1話 SSSランクパーティ
「ティーレぇぇぇぇ!」
「すまんっ!」
そこは、標高2000メートル。茶色の土で覆われた火山の開けた場所で、『王国』最強格、SSSランクパーティ『ジャイアントキリング』の怒号が鳴り響いていた。
背骨を貫く悪寒に、俺が鋭く謝罪の言葉を放ちながら回避行動を取った直後、ドラゴンの鋭い鱗の着いた尻尾がさっきまで俺が居た場所をなぎ払う。
ドラゴンが次の攻撃を放つ前に、憤怒の形相をした青年が、両手に付けた巨大な爪剣をクロスさせて防御姿勢を取って俺の前に現れる。
「何やってるんだクソがッ! お前は後衛の後ろで隠れてれば良いんだ、足を引っ張るなッ!」
茶色に近い黄色の髪色。このパーティのリーダーであるレングスは、いとも簡単にドラゴンの腕による攻撃を捌きながら叫ぶ。
「すまんっ、……『トラップ』っ!」
「余計なことに魔力を回してんじゃねえッ! 自分の役割を思い出せ強化術師がッ!」
レングスの受け流しによって微かに体のバランスを崩した蒼色のドラゴンが俺の放った麻痺罠に掛かって動きを止める中、レングスは更に俺へと噛みついてきた。
「前に出るなッつってんだろ! チッ、ティーレおめえは後でまた説教だぁゴラアッ!」
動きの止まったドラゴンに極彩色の魔力榴弾が直撃し、爆発を引き起こす中、レングスはこの隙を逃すわけにはいかないと、会話を強引に切ってドラゴンの方にかけだしていく。
「……ごめんねえ、レングスも何か考えがあると思うだけどぉ。まあそのうち良い風吹くわよぉ?」
レングスがこの場を離脱するのと入れ替わるように、純白の髪に銀色の瞳をを持つ美女が俺の横に立った。さっきの高威力魔力榴弾を撃った後衛魔術師である。
「ほら、これで立てるでしょう? 私の後ろに戻ったらぁ?」
そして、俺の体を緑色の光が包む。回避行動中に追った微かな傷が癒えて体力が万全の状態に戻っていく。
「……ありがとう、シル」
その後はシル、レングス、そしてそのほかのパーティメンバーの活躍で、危なげなくドラゴンを倒すことが出来たのだった。
◆ ◆
「さて、ティーレ。なんでこんな状況になっているかは、分かっているんだろうな?」
そんなドラゴン討伐の後、俺は一人レングスに呼び出されていた。
「なあ、お前をこの『ジャイアントキリング』に入れるときに説明したよなあ? お前の能力は『強化』にしか使えないんだよ、一人二役以上を求められるSSSランクのパーティには、本来入れるはずもねえんだよッ!」
「……それは、」
「 お前がこの『ジャイアントキリング』に在籍し続けられるのは、ただ単にその強化能力の倍率が高いからだ、って言ったよなあ? はっきり言うぞ、お前はこのパーティの『お荷物』なんだよ。お前は『強化』さえしたら、後ろで縮こまってれば良いんだよ、分かったかッ?」
その言葉に対して、俺はこう言い返したくなった。全員にきちんと役割を持たせるように編成をするのが、パーティリーダーの役割じゃないのか、と。何か一芸に秀でているが、他に劣っている者を組み込んだのなら、それを考慮に入れて動くべきじゃないのか。俺に合わせて行動しろとは言わないが、お前はリーダーなんだから周りに合わせる必要は無いのか、と。
「……ああ? 何か言いたいことでもあるのかよぉ? パーティリーダーのこの俺にぃ?」
「……いや。……分かった」
だが、そんな事言えない。言えるわけがない。この傍若無人なレングスにそんな事を言ったら、どうなるか分からない。俺はその言葉を心の中に仕舞ったまま、力なく了承の言葉を告げるしかなかった。
「レングス。ドラゴンの解体、終わったわよぉ。いつでも帰還できるわ、良い風吹いてるわねぇ」
「……ああ、分かった。帰還するぞ」
まるで話を切るタイミングを窺っていたかのようなシルの言葉に、レングスは毒気を抜かれたかのようにシルへそう返す。だが俺の体には、ドラゴンに狙われたときと同じ凄まじい悪寒が体を貫いていた。
「……チッ。気にくわねえ。必ず後悔させてやる」
そんな、吐き捨てるようなレングスの言葉が……俺の耳へ微かに、しかし確かに届いていたのだから。