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3話 ギルドでおじさんと再会

「先輩?」

 前の席に座った爽やかな男の人が、見た目通りの声を出す。

 ウィザードさん、背が高くて、顔が小さくて、肌がきれい。色の抜けた長く明るい髪も、綺麗に整えてある。

 ただ、表情は爽やかとは離れていて、疑うようにおじさんと私を交互に見ていた。

「ち、ちがいます。変な関係じゃなくて、えっと」

 おじさんが変に思われるのは気が引けて、私が言い訳したみたいになっちゃった。

「いやあー、さっきは災難だったね。ちょっとした知り合いだよ。彼女も冒険者だってことは、知らなかった」

 おじさんは、ウィザードさんに向けて、横へと手を振りながら、そう言ってくれる。

「あの、ありがとうございました。ほんとに、おかしかったです」

「あれ、わざとじゃないんだ。まさか、あんなに綺麗に飛んでいくなんてね」

 愉快に笑うおじさんにつられて、私も笑っちゃう。スマホをトラックに轢かれた男が、倒れ込む様子を思い出しちゃった。

「久しぶりにこっちに戻ってきたと思ったら、一体なにをしてるんですか」

「どこにいても、僕は僕だよ。目の前で困ってる人がいたら、見過ごせないだろう?」

 おじさんは、当然のように言い切る。その姿はすこし、格好良かった。

 ウィザードさんは言い返せずに、頭を抱えていた。

「ほら、お友達さんが待ってるよ? 感謝は、十分伝わったよ」

 おじさんが、後ろにいる友達に手を向けながら、言った。

「あっ、はい。本当に、ありがとうございます」

 座ったまま、軽く頭を下げた。

 おじさんは、にこにこしたまま、手を振りながら言う。

「いまから潜るの?」

 私は、首を縦に振った。

「そう、ちゃんと耳飾りつけるんだよ」

 おじさんは耳についている大きな耳飾りを指す。冒険者になるともらえる耳飾りは、羽をあしらった脱出用の魔道具。片耳にクリップでつけるだけの簡単なイヤーカフで、いざというときダンジョンから逃げられる。羽のお守り(フェザーベール)の名前で、冒険者に親しまれる必須のアイテムだって、ギルドの人から説明を受けた。

 おじさんの耳飾りは、使い古したような、くすんだ色で、傷も一杯ついていた。

「ほら、ギルドナイト。なにか言うことないの?」

 おじさんが、上野を代表する魔法使いに向かって水を向けた。

「職務上、あまり個人的な肩入れはできないので・・・・・・」

 焦ったようにウィザードさんが言う。でも、こほんとせき払いをしたあと、口を開いた。

「ダンジョンのなかでは、なにが起こるか全くわかりません。いきなり水に流されたことも、上からモンスターが降ってきたことも、攻撃の通じない敵に出会ったこともあります。よくわからないことに出会ったら、まず逃げてください。命を守るための工夫をしてください。ダンジョンは広く、中で助けられることは珍しいです。ギルドまで戻ってこれば、我々ギルドナイトや他の冒険者が助けられます。絶対に、生きて、ケガなく、無理せず帰ってきてください」

 口調は静かだったけど、目には強い光を見せながら、そんな言葉をくれる。

「おおーっ、格好いいこと言うね。ボウヤ」

「もう、ボウヤは勘弁してくださいよ」

 ウィザードさんは、顔を赤くしておじさんに言った。

「でも、正直に言わないの? 低レベルのころ、上から芋虫が落ちて来て肋骨折ったって」

 おじさんが言うと、ウィザードさんが慌てて立ち上がり、おじさんの口をふさいでしまう。

「さ、さぁ。お友達が待ってます。気を付けて、行ってらっしゃい」

 早口でウィザードさんが応援してくれる。おじさんも口を手で押さえられたまま、こちらに手を振ってくれた。

 私はそんな姿に笑いながらも、手を振り返して、もう一度だけ頭を下げた後、みんなのところへ帰った。

「ごめん。おまたせ」

「ユノ、ウィザードさんと知り合いだったの? なんで言ってくれないの」

 アオイに言われて「違うよ」といった。

「うそ。あの、おじさんのほう?」

「アオイはすぐ見た目に騙されるんだから」

「だってーっ」

 アオイは、まだウィザードさんとおじさんを、見比べている。

「ユノさ、ウィザードさんと話したんだろ。なんて言ってた? いつか超えるからな、知っておきたい」

 未来のライバル宣言をするユウに、私は言った。

「ダンジョンで危ない目にいっぱいあったことあるから、気を付けて。無理はしないで帰ってきてねってさ」

「ふうん。ウィザードも大したことねーな。俺は絶対に、危ない目になんてあわない自信がある」

「そういうの、危ないからよくないよ」

 自信家のユウに、つい私は、言ってしまった。

「なんでだよー。ユノも知ってるだろ。俺、運いいし、強いんだぜ。ほら、冒険者としての職業も戦士だし」

「私、剣士だよ。違いがわかんない」

「戦士のほうが、武器がでかい。鎧が重いから、強い」

「意味わかんない」

「ロマンがわかんねーやつだな。大剣を片手でぶん振り回したりすると、格好いいだろ?」

「それは、ちょっとあるかも」

 ぎゅっと後ろから抱きしめられる。アオイだ。

「アオイ、魔法使いだから、ふたりに守ってもらうもん。ねっ、ユノ」

「うん、アオイは私が守るから」

 そっと手を重ねながら、そう言った。

「格好いいとこ、奪うなよ」

 ユウが、拗ねてる。

「ユウくん、残念でしたーっ」

「ユウの後ろついていくから、頑張って」

「よーっし、見てろよ。モンスター共をなぎ倒してやるからな」

 ギルドの受付で、ダンジョンに潜る手続きをする。タブレットに名前を書いて、連絡先も書く。私たちは高校生だから、親の連絡先も書く。しばらくすると、ダンジョンに潜る許可が出る。そこから、準備をするために、更衣室へ行った。

 ダンジョンに潜れるのは16歳から。冒険者のなかで私たちは、最年少だった。

 発行された冒険者の身分証、冒険者カードを携帯して、ICで認証される更衣室のゲートをくぐる。タッチレスの入り口は、カードを持っていないと入れないようになっていた。

 更衣室では、ロッカーのディスプレイに冒険者のIDが表示されている。自分のIDを探して、ロッカーの暗証番号を入力すると、扉が開いた。

 冒険者が入ってくるたび、その人のロッカーへと中身を入れ替えられる。さすがに、ハイテクな設備だった。

 私のロッカーは、まだ一度しか使ってない。置いてあるのも、冒険者ギルドに登録したときにもらえるファーストエイドキットの入った小さなポーチと、ショートソード。

 柄に布が巻いてある剣を取った。ずしりと重い。

 こんなの、ちゃんと振り回せるのかな。

 ギルドに登録したときのことを思い出す。

 冒険者として、私の適正は剣士だった。冒険者カードにも、職業欄に剣士と書いてある。

 一度、まじまじと自分のステータスと向き合った。


 名前 【ユノ】

 クラス【剣士】

 レベル【1】

 体力 【6+5】

 筋力 【5+5】 

 技力 【5+5】 

 素早さ【8+5】 

 知力 【6】 

 精神 【5】

 運  【10】 

 スキル【1】

【身体能力強化】


 レベル1にしては、いいステータスだってギルドの受付嬢さんに言われた。なんでも、最初からスキルを持っているのは珍しいそう。スキルは、ダンジョンに潜って成長していくうちに自然に身につけるものだから。

 そう言われても、不安だよ。

 ステータスは、ほぼ一桁だし。

 体を動かすことは好き。でも、戦うのは、うーん。

 とりあえず、着替えよ。

 剣とカードをロッカーに置いて、服を脱いで畳む。

「すきありーっ」

「っわ」

 本日、3回目。アオイが抱きついてくる。

「いい体に、なりましたなあ」

「触り方がイヤ」

 触れるか触れないかぐらいのタッチで、首やお腹、背中まで触ってくる。

 背中に、アオイの大きな胸があたる。

 見下げた私の前には、そんなに大きなふくらみはなかった。黒いブラが、頑張って肉を集めて持ち上げている。

 ほんと、不公平だと思う。アオイは可愛さも持ってて、それに胸まで。

「よいではないかぁー」

 アオイが大げさに言うと、胸をもまれる。

「やっ、もうっ」

「初心な乙女の反応よなあ。よもや、初物ではー」

 睨みつけながら、私は言う。

「アオイ?」

「ごめん」

 ぱっと手を放して、反省の色を見せるアオイ。

「ユノは隙が多いのに、ガード固いんだよ。だから、男嫌いって噂が立つのかな」

「べつに。それは本当だもん。あんまり男の人に惹かれない」

「ウィザードさんみたいなイケメンで強い人でも?」

「うん。ムリ」

 きっぱり、私は言う。アオイは「えーっ」とおもしろくない顔をした。

「でも」

 私がそういうと、アオイは目を輝かせる。

 恋に恋してるというか、コイバナが好きすぎるよ。

「さっきの、おじさん。格好いいかも」

 私が本心でそう言うと、アオイは「本気?」って青い顔をしてた。


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