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12話 レングスの終わり

「『猛虎の激爪』……ッ!」

「『王佐の才』。外形変容(マギ・トランス):大楯」


 シルとリーナ。二人の女性を巻き込むわけには行かないと、突進するレングスを見て前へ飛び出した俺は、シールドを形成して地面へと突き刺した。直後、レングスの爪剣(クロー)が蒼き魔力の楯にぶつかり、その威力を殺される。


「ティーレ……ッ! お前が、お前がお前がお前が……ッ!」

「自業自得だ、そのまま果ててろッ!」


 至近距離で工作する視線。短く会話を交わした俺は、力任せに楯を振るい、レングスを強引に押し返す。


 俺が扱っているのは、杖剣を核にして魔力で練られた楯だ。『外見変容(マギ・トランス)』で作った武器全般に言えることだが、一定ランク以下の物理攻撃は完全に無効化出来る。その代わり、魔力干渉にはとても弱いという弱点もあるのだが。……完全物理特化型のレングスを相手するには、全く問題ない。


 それにしても、レングスは本気で正気を失っているようだ。俺を格下だとおもっているのはあるかもしれないが、元パーティメンバーで恩恵を完全把握されている相手に、無策で突っ込んでくるとは。


「ティーレッ!」

「手を出すな、リーナ。コイツは俺が片を付ける……ッ!」


 既に『王佐の才』による単体強化は、俺自身に掛け終わっている。俺自身に『王たる資格』はないため倍率はリーナの時ほどはないが……。もう一つの能力と合わせて、レングスだけを見るなら問題ない。


 次の瞬間。俺の背中に氷を突っ込まれたかのような悪寒が走る。しかしそれは、マズいという後悔の感情ではない。『未来予知能力』。俺の『王佐の才』が持つ、ぶっ壊れ能力が発動する前徴なのだから。


 そして、俺は一瞬の内にレングスが次に動く様子を幻視する。これからレングスがどのような意図を以て、どこを攻撃するか。その全てを俯瞰するように把握する。


「『ドラゴニック……』」


 それは、龍が吠えるが如く振るわれる両手の突き。レングスがモンスターに向かって放つところを、何度も見た彼の『必殺技』の一つ。当たればS級モンスターの甲殻でさえぶち破る威力のある攻撃はしかし。


「遅いッ、『バインド』」


 俺の放つ拘束魔法に阻まれる。レングスが右手首と左手首を合わせようとしたところへ命中した『バインド』は、彼の両手をくっつけ動きにくくさせる。


 こんな初級の拘束に引っかかるはずがない、と次の攻撃を準備していた俺は、少し驚いてその手を緩めてしまった。流石に俺を馬鹿にしすぎだろう。それともレングスは、『ジャイアントキリング』内で俺が戦闘をしなかったから、全く戦闘が出来ないとでも勘違いしたのだろうか。確かに俺はSSS級パーティの中から見れば、近距離戦闘は苦手な方だ。だが、相性の良い相手に蹂躙されるほど、弱いわけではない。


「この、クソ雑魚野郎が……ッ! 邪魔をするんじゃねえッ」

「お前が勝手に、雑魚だと思ってただけだろうがッ!」


 レングスが焦ったように叫ぶそこに、俺は蒼い魔力の楯を振り上げるようにして、レングスの腕を頭の上へと跳ね上げさせる。そしてがら空きになるレングスの胴体。


外見変容(マギ・トランス):杖剣」


 俺は魔力で織られた楯を元の、最も使い慣れた杖剣に戻して……その刃のない方の先でレングスの鳩尾を思いきっり殴り飛ばす。


「が、ぐ……っ」


 レングスが汚い唾を口から垂らしながら、よろよろと後退する。しかしその瞳はまだ戦意を失っていない、ように見える。ただ、痛みに耐えながらも再び飛びかかってくる様子がないことを見るに、俺を無理矢理従わせる、というのは一筋縄ではいかないことを理解したようだった。


「……これは、もう心まで折った方が良いかも知れないわねぇ」


 そんな様子を見て、シルが俺の後ろからレングスにそう呟いて、レングスに歩み寄る。

「レングス。人に頼み事があるならぁ、きちんとやり方があるでしょぅ? こんな暴力に訴えるやり方、良くないわぁ? 良くない風が吹くわよぉ?」

「うるさい、裏切り者の分際で俺に指示をするんじゃねえッ! こんな、こんなはずじゃないんだ、あの雑魚があんなに強いわけがないッ」

「その『雑魚野郎』とやらに負けたのは、誰かかしらぁ? しかもやるなら、どこか人気の無い場所でやれば良かったのにぃ、こんな公衆の面前で負けちゃってぇ」

「……ッ」


 シルもシルで鬱憤が溜まっていたのだろう。的確にレングスのプライドを抉るその言葉は、聞いているだけの俺でさえシルを敵に回したくない、と思えるほどだった。


「分かってるのぉ、レングス? 今貴方がティーレから訴えられたら、絶対に勝てないのよぉ? こんなところでやっちゃったから、証人も多いしねぇ。貴方がこの先上手くやっていこうと思ったら、ここで頭を下げておくしかないのよぉ? それも、一番誠意を表す方法でねえぇ?」

「ふざ、けんな……ッ!」


 レングスはシルの言葉に、反射的にだろうか、そう反発するが、しかしそこから動こうとしない。シルの言葉について、プライドを折ってやるべきか、それとも無視するか、悩んでいるのだろう。


 だが、悩んでいる時点で、悩まなくてはならない状況に立たされている時点で、レングスの敗北というのは明らかだ。悩んでいると言うことは、そうしないと生けない可能性があるということを認めてしまっているということに他ならないのだから。


 ……そして。


 そして、遂に、レングスはその高いプライドをなんとかねじ伏せ、頭を下げる。膝と掌を地面に押しつけ……『土下座』という形をとって。


 恐ろしいのは、こう誘導したシルは、一切『土下座しろ』とは言っていないことだろう。一番誠意を表す方法で頭を下げろ、と言っただけで、謝れとすら言っていないのは恐ろしい。


「……ティーレ、すまん。それで、オレのパーティに帰ってきてくれ……」


 レングスのその言葉は、震えていた。屈辱に身を焦がされながら、それでもなんとか紡ぎ出した言葉だったのだろう。


 だが。


 そんなレングスの気持ちを。


「断る。俺はお前と二度と関わるつもりはない」


 俺は一瞬にして、ぶち壊す。だって、何故被害者が加害者側の気持ちを考えなければならない? 殺された相手を、相手も事情があったからと、遺族何故許さなければならない? 自業自得。俺は。いや、きっと『ジャイアントキリング』のメンバーは、レングスを人生で一番と言って良いほどに恨んでいるのだから。


「……なっ! オレが、こうまでしたのに、このクソティーレが……ッ!」


 俺の言葉に、流石に自分を抑えられなくなったのだろう。レングスが再び立ち上がって、俺に殴りかかろうとする。だが、その拳が俺に届くことは絶対にない。


「おい、何をしているんだ! やめなさい!」


 レングスの後ろから、数人の衛兵が一気に飛びかかって、レングスを押さえ込んだからだ。


 こんな騒ぎをいつまでも続けていたら、街の衛兵がやってくることは、簡単に分かるだろう。そしてレングスは今、街の衛兵の前で人に殴りかかろうとした。傷害事件を起こそうとした。


 軽い罪ではあるが、『前科者』になったのは間違いないだろう。


「レングス。……さよならだ」


 俺は今までレングスにやられてきたせめてもの仕返しに、とんでもなく楽しそうな笑みを浮かべて、その場を立ち去った。


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