7話 満身創痍
「さて。フィリオ、シル、メリカ、ポルト。クソ気に入らない奴を追放したことだし、次の依頼を受けるかよ?」
ティーレがリーナと出会い、人さらいを撃退しようと戦っている頃。SSS級パーティ『ジャイアントキリング』のメンバー達は、レングスのかけ声で慌ただしく準備を始めた。
このパーティは、基本的にレングスに合わせて動いている。いつ依頼を受けて出かけるかも、どんな依頼を受けるかも、全てレングスが独断で決定している。
「……レングス。悪い風が吹いているような気がするわぁ。今依頼に出るのは止めた方がいいと思うわぁ?」
そんな中、珍しく、本当に珍しくシルがレングスに意見を出していた。しかも、やんわりとレングスのやろうとしている行いを注意するのではなく、真っ正面から反対している。
「……なんだあ、シル。お前もティーレみたいに追放して欲しいのか?」
「……!」
しかしシルのそんな助言も、レングスは受け取らない。どころか、『追放』の言葉で逆にシルを脅していく。
「ははっ、冗談に決まってるだろ。ティーレと違ってお前は『使える』人間だ、追放なんかしねえよ。大丈夫だ、今回も心配するようなことなんてねえさ、俺がなんとかしてやるよ」
「……わかったわあ」
そしてレングスが厳しい雰囲気を消し、冗談めかしたようにそう言うが、シルは頷くことしか出来ない。レングスからすれば、ただの冗談だったのかも知れないが、シルからすれば、普通のパーティメンバーからすれば、ただ『俺に黙って従え』と言っているようにしか聞こえない。
シルは諦めて、いつもと同じように依頼へと出発する準備を始める。しかし、いつもと違うのは、後衛術師兼治療術師の彼女が、魔力回復剤を沢山用意していることだった。
◆ ◆
「……やっぱり、悪い風が吹いてるわねぇ」
レングスに忠告したシルの予感は、見事的中していた。依頼遂行どころの話ではない。依頼を行うための目的地に移動する段階で、既に『ジャイアントキリング』は疲労困憊の状況にまで追い込まれていた。
「治療魔法かけるわよぉ、とりあえずうごかないでねぇ」
「……シル、もっときちんと治せ。まだ全快じゃないぞ」
「……レングス、残念だけれど、全快にまでは回復させられないわぁ。目的地までまだ半分も来てないのに、私の魔力残量は半分を切ったわぁ。セーブしないとやっていけないわよぉ。良い風吹くといいけどねぇ」
不満げに言うレングスに対し、シルは呆れた様子で説明する。SSSランクパーティが、ランク帯で言うならばAランクのモンスターが主に出現する草原で苦戦しているのだ。どうなってるのだ、と呆れてしまうのはある意味当然だろう。
「クソッ、どうなってるんだよッ! おいフィリオ、きちんと『強化』をかけてるんだろうなッ!? 前お前より弱い『強化』持ちと通ったときにはこんなに苦労しなかったぞッ!?」
「勿論かけてるよ、リーダー。だけどよ、強力な『強化』は勿論再使用に掛かる時間も効果時間も短いんだ、常時かけっぱなしになるなんてあり得ないよ」
「……な、に? ……あいつは『強化』を常時かけっぱなしだったぞ……? どういうことだ……?」
と、考えかけてレングスは軽く頭を振る。どうせクズ冒険者だったアイツのことだ、適所適所でサボっていたに違いない。……そのサボり方のうまさだけは凄いのかもしれないが、それは褒めることも出来ないことだろう。
「チッ、分かったよ。おらお前ら行くぞッ、調子が少しぐらい悪くても、今日中には目的地に辿り着くぞゴラァッ!」
軍事的用語では、おおよそ部隊の3割が戦闘不能状態になると、『全滅』と表現するという。パーティ全員の魔力や体力が半分程度になった、割合だけ見れば『全滅』状態のSSS級パーティ『ジャイアントキリング』は、満身創痍の中進んでいったのだった。