あのシスターが……孤児院がなければ俺は今こうして生きてはいないだろうから。

だから生涯かけて恩返しをするつもりだった。




この話をした五年後。

俺は冒険者を辞めた。


年齢的なものもあったが俺にはやりたいことがあったからだ。


だから、相棒のリーンにも打ち明けた。


「リーン、今までありがとうな」

「そんな! お礼を言うのは私の方です! イグニスさんが私を雇ってくれなければ、私はどうなっていたか……それにイグニスさんと一緒で、私とっても幸せでした!!」


満面の笑みで微笑む彼女は、相変わらず地味ではあるが素敵な大人の女性になった。

愛くるしい顔は艶っぽくなったようにも見え、俺は慌てて顔を逸らす。


「イグニスさんはこれからどうするんですか?」

「俺は……シスターの後を継いで孤児院を支えようと思う」



それこそが俺のしたい事で生涯を掛けた恩返しだった!




そして……もう一つ、俺はリーンに言わなければならない事がある。

孤児院の事を含めて考えると不安だった。

空を見上げると透き通るような青空。

後ろ手に握る小さな箱。



戦いとは違う緊張が俺の体をカチコチにこわばらせている。

心臓も今までにない程早鐘をうっている様に感じる。



「じ、実は……」

「あの!」


二人同時に声を発して……お互いに「あっ」という表情になる。


「あ、い、イグニスさんからで……」

「いや、リーンからでいい」


そんなやり取りが繰り返され……クスリと彼女が小さく笑う。

その姿はとても愛らしく……輝いて見えた。


リーンは私の目を真っ直ぐに見ると、コホンと咳ばらいを一つ。


「孤児院をなさるんですよね?」

「ああ」

「孤児院経営にはお金が必要じゃないですか? こ、ここに……有能な商人がい、居ますけどどうでしょうか?」


顔を真っ赤に染める彼女。

流石の俺も言わんとしている事は分かる。



「え、ちょ、ちょっとイグニスさん!」


慌てるリーンの声。

俺が彼女の前に跪いたからだ……そして大きな手の中の小さな小箱を差し出した。


「俺は経営はさっぱりだからな。 それに孤児院にも人生にも君に側にいて欲しい」

「!?」

「も、もちろん君が良ければだが……」


孤児院という場所や俺の人生に付き合わせてしまうという不安はある。

でもそれ以上に……やはり俺は彼女が好きなのだ。


きっと俺の顔は真っ赤だろう。

だが、それ以上に顔を赤くした彼女の眼から大量の涙が溢れ出す。


その笑顔に溢れた顔を生涯忘れることはないだろう。

とても綺麗だ……心からそう思った。


そして彼女は震える手で箱を受け取り言ったのだ。


「……喜んで!!!」




冒険者としての俺達の冒険は終わったかもしれない。

でも、俺達の旅はまだまだ続く。


でも俺達なら問題ないだろう。

お互いにこれ以上ないパートナーなんだから。



お読み下さりありがとうございました。


またの機会がありましたら宜しくお願いいたします。



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