6話 『王たる資格』
「どうなってる、の……? これ、これまでに付与して貰った『強化』と、倍率が全然違う……」
「どうなってるんだろう、な……」
リーナにそう訊かれて言葉を逃がした俺だったが、しかし心当たりは存在していた。
いや、実を言うと心当たりはそれしかないといっても過言ではない。
昨日、天使を自称する存在が告げた、俺の能力の、本当の扱い方。
名前:『王佐の才』
効果:『『王たる資格』を持つ者一人の能力を上昇。資格を持たない者の場合能力をかすかに上昇。効果発動時、自身に未来予知能力を付与』
「……ちなみに訊くんだけど……。『王たる資格』なんか、持ってないよな……?」
俺はリーナに向かって恐る恐る訊いてみる。もしリーナが『王たる資格』を持っているとしたら、あの大破壊にも説明はつく、かもしれないが……。
「……何を言ってるの? わたしは現王たる父の一人娘よ? 将来『王』になる教育も、そして覚悟も出来てるわ」
「そうだった……」
リーナの言葉に、俺は今更ながらにその事実を思い出して息を吐く。
「……ま、まあいいわ。あなた……名前、まだ訊いてなかったわね」
「ティーレで良い」
「じゃあティーレ。まずは……助けてくれてありがとうございます」
リーナは少女らしく柔らかい声色でそう言い頭を下げると、しかし次の瞬間、一転して力強い声色を以て、俺へと宣告する。
「そして、私と共に戦ってください。ティーレ、あなたにはわたしが『現王の娘』であることを知られてしまった。だから、このまま何もなしで済ますことは出来ないわ。……でも、あなたには、価値がある」
『価値がある』。その一言だけで、俺の心臓がドクン、と跳ねた。……初めてかも知れない。昨日の天使は除いて、こんなにも俺の事を、俺の能力を、評価してくれたのは。
「わたしは、わたしの『恩恵』の性質上、たくさんの『強化』を受けたことがあるの。そのわたしが断言する。あなたの『恩恵』は、世界最強の倍率なの。……だから。これから先、もしもこの人さらいをどうにか出来たら……。わたしとパーティを組んでくれないかしら?」
そして、彼女は俺に頼ってくれた。彼女の立場を知られたから仕方なしに、ではない。きちんと俺の能力を見て、パーティに組み込むべきときちんと評価を下して、俺に決めてくれたのだ。
「あなたが不得意なところは、あなたの『強化』を受けたわたしが補う。だから、あなたも『強化』と、そしてあなたの得意な分野でわたしを援護して欲しいの。さっきの戦闘……あなたの援護、とても戦いやすかった。だから、わたしは……王の娘としてではない、只の冒険者としてのリーナが、ティーレにお願いするわ。……わたしに、協力してください」
それは、レングスとは全く違う、パーティの主としての姿。俺が夢見ていた、求めていた、ずっと請い焦がれていた、人の上に立つ者としての理想像。
『王たる資格』。
俺は確かに、今は幼きリーナの在り方の中に……それを確認する。
「……ああ」
そうだ。悩む必要なんて無い。俺は今、見つけたのだ。信頼できるリーダーを。一人一人を見て、補い、声をかけることのできる存在を。
「その申し出を受けよう、リーナ。『王たる資格』を持つ者に、俺は従おう……ッ!」
急にリーナの前に跪いた俺に、リーナは困ったような顔をしながら手を差しのばしてくる。
「……もう、そんな大げさにしなくても良いのに。……これからよろしくね、ティーレ?」
彼女がそこで見せた笑顔は……先ほどまでの『リーダー』のものとは違い、とても可愛らしく、そして輝いて見えた。