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つきのは ぶきを てにいれた!

     □□□ NEPT東京Advanced Research Center □□□



 ニュー・エナジー・パートナーズ・東京、通称NEPTには魔結晶による発電技術を研究する施設が横須賀にある。

 先端研究所(Advanced Research Center)、通称「ARC(方舟)」と呼ばれるそこには、NEPTが持つ莫大な資金を惜しみなく使って世界各地から優秀な人材が集められていた。


「エドワード局長、相模大野ダンジョンで採掘された魔結晶サンプル、ご覧になりましたか?」

「ああ、良太郎。あれはすばらしい純度だな。あんなもの、10年前の初採掘時(ゴールド・ラッシュ)以来じゃないか?」


 研究所内の公用語は英語で、「結晶解析局」の局長はウェールズ出身の腕毛の濃い白人だった。

 日本人である美川良太郎研究員は両手にもったマグカップのコーヒーのうち、片方を局長のエドワードに差し出しつつ、


「魔結晶の純度は下がる一方ですからね……」

「日本の政府が躍起になって『エネルギー転換効率を上げろ』と言うのも理解できる。日本ほど極端にエネルギー政策を魔結晶に寄せた国はないからな」

「ダンジョン内における魔結晶の発生メカニズムがわからないと、魔結晶の解析はいずれにせよ詰まる気がしています」

我々には(オーバー)理解できないもの(・テクノロジー)だと言ってしまえばそれまでだがね。神出鬼没で、つい1時間前に通った場所に魔結晶が生えていた(・・・・・)と言うマイナーは後を絶たない。ああ、監視カメラを置いておきたいよ、ほんとうに」


 エドワードはしかめ面でコーヒーをすすった。


「電気製品を一切使えませんからね……電気ケーブルを引いても電気が通っていかないというのだからわけがわかりません」

「それにしても、良太郎。あの相模大野ダンジョンの魔結晶、まさかNEPTの初回採掘の取り残しってことはないんだよな?」


 公にされてはいないが、知る人は知っている。

 ダンジョンが出現した最初のころは、極めて純度の高い魔結晶が採掘されていた。

 NEPTはそれを自社で採り尽くし、その後はマイナーに開放している。


「もちろんですよ。相模大野ダンジョンが解放されてから何年経つと思っているんですか」

「それでは、NEPTすら到達できなかった深層に残っていたか?」

「そこまでは……」


 研究所内でのみ使用できる情報端末を片手で取り出すと、良太郎は内容を確認する。

 報告書は日本語で書かれているので、エドワードには読めないのだ。

 機械翻訳の精度も上がって、意味はおおよそ把握できるが、職員の「手触り感」のような部分は相変わらず人間の感覚に頼らざるを得ない。


「……10代の女性マイナーが発見したようですよ。『拾った』と言っています」

「ワオ。これは是非ともインタビューしたいな。どこで拾ったのか」

「局長。日本は性犯罪に厳しい国ですよ」

「い、いや、インタビューだよ、ただの」

「……ほんとですか? まあ、相模大野ダンジョンは第9層到達の『人生バラ色』がトップマイナーのようですし、NEPTの取りこぼしということはないでしょうね」

「『人生バラ色』? 素敵なチーム名だね」

「MD所属ですが」


 良太郎が言うと、エドワードはムッとした顔をする。

 MDとは国内最大手のマイナー・エージェントの会社である。

 マイナーの活動をサポートし、サポートする見返りに魔結晶の販売額から報酬を受け取ったりする会社だ。

 誰でも登録出来るが、MDのサポートを受けられるのはMDの審査を通った一握りのトップマイナーのみ。

 とはいえそれでも、1千人を超えるマイナーがMDのサポートを受けているという。


「連中は査定額を上げる努力ばかりするからな……」


 MDはトップマイナーたちが所属しているという影響力を背景に、MD所属のマイナーだけ魔結晶の査定を優遇するよう働きかけている。

 NEPTに対してだけでなく、国内政治家に対してもロビー活動をしているのだから侮れない。


「さっきの魔結晶を見つけた女の子は、MD所属なのかね?」

「さあ……記載はないので、違うのではないでしょうか」

「なら、なおさらインタビューせねばな」

「局長……」


 やれやれとため息をしながら良太郎はコーヒーをすすった。



     □□□



 会社を辞めてからもう半年が経ったと思うと、早いんだか遅いんだか。

 プライベートの連絡先を知っているアドフロスト社員はほとんどいなくて、念のため人事には連絡先を伝えておいたが、有給休暇の会社買い取りについての同意や、特別休暇の消滅についての形式的な連絡があっただけだった——「解雇」ではなく「自主退職」という扱いになるらしい。

 まあ、だからなんだよって話だけど。

 転職する気もない俺にとっては。

 アドフロストに友だちがいないわけじゃなくて、俺の連絡先を知っている人たちはもうみんな辞めた後だってだけなんだよな。プライベートのアドレスは松本さんにも伝えていなかったし、会社貸与の携帯電話はもちろん返却した。

 俺が会社を辞めたと知って、とっくの昔に転職していた連中は大喜びで飲みに誘ってくれた。

 その場で聞いたのは、辞めた連中はアドフロストの腐った部分をいっぱい見ていたということで、まだ在籍して、踏ん張っていた俺には教えないでいてくれたらしい。


(教えてよ……そしたらさっさと辞めてたのに)


 と思った俺。


(いや、辞めただろうか?)


 松本さんを放っておいて?


(……辞めないか)


 連絡先を知らない松本さんとはあれ以来連絡を取っていない。なんなら人事だって俺のメールアドレス以外知らないだろう。俺、引っ越したこともまだ会社に言ってなかったわ。郵便物は全部旧住所から転送されてきていた。

 まあ、未練がないと言えばウソになるけど、会社を辞めたことは事実。

 そして俺が次に始めたのは、


「ようやくだ……ようやく手に入れた」


 リビングのテーブルに置かれた、ずっしりと重い金属の筒。

 それを覆う木材は年季が入っており、持ち手の部分もつやつやしている。

 水平二連の散弾銃である。

ついに手に入れた散弾銃。使用目的は、そう……クレー射撃!


なわけはなく、ダンジョン用です。

いよいよダンジョン攻略に乗り出します。


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書籍版はアーススターノベルより2022/2/16発売します。イラストレーターはttl先生です! https://www.es-novel.jp
― 新着の感想 ―
[気になる点] 警察に怪しい態度とってたんだから銃の所持許可が出るわけない。しかも無職だし… ダンジョン用で買えるんですかね?
[良い点] ザマァ系に進まず良かった 職種も変わり交わる事が無い事を願います。
[良い点] 安易にパワーアップしないで、小市民のまま足掻く所 [気になる点] 現実だと銃以外にも弾丸の管理にも厳しいから、言えない所で打ちましたので弾数が合いませんだと逮捕されそう。 [一言] ローフ…
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