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13話 再来する、かの存在

「と、言うわけでぇ。私を採用してくれるかって話は、どうなったのぉ?」

「そういえば、そんな話の途中だったな」


 レングスの痴態を見ている間にあやふやになりかけていたが、元々はシルを俺たちのパーティに入れるかどうかの話をしていたことを、俺はシルの言葉で思い出す。


 現在地は冒険者ギルドの中。今日はパーティ登録をするために冒険者ギルドを訪れたのだが、もしシルが加入するのなら、後から追加申請をするのは面倒だ。決めるのなら今決めておくべきだろう。


「……レングスは、シルのことをどう評価しているの?」

「俺がシルをどう評価したるかって? そりゃ、まあ……優秀だとは思っているけどな?」


 シルの質問をきっかけにして、俺が後ろからずっと見ていたシルの評価が、ついつい口からこぼれ出てしまう。


 シル。エルフの後衛術師にして、回復術師を兼任する魔導師。年齢は人間の平均寿命のおよそ3倍、200才を超えている……らしい。そんな彼女だから、人間には長すぎて覚えるのが難しい高位魔法を覚えており、火力は最強クラスと言えるだろう。更にシルの凄いところは、医療魔法も攻撃魔法と同じレベルで習得している、ということだ。つまり、後衛火力役と回復役を高いレベルで兼任することが出来る、優秀すぎるほど優秀な存在。普通ならこんな発足しようとしている弱小パーティに来てもらえるような存在ではない、と思う。


「……それなら、問題ないよね? ティーレが良いなら、わたしは入ってもらって良いと思うけど……」


「ほら、ティーレ。リーナちゃんもこう言っているのよぉ? ほらほら、私をパーティに入れなさいよぉ。これは良い風吹くかもねぇ?」


 リーナのあっさりとした決断に、俺はこう言いたくなった。初めて会った見ず知らずの人を、パーティメンバー一人の個人的評価一つで、そんな簡単に入れるかどうか決めて良いのか、と。


「……いや、違うのか」

「……なんか言ったぁ?」


 しかし、俺はすぐにそれが違うことに気付く。きっと、リーナは俺の評価能力を信頼してくれているのだ。一度信頼したメンバーを信じ通す。それこそ、『王たる資格』なのだと、俺はついこの前知ったばかりだろう。


 『王佐の才』。


 それは、一般的に『王を補助する為の才能』の事を指す。武将を支える知将。将軍を補佐する軍師。リーダーに忠言するブレーン。そういった、誰かの上に立つべき人間を、助言や意見という形で助けることが出来る、非常に珍しい才能。だってそうだろう。上に立つ者は、常に敵対者をかかえ、周囲に寝返られる可能性に怯えながら日々過ごしている。そんな中、唯一完全に心を許すことができ、そして常に的確な助言を出してくれる存在というのは、とても貴重なものなのだろうから。


 そんな才能を得てしまった俺は、リーナの信頼に応えるべきなのだ。


「ああ、分かった。シルをパーティに入れよう。よろしくな、シル」

「やっぱり入れたわぁ。ありがとうねぇ、良い風吹いてるわぁ」

「よろしくね、シルさん!」


 決断した言葉を二人に告げて、俺は歓迎の言葉をシルへ伝える。嬉しそうに微笑むシルと、歓迎するように挨拶するリーナ。そんな二人の様子を見ながら、俺は冒険者ギルドのカウンターに向かう。


「……ところで、ティーレ。パーティの名前は決まってるの?」


 そこでリーナに一言訊かれる。その問いに、俺はもちろん、と言う気持ちを込めて、高らかに告げた。


「『王の臣下達キングス・リテイナーズ』。このメンバーに、ぴったりの名前だろ?」








  ◆  ◆






「……と言うわけで、A級パーティ『キングス・リテイナーズ』の初陣だね! ティーレ、シルさん、よろしくお願いします!」

「ほらほらリーナちゃん、そんな畏まらなくて良いのよぉ? 私達はもう、パーティメンバーなんだからぁ。良い風吹くわよぉ?」


 俺たちは冒険者ギルドでパーティ登録をすませ、さらにはパーティ初めての依頼を受けて、出発しようとしている所だった。街の外へと続く門へ向かう道すがら、ポーションなど必要な物資を買い込んで準備を整えていく。



 シルとリーナの楽しそうな会話を聞きながら、門番の衛兵に冒険者登録証を見せ、街を覆う壁の外に出る。いつもと変わらぬ、冒険者としての生活。


 そんな時、だった。


 背中に氷を突っ込まれるような悪寒が突然走る。それは、『王佐の才』による『未来予知』が起こる前徴。俺は『何かが起こる』ことだけ理解して、二人に警告を飛ばすことなど出来ずに未来の光景を幻視してしまう。


「なん……だと……?」

「……え、ティーレ?」

「どうしたのかしらぁ?」


 リーナとシルが、突然漏らした俺の声に不思議そうな顔をして聞き返す中。俺の予知した未来通りに、それは現れる。現れてしまう。夢だと思っていた、あの不思議で信じられない存在が、再び。


 それは、人のようでありながら、人ではなかった。特徴的なのは背中に生えた純白の翼に、頭上には発光するリング。形容するなら『天使』としか言い様のないそれは、無機質な女性の声で……明らかに俺に向かって、告げる。


「救済の完了を確認しました。それでは、対価の要求に移ります」


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