表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/15

3話 その日の夜

「……クソッ、レングスの奴ふざけやがって……ッ!」


 その日の夜。俺はいつもの宿屋で、酒を飲みながら……拳を机に叩きつけていた。


「おかしいだろっ! ただパーティから俺を追い出すだけで、ここまでする必要、ないだろうがぁっ!」


 悔しくてたまらない。あんな噂を広げられたら、俺の冒険者生命は終わったも当然だ。少なくとも、この噂が風化するまではどこのパーティに入れてもらえなくなるのは確定だろう。


 そしてそんな長期間高難易度の冒険を行わなかったら、確実に冒険者としての実力は劣化する。一度劣化した実力を取り戻すのには、落とした以上の期間が必要だ。そして実力が落ちて悪い噂が過去存在した冒険者を雇うより、若く勢いのある冒険者を雇った方が、パーティ側から見ても得になる。


 つまり。


 俺は。レングス、アイツ一人のクソみたいな策略で、冒険者生命どころか。俺の一生を、メチャクチャにされたのだ。


「……本当に……ふざけんなよ……」


 ここから俺が挽回する手なんてない。SSS級パーティのリーダーと、そこから追放されたただの冒険者。どっちを皆が信じるのかは、少し考えれば分かるだろう。


 悔しくて、口惜しくて、涙が止まらない。こんな些細な事で、こんな下らない悪意で、俺の一生は、俺の人生は、完膚なきまでに破壊されたのだ。


 そんなことを考えている内に、俺は泣き疲れたのか、意識を暗闇の中に吸われていったのだった。






 ◆  ◆






 ふと、何かの気配を感じた気がした。


「ああ、ん……?」


 俺だって冒険者の端くれだ。危険な気配があったらすぐ飛び起きれるくらいに感覚は研ぎ澄まされている。しかしそうならないということは、こちらを害する気配ではない、ということだ。きっと宿屋の職員がなにか朝の準備をしているのを、鋭敏な気配が勘違いしたんだろうと俺は思う。


 だが。


 俺の寝ているすぐ側で、誰かの声が突然発生する。


「さて、干渉するとすればこの辺りでしょうか。『王佐の才』がここで消えるのは、勿体ないことなのですから」


 聞こえてきたのは女性らしき声。しかし女性の声のはずなのに、どこか無機質な響き……のような気がした。


「……女の声っ!?」


 と、そこで俺の意識も一気に覚醒する。そう、ここは借りた宿屋の中。俺以外の人間がいるはずがない、のに。


 そして、飛び起きた俺の目に入ってきたのは……天使、としか言いようのない姿をした存在だった。


「……はい?」


 背中に生えた純白の翼に、頭上には発光するリング。美貌はこの世の者とは思えないほどだったがどこか人間味がなく、絶対に生きている存在ではない、と確信できるほどだった。


「……えっと……どちらさん?」

「私は主より作られた、主の外部操作体でしかありません。貴方たちの価値観に合わせて言うなら、天使ということになるでしょうか」

「天、使……?」


 俺の問いに対し、そんな答えを返してきたそいつは、俺の戸惑いに構うことなく話を続けていく。


「私は、あなたがここで『戦力として脱落』してしまうことを防ぎに来ました。あなたの能力『王佐の才』は、主から見ても希少、かつ強力なものです。貴方という存在が戦闘を続けられる可能性が潰えるのは、主から見ても損害と言うことになります」

「は? 『王佐の才』? お前の主にとって損害? どういうことだよ」


 意味の分からない言葉を羅列するその存在は、俺のその言葉に……簡潔な答えを返してきた。


「つまり、私は貴方の希少で強力な能力、『王佐の才』の本当の効果を教えて、貴方を救済に来たのです」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ