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14話 天使の言葉

 目の前に現れたのは、人間のカタチをした、しかし人間では絶対にないモノ。美しい女性の姿のはずなのに、無機質な印象を抱いてしまうソレは、堂々とこう言い放った。


「救済の完了を確認しました。それでは、対価の要求に移ります」

「……何を言っているのかしらぁ?」


 背中に生やした翼に、頭上には光り輝くリング。形容しようとするなら、『天使』としか言いようのないナニカ。そんな存在が現れて、最初に動き出したのはシルだった。


 年の功、という奴なのだろうか。異常事態、緊急事態のショックから早く復帰することが出来た彼女は、自らの術杖(ワンド)を構えてそう言い返す。


「復唱します。救済の完了を確認しました。それでは、対価の要求に移ります。個体名:ティーレ。貴方は私の要求に応える義務があります」


 そして帰ってきたナニカの言葉に……。シルはぎょっとした目で俺の方を盗み見る。


「ティーレ、彼女となにかあったの?」

「ああ……何もなかったと言えば、嘘になるか」


 俺はリーナからの不思議そうな声色の問いにも、高速で頭を回転させながら生返事させることしか出来ない。


 救済の完了? 確かに、俺はレングスのクソみたいな策略の上で、冒険者として生きていく道を潰されるということは回避できたのかもしれない。そして、リーナとシルという、新しく、強力なパーティメンバーを得て、輝かしい未来への道を開けたのかも知れない。


 だが、それは夢で出てきたコイツとは何も関係が無いはずだ。もしあの夢が現実だったとして、コイツが行ったのは、あくまで『王佐の才』の本当の使い方を俺に教えただけのはずである。その後リーナに出会い、レングスに復讐を果たし、この先の未来を築いたのは、ただ偶然の産物のはずだ。奇跡が起きただけのはずだ。


 ……偶然。奇跡。


「……あなたは、ティーレに何の代償を支払わせにきたの?」


 俺がそんな二つの単語に引っかかり、思考を止めてしまう中、リーナがその核心を突く。そして、そんな言葉に対する『天使』の答えはこうだった。


「『王佐の才』の本当の力が使われることなく、世界に埋没してしまうことを防いだことに対する、対価です」


 埋没してしまうことを、防ぐ。つまり、『天使』が行ったのは、俺に『王佐の才』の本当の使い方を教えただけでは、ない……?


 そう。相手が本物、正真正銘の『天使』ならば。人間の手に及ばない、『神』に連なるナニカなのだとしたら。






 偶然や奇跡など、『天使』の思い通りに操作できるのではないか。





「……ッ!」


 その考えに辿り着いてしまった俺は、俺だけは、悪寒が走る。つまり、運命や幸運といった因果律を操れるなら……コイツは、やばい。勝てる可能性が一切見当たらない。もしこれを拒否して、コイツの機嫌を損なったら。消されるのは、俺たちの側だ。


 つまり。


 拒否権などないということなのか。


「それでは代償を告げます。個体名:ティーレ」


 それに気付いた俺に、絶望をかぶせるように。『天使』を名乗るソレは、その一言を残酷にも宣言する。


「あなたには、神王と魔王が争う戦争……神魔戦争に参加して貰います」


「……は?」

「……え?」

「……なにぃ?」


 その言葉に、拍子抜けしたというか、意味が分からないという風に言葉を漏らしてしまったのは、俺だけではなかったらしい。その意味合いは大きく違うだろうが。


 だって、代償というのなら。未来に関する、因果律に関する操作の対価というのならば。命とか、寿命とか、もっと重いものを想像していたからだ。


「えーと? 代償が、その神魔戦争とやらに参加する? つまり、あんた側の陣営について戦えと?」

「その通りです」


 その言葉に。俺は、この『天使』とやらから逃げる突破口を見つける。


 コイツは、わざわざ俺の『王佐の才』の能力を、言ってみれば開花させた。その代償として、俺に戦えという。


 つまり、俺の能力はコイツにとって、『利用価値がある』。そうでもなければわざわざ因果律操作とかいう、面倒くさい手段を使って俺の周辺環境を激変させる意味が無い。


 『天使』の、そして恐らく天使の後ろに居る『神』は、俺を何らかの理由で味方に付けたい。もしくは、敵に回られたくない、恩恵がこの世から消滅して欲しくない。


 それなら……これを断っても。『敵に回らない』という最低保障だけ付けて、逃してくれるのではないか?


「……断る。俺はお前に教えては貰ったが、それ以外は俺の、リーナの努力だと考えている。対価を支払えと言われる筋合いはない」

「返事確認。了承。不参加を認めます」


 そんな考えの基断った俺の言葉に、『天使』はあっさりと不参加を認める。まるで、最初からダメ元だったかのように。俺に声をかけたのはいくつかある候補の一つであるから、一つ潰れたところでどうとでもなる、と言っているかのように。


「……はは、それならまあいいだろ。消えてくれ、俺たちは依頼に行かないといけないんだ」

「了承。帰還します」


 言葉と共に、まるで溶けていくかのように姿を消していく『天使』。そしてどういうこと、と口々に聞いてくるリーナとシル。なんとかなった、と一息つきたい俺だったが……。


 しかし。最後の最後。『王佐の才』の未来予知能力で聞こえた言葉に、微かな不安を覚えるのだった。


「準備完了。誘導開始」


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